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SIZRモデル 感染期を挟むゾンビ・パンデミックシミュレーション

前回の記事(SIRモデルとSZRモデル)はこちら

概要

SZRモデルに感染者を導入したSIZRモデルを作成、シミュレーションを行った。SZRモデルと同じように人類は滅亡するが、滅亡までの時間が大きく延びることがわかった。

SIZRモデル(感染者付きSZRモデル)

前回は基本的なSZRモデルを紹介した。しかし賢明な読者の諸君は次のことに気づいていただろう。すなわち、ゾンビに噛まれた人間が即ゾンビになっているのはおかしい、と。そう、ゾンビ映画をベースに考えると、人間がゾンビに噛まれたとしてもしばらくは人間のままだ。ゆえに、噛まれた人間が噛み傷を隠して仲間へ合流したり、温情から噛まれた人間を始末できずにむざむざ放置したり、人間社会の瓦解にバリエーションが生まれる。

それでは張り切って、SZRモデルにゾンビに噛まれた人間=感染者を追加して新しいモデルを作成しよう。なお、今回の新しいモデルはSZRモデルに関する論文の中でも報告されている。のモデルは次のように変更される。

図1

このモデルをSIZRモデルと呼ぶことにする。
まず、SZRモデルから続いてβ、α、ζをそれぞれ伝染速度、除外速度、蘇生速度とする。SZRモデルからの変更点は、ゾンビに噛まれた人間Sが感染者Iを挟んでからゾンビZへと変化する点だ。となれば、1日あたりの感染者増加数はβSZで表される。また、感染者は時間の経過とともにゾンビへと変化していくので、SIRモデルのI→Rにならい、1日当たりのゾンビの増加数は変化速度ρと感染者数Iの積ρIによって表される

モデルを作成したので、指標を持つべくまずはρ=1(感染者1人が1日に100%の確率でゾンビへ変身する)でシミュレーションを行ってみる。そのほかの条件は前回と同じく、S=9999、I=0、Z=1、R=0とする。ただし、どのみち人類は滅亡し、ζはそのあとの情勢にしか関わらないのでζ=0とする。

シミュレーション結果を下図に示す。それぞれ青色が非感染者S、オレンジが感染者I、灰色がゾンビZ、黄土色が死体Rを示している。

図2

SZRモデルと同じく、初動でゾンビを根絶するか人類が滅亡するかのどちらかしかない。しかし、SZRモデルとは異なりSもIも人間であることに留意すると、SIZRモデルでは人間の総数(S+I)がゼロになるのはSZRよりもずっと遅い(横軸に100日までではなく360日まで入っていることにも注意したい)。SZRモデルとSIZRモデルを人類にとって最悪な条件(左上の条件:β=1E-4、α=1E-5)で比較すると、SZRモデルでは20日で人類滅亡まで進むが、SIZRモデルでは30日必要となる

上記の事実をわかりやすくするために、グラフを人間(S+I)と死体(Z+R)に分けて作成したグラフを下に示す。それぞれ青色が人間、オレンジが死体を表す。

図3

SZRモデルにおいては人類滅亡は不可避の事実といえる。SZRモデルの矢印を見てわかる通り、ゾンビと死体は日に日に増える一方で人間は絶対に増えることがないからだ。しかし、少しでも人類が滅亡するまでのタイムリミットを長くすることができれば、ゾンビから人間へ戻すことやゾンビと人間が共存できるような条件を見つけられるかもしれない。

だが現実、いや映画を観てほしい。感染から変身までたっぷり1日使うような悠長なゾンビが今まで存在しただろうか。多くは(噛まれた深さにもよるが)噛まれて感染者となってから数秒から数時間でゾンビへと変化する。つまり、変身速度ρは1日あたりではなく、もっと早い1分あたりや1時間あたりで計算されるべきなのだ。
簡単に、上のグラフの横軸をdayからmin.に読み替えてみよう。すると、最悪な条件で人類が絶滅するのは長くて30分。人類にとって最も有利な条件(中央の条件:β=5e-5、α=3e-5)でも100分程度しか持たないことがわかる。たった1体のゾンビに始まるパンデミックに1万人の人間が耐えられる時間は高々2時間もないということだ。

ただし、横軸をmin.に変えたシミュレーションは人口1万人の町において市民が活発に活動する時間帯にのみ適用可能なモデルといえる。全人口が高々1万人で、分単位で人間とゾンビがまんべんなく出会うことなど世界規模ではありえないのだから。しかし言い換えれば、人口の少ない町の白昼まっただ中にゾンビが1体でも現れたとき、その町は滅亡する可能性が極めて高い。そうして次々と町が滅びると考えると、このモデルでも世界規模のゾンビ・パンデミックを予測できているのかもしれない。

次に、ρ=0.1(感染者1人が1日に10%の確率で変化する)でシミュレーションを行う。

図4

当然ながらρ=1の場合よりも人類の寿命がちょっとだけ延びただけである。やはり人類の滅亡は規定事項。すべては神の意志のままに…。
しかし驚くべきことに、右下のグラフを見ると1年たっても人類が滅亡していない!たまにはやるじゃねえか、人間!

最後に

今回はSZRモデルに感染者Iを加えたSIZRモデルを計算した。要素をひとつ足しただけなので大して複雑ではないが、それでもパラメータが増えた分シミュレーションを始めるまでに時間がかかった。あと少なくとも2回、SIZRモデルに要素を追加したモデルを論文から紹介しなければならない。そしてその次は私のオリジナルのモデルだ。エクセルでやり切るには中々きつい気がしてきた。

参考

SZRモデルの論文:http://www.novapublishers.org/catalog/product_info.php?products_id=9750
あるいは、last authorであるRobert J. Smith?のHPで無料配布されている

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