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さっちゃん争奪戦

さっちゃんは、平凡なあだ名。さっちゃんはオールラウンダー。
学校で、あだ名で級友を呼び合うことを禁止する校則が世の中に存在することを初めて知った。容姿や性格から本人の意図しないあだ名がつけられた場合、差別助長につながる可能性があるから、だそうだ。苗字で呼ぶことでフラットな付き合いを目指すらしい。

小学校のとき、クラスでさっちゃんを最初に獲得したのは、私の友人の「さちよ」ちゃんだった。誰かが彼女のことをさっちゃんと言うので、私がその仲良しグループに入れてもらったときには、もはや「さちこ」の私には選択権はなく、苗字で呼ばれたり、さっちんと呼ばれることになった。

中学生のとき、クラスのさっちゃんは、「さちえ」ちゃんだった。さちえちゃんは内部進学で小学校からずっとその名前で呼ばれているらしく、中学校から外部受験で入った少数部類の「さちこ」の私は、またしても路頭に迷うことになった。さちえちゃんと同じグループに入らなければ、私も他のグループでさっちゃんを獲得できるのだけれど、登下校の電車が一緒の方向だったりして、接する機会が多いと、「さちえ」ちゃんの友人が私を苗字で呼
び、さっちゃんは私の手元を離れて、遠いところにいってしまう。

小学校の6年の間に、あだ名に関する事件は記憶の中に2つ残っている。
一つは、クラスでちょっと太っていて、でもとても優しいS君のあだ名が「だぼで」ということが問題になった。本人は特に気にしていなそうだった(それぐらい彼は優しかった)けれど、あだ名が全部濁点なのは、かわいそうなのではないか、と議論になり、ホームルームまるまる1回使って新しいあだ名を考えることになった。みんなで考えたあだ名でよいか、S君に確認すると、「う、うん、それでいいよ」とちょっと照れ気味の小さい声で返事があった。
新しいあだ名は「たほて」だった。でも、なんか違和感がある。ちょっと柔らかくなった芋みたいな感じがする。私たちは1年近くS君のことを「だぼで」と呼んでおり、それがしっくりきすぎたのだ。すぐにS君のことを、女子は苗字で呼ぶようになり、男子は先生に怒られないようにこっそり「だぼで」を復活させていた。昼休み、校庭で軽やかに身をこなしてドッジボールをする「だぼで」は、結構かっこよかったと思うよ。
二つ目は、クラスのいじめっこが、韓国籍だった女の子に「ぶたりんご」というあだ名をつけたことだった。女の子グループは、彼女のことを名前プラスちゃんづけで呼んで、抵抗を続けた。どういうきっかけでいじめっこがそのあだ名にたどり着いたのかよくわからないけれど、命名権が自分にないと、いつなんどき「改名」の危機にさらされるか、油断ならないのである。結局誰もいじめっこには追随せず、先生の鉄拳で収束したらしい、というのを後になって母親から聞いた。卒業する最後まで、そのいじめっこは色んな女の子にあだ名をつけて回っていて、先生に怒られ続けていた。

中学校に入学したときに、驚いたのは、自分の名前にちゃんをプラスして、自分のことを〇〇ちゃんと呼んでいた子がいたことだ。彼女は誰にもあだ名命名権を渡さない。しかも独占権も保持している。これなら差別は起こらない。何せ本人が命名しているのだから。結局彼女は中高6年間、〇〇ちゃんを守り抜いて卒業した。女子ばっかりの環境で6年間マイウェイを守り抜くって相当戦闘能力高いと思うよ。

結局、さっちゃんをあまり謳歌できぬまま、社会人になり、結婚したけれど、夫が私のことを、さっちゃんと呼んでくれるので、ようやく小さな環境で、誰にも奪われることのないあだ名に安心感を覚えている。

のろけじゃないですよ、青春を違う層でやり直している感じです。


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