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隔離ありSIZRモデル 感染者とゾンビを隔離すると?

前回の記事はこちら

概要

SIZRモデルに、感染者とゾンビから移動する隔離者を新しく設定してシミュレーションを行った。その結果、感染者の隔離は人類の生存に寄与しないが、ゾンビの隔離は人類の生存を可能にすることがわかった。また、ゾンビと感染者を同時に隔離することで、最終的な生存者数を大きく向上させることが可能となる。

隔離ありSIZRモデル

前回は基本であるSZRモデルに感染者(噛まれたが、まだゾンビになっていない人間)を追加したSIZRモデルを紹介した。このモデルによると、最終的に人類が滅亡する点ではSZRモデルとは変わらないものの、SZRモデルよりもいくらか長い猶予が与えられる。
今回は実際の伝染病においても有効な手段である隔離を追加したSIZRモデルを紹介する。前2回では、ゾンビから人間へ快復する手段がなければ、ゾンビは増え続ける一方なので人類は滅亡するという事実を紹介した。今回のモデルも例外なく滅亡するのか、それとも生存の道があるのか検討したい。精々一日でも長く生き残っていこう。ちなみに、このモデルもMuntzらの論文内で紹介されている。

隔離はSIZRモデルに隔離者Qを追加することで導入される。SIZRモデルに関しては前回説明したので、被る部分の説明は省略する。

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隔離者Qに関わる矢印について説明する。
感染者とゾンビから隔離者へ矢印が延びているのは、感染者とゾンビが隔離の対象であるということを意味する。ゾンビの隔離は論ずるまでもなく必須事項で、誰も反対しないだろう。感染者の隔離も、彼らがいずれゾンビになり、人間へ牙を向くことを考えれば仕方がない。ちなみに、伝染病対策としての隔離は慎重な意思決定が必要だが、ゾンビが現れた世界でもその思想は不滅でいられるだろうか。
そして、隔離者から死体へと延びる矢印は、隔離者の末路は死のみということだ。Muntzらの意味付けによれば、隔離は決して感染者およびゾンビを一斉処分するために行われるということではなく、隔離場所から逃げたゾンビ(ずっと人間のままではいられない)を已むなく処分しているだけだということに注意したい。感染者も即処分せよと叫ぶ過激な諸兄らもいるだろうが、いつか治療法を見つけるという希望を持って隔離するのみに留めるのが人道というものだろう。

さて、感染者、ゾンビから隔離人数への移動はそれぞれの隔離速度(感染者に対してはκ、ゾンビに対してはσ)をそれぞれの人口(感染者、ゾンビ)に乗じて表されている。また、隔離者の処分も処分速度に隔離者の人口を乗じて表されている。1日当たりの人数移動がそれぞれの人口に比例しているのは、SIRモデルの除外やSZRモデルの蘇生でも見られた特徴だ。
この2つと隔離・処分を比べると、どうしても隔離・処分には人の手の介在があるように思える。特に、ゾンビを隔離するためには非感染者による捕獲が必要だと考えられる。つまり、1日あたりの隔離と処分には非感染者Sも乗じる必要があるかもしれない。

シミュレーションにあたって

それでは感染者ありSIZRモデルのシミュレーションを行おう。まずは、感染者とゾンビそれぞれの隔離が与えるインパクトを測るために、感染者のみ隔離する場合とゾンビのみ隔離する場合をシミュレーションし、比較しよう

また、伝染速度と除外速度、変化速度はこれまで行ってきたシミュレーションの中で人類が最も早く滅亡するβ=1E-4、α=1E-5、ρ=1の値をとることとする。なぜなら最悪のシナリオから盛り返した方が燃えるからだ。蘇生速度はζ=0とし、初期条件にN=10000、Z=1、S=9999、そのほかは0を選んでシミュレーションを行う。

シミュレーション① 感染者のみ隔離

それではシミュレーション結果へ移ろう。下に感染者隔離速度と処分速度を変えて実施したシミュレーション結果を示す。濃い青、オレンジ、灰色、黄土色、薄い青がそれぞれ非感染者、感染者、ゾンビ、死体、隔離者を表す。
まずは感染者の隔離のみ考慮した場合。

図2

まず非感染者(濃い青)に注目する。いずれの条件でも急転直下で数が0に向かっている。したがって、感染者のみ隔離する場合、相変わらず人類は滅亡する。また、感染者隔離速度と処分速度が大きかろうと滅亡までのタイムリミットに影響がないことも特筆すべきだろう。

次に、隔離者(薄い青)に注目する。
最上段の3つのグラフを比べると、感染者隔離速度が大きいほど、隔離者のピークが大きく、最終的なゾンビの総数が小さい。どの行の3つのグラフを比べても同じことが言える。隔離を促進しているので、前者は当然のことだろう。後者は、ゾンビへと変化する感染者の数を隔離で減らしているためだと考えられる。ただ、結局は隔離先でゾンビへと変化してしまうので、グラフの見かけ上ゾンビが少ないだけだ
次に、右の列の3つのグラフを比べてみる。処分速度が大きいほど隔離者の減少度合いが大きく、その分死体が増える一方、最終的なゾンビの総数には影響を与えないことがわかる。中央列のグラフからも一応その様子はうかがえるが、左の列ではそもそも隔離者が非常に少ないため処分速度の影響はないに等しい。処分速度の上昇にしたがって隔離者の減少と死体の増加が増えるのは当然のことと言える。最終的なゾンビの総数に影響しないのは、処分速度は感染者からゾンビへの移動には影響しないからだろう。ただし、「処分」によって絶対にゾンビにならない死体が出来上がれば、ゾンビ増加の抑制にはなるかもしれない。今回のシミュレーションでは初めから考慮していないが…。

