【森の哲学者】暑くなり始めたので扇風機の巻 #たそがれ木林春夫
【#暑くなり始めたときの話】
ある日の午後3時。
木林春夫さんは暑さを感じていました。
まだ5月の中旬です。
暑くなるのが、ちょっと早過ぎる気がしました。
去年はもう少し遅い時期に、暑くなり始めた気がするのです。
ただ、毎年そう感じている気もしました。
木林春夫さんは窓を開けました。
暑さは収まりません。
それどころか無風だったので、さらに暑くなりそうです。
木林春夫さんはエアコンのスイッチを入れようとしました。
でも、まだ5月の中旬です。
エアコンを使うのが、ちょっと早過ぎる気がしました。
去年はもう少し遅い時期に、エアコンを使い始めた気がするのです。
ただ、毎年そう感じている気もしました。
ここで、木林春夫さんはあることに気づきました。
つまり、毎年毎年、「暑くなるのが、去年より早いんじゃないか?」、「エアコンのスイッチを入れるのが、去年より早いんじゃないか?」と感じてきた気がするのです。
不思議でした。
なぜ毎年、バカの一つ覚えのように同じことを思うのか、木林春夫さんは考えました。
そして、2つの答えを思いつきました。
1つ目は、去年も「去年(この場合は一昨年)より早いんじゃないか?」と感じたが、そのことをすっかり忘れている。
要するに、前年に感じたことを、きれいさっぱり忘れているというわけです。
ただ、こんなことは、ありえませんでした。
木林春夫さんは、自分の記憶力に自信があったからです。
証拠もありました。
15回以上会った人なら、名字か名前かあだ名の、どれか1つは確実に覚えていましたから。
2つ目は、暑くなるのが実際に早くなっている。
つまり、平均気温が毎年少しずつ上がっている。
地球温暖化の問題でした。
こちらの方が、ありえそうでした。
木林春夫さんの心に、火がつきます。
人類全体の課題でしたが、ひるみませんでした。
解決に向けて、第一歩を踏み出します。
エアコンのスイッチを入れたいのを我慢し、さっそく押し入れから扇風機を引っぱり出しました。
電源コードをコンセントにつなぎ、スイッチを入れます。
すると生暖かいけれど、前髪をかき乱すような強風が、顔に吹きつけられました。
扇風機を出すには、まだちょっと早いかもしれないが、地球が少しずつ暖かくなっているんだから、しょうがない。
ただ、毎年毎年このぐらいの時期に、扇風機を出している気もしました。
去年はいつ頃、出したんだっけ?
というか、そもそも「暑くなるのが、去年より早いんじゃないか?」と、去年のいつ頃、思ったんだっけ?
我慢の限界でした。
木林春夫さんは扇風機に、本日の日付を書き込みます。
書くのに使ったのは、もちろん油性ペン。
これなら、いつ扇風機を使い始めたかがはっきりわかります。
きっと来年の今頃、すべてが明らかになる。
そう思うと、来年、暑くなり始めるのが、今から楽しみでしょうがなくなってくる木林春夫さんなのでした。
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