結論を言えば、感染者はゾンビ勢力の拡大に直接かかわるわけではないため、隔離してその総数を減らしたところで人類の趨勢に影響しない。人類は滅亡する。また、処分速度はゾンビの増減に影響を与えない。

シミュレーション② ゾンビのみの隔離

次に、ゾンビのみを隔離する場合をシミュレーションした。

図3

急いで右列の3つのグラフの濃い青を見てほしい。人類が滅亡していない!なんてことだ。ゾンビの隔離は非感染者とゾンビの接触を減らすので、全人類が感染するまでにゾンビの数が0になってしまったのだろう。確かに右列のグラフを見ると早い段階でゾンビ(灰色)が0になっていることがわかる。ゾンビにもソーシャルディスタンスは有効という訳か。
ちなみに、人類が滅亡しなかった場合の最終的な人口は449人だった。初期の10000人から5%未満になってしまったが、人類の勝利であることに間違いはない。人間のくせに…。

他のグラフも見ておこう。特に、左列のグラフが気になる。というのは、人類が滅びた後に隔離によってゾンビの総数がどんどん減っているのだ。中々イメージがしづらい。自発的にゾンビがかかる罠でもあるのだろうか。人間もゾンビも滅びた世界で微笑むものは何者か。興味深い。中央列のグラフは単にゾンビの減少度合いが左列のものよりも大きいだけだ。

シミュレーション①では隔離者をゾンビとしてカウントしなければ人類の趨勢を見極めることができないことに言及した。しかし、今回のシミュレーションでは隔離者とゾンビを分別することが非常に強い意義があると示された。

シミュレーション③ 感染者とゾンビ両方の隔離

上2つのでシミュレーション①と②からわかったことは3つ。1つ、感染者の隔離は大して意味がない。1つ、隔離者の処分は全く意味がない。最後の1つはゾンビの隔離は人類生存に強く影響する。しかし、感染者とゾンビの隔離を同時に進めたとき、ゾンビの増加を抑制しながら減少を促進することになるので、人類の生存は決定的なものになってしまうのではないだろうか。

ということで、処分速度をγ=1E-2に固定して各隔離速度を変えつつシミュレーションを行おう。処分速度を固定するのは、人類の生存可否を調査するのに最も意味の薄いパラメータだからだ。

図5

非感染者(濃い青)に注目すると、右列以外ではやはり滅亡しているが、右列では感染者隔離速度が大きくなるにつれて人類の生存数が大きくなっていることがわかる。ゾンビからの恢復がなくとも隔離のみで健康な人類の十分な数の存続が可能だということだ。生き残りの数をグラフにも記しておいた。最大で2230人もの人類が生き残っている。半分未満にはなっているが、5%未満だったことを考えると、大快挙と言っていいだろう。

他のグラフも見ておこう。中央列のグラフはほとんど同じ。ゾンビのピークが若干異なるくらいか。ゾンビと感染者の隔離速度の双方が人類生存のしきい値を決めるのかと考えたが、ゾンビ隔離速度のみが人類生存を決めるらしい。そして、左列のグラフは感染者隔離速度が大きくなるほど隔離者のピークが大きい。特にコメントすることもない、平凡な人類滅亡ルートだ。

後に

前2回の結果より、ゾンビが人間に戻るすべがない限りは人類滅亡は免れぬ運命なのだと考えていた。しかし、ゾンビを隔離するだけで人類生存ルートへと舵を切ることができた。ウォームボディーズやウォーキングデッド、ワールドウォーZなどではゾンビと人間の居住区を仕切るだけで人類は生きながらえていたが、あれは科学的見地から導き出された偉大な選択肢だったのだ。デカい壁作って籠るだけで対策したと言っていいのか?とバカにして申し訳なかったと深く反省しています…。

ただ、今回の隔離ありSIZRモデルにはいささか手落ちが感じられる。まず、感染者の隔離は無限に行われないと考える。自宅待機も隔離の一種ではあるが、そうなると処分が難しい。施設を設けて隔離するとなれば、隔離者の増加に応じて感染者から隔離者への移動は小さくなるべきだろう。また、ゾンビの隔離が自発的に行われるというのも不可解だ。ゾンビの破壊と同じく非感染者との接触を伴う作業となるべきではないだろうか。
この2つを反映すると、モデルは次のように書き換えられる。


図7

感染者から隔離者への移動に-κ'Qを追加した。これにより、隔離者が増えると感染者からの隔離数が減る。また、ゾンビからの移動にはさらにSを乗じて、ゾンビの破壊同様に人間との接触が必要になるようにした。こうすればきっとまた人類は滅亡の路をたどることになるだろう。

参考

SZRモデルの論文:http://www.novapublishers.org/catalog/product_info.php?products_id=9750

ウォームボディーズ(映画.com)

ウォーキングデッド(公式)

ワールドウォーZ(映画)

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