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あ〜、こんなとき俺が2人いたらな〜。


 めちゃくちゃ多忙なときや時間が足りないときに「あ~こんなとき俺が2人いたらな~」と思うことはないだろうか。多分、全員あると思う。
 俺は思いすぎて「あ~こんなとき俺が1ダースいたらな~」と思うまでになり、さすがに全く共感されなくなった。そのせいで今は村で迫害されている。

 冗談はさておき、実際に俺が2人になったら本当に便利なのか、それを良いことだと思うのか、それがあまりにも気になったので思い切って先月から2人になってみた。

 今回は実際に2人になった俺が、今思っている様々なことをつらつらと書いていこうと思う。


2人になってみて良かったこと


 まずどんなメリットがあったのかという点。これについては正直、ぼぼ皆の想像通りだろうと思う。

・仕事に行かなくていい日が増える

 おそらく誰しもが最初に考えるのはこれだろう。朝起きたときに「なんか今日はだるいな」と思い、布団から出たくなくて、もう1人の俺が仕事に行ってくれたらいいのに、と思う。これに関しては効果覿面だった。

 ただ働く日数が減るだけではなく、必然的に平日の5日間を交互に出勤する形になるので、仕事に行く際は「昨日しっかり休んだし今日は頑張るか」と必ず思うことができて前向きに仕事に取り組めるというメリットもある。実際に2人になってみると休みすぎてむしろちょっと働きたくなったりして、朝起きて「なんかだるいな」と思うこと自体がなくなるまでになった。肉体的な疲労が半分になると、精神的な疲労が4分の1程度になる。そんな感触だ。

・人間関係のフォローにおける手数が倍になった

 従来通り俺が1人だった場合、ゲームに熱中している間はLINEを返せなかったり、仕事中にプライベートの電話を受けられなかったり、休日の予定は1つしか入れられなかったりと、コミュニケーションにおいて様々な制限がある。そういった制限を基本的に受けなくなるので、人間関係のフォローが完璧になったのだ。

 平日であれば仕事に行っていない方の俺が四六時中レスポンスできるし、同じ日に別々の友人と遊ぶこともできるので、多忙を理由に友人と疎遠になるようなことが起きそうにもないという状態になり、非常にありがたい。また、もう1人の俺が頑張ってくれたことが俺の評価にもつながるので、何もしていない(実際にはしている)のに得をすることが増えた。

・周囲の人に「コイツいつ寝てんだろ」と簡単に思わせられる

 インターネットで人と接したり、そこでのコミュニティに属していたりする人間ならわかると思うが、基本的にインターネットにハマってる人は周囲の人間に「コイツいつ寝てるんだろう」と思われようとするという傾向がある。
  2人になると常に「明日休みの俺」になるので、夜更かしも徹夜もやりたい放題だ。

  それによって俺は働きながらにして「いつもいるおじさん」になることに成功した。これは1人しかいない場合、睡眠時間を実際に削らなければならないというデメリットとトレードオフなのだが、2人になればメリットだけを享受できる。


・ログインの時間がモノを言うゲームで無双できる

 常時接続することで課金に勝るとも劣らない恩恵を受けられるタイプのゲームではニートが偉そうにのさばっていることがあるが、同様の手法で偉そうにのさばりながらも働いて稼いだ金をぶっこめるので、そいつらを蹂躙しながら完全に無双することができる。先程の「コイツいつ寝てんだろ」と思わせられる点も相まって、完全に人外と思われるのでとても気持ちが良い。


・背中がかゆいとき

 かける。

 メリットについてはこんなところだ。意外と少ないなと思った方もいると思うのだが、その理由は後述の事項でおわかりいただけるだろう。


2人になってみて大変だったこと


 次にデメリットを挙げるのだが、結論から言うと2人になるのはマジでオススメできない。
  あまりにもデメリットがデカすぎるのだ。
  順番に1つずつ挙げていく。

・キショい

 普通、同じ人は1人しかいないので、2人もいるということをまず生理的に受けつけられない。あらゆる方法を試してみたのだが、時間の経過によってある程度慣れるにしろ、根本的に「キショい」と思うこと自体はどうしても変えられなかった。

 また、この「キショさ」は「恐怖」とも同義で、家に帰ったらいないはずの俺がいて、その俺が飯を食っている姿を見て、風呂から出てくるところを見て、髪を乾かしているところを見る。純粋に、怖すぎる。いくら無視しようとしても、たまにその恐怖で我に返ってしまうのだ。

 今後のアップデートによってもう1人の俺が俺でない見た目で存在できるようになればこの問題は解決するのだろうが、現在そのような予定はないとのことだ。


・1人しかいないように振る舞わなければならない

 普通、同じ人は1人しかいないので、周囲の人間は当然のように俺のことを1人しかいないと思っている。なので、万が一2人いることがバレようものなら大混乱を巻き起こしかねないし、最悪、研究の対象として一生どこかに監禁されるだろう。

 基本的には1人だろうが2人だろうが俺は人間なので、人権を剥奪されるようなことは起きないはずなのだが、何ぶんこの社会においては1人の人間が2人になったという前例がない。

  人々が1人の人間に対し「コイツは2人いるかもしれない」と思うことがない故に法の整備が追い付いていないだけで、俺という前例ができてしまえばどうなるかなんてわからない。

  もしも「2人になった場合、死刑」などという法律がこの国にできてしまった場合、俺は抗うことはできない。たとえこちらが普通の人よりも多い「2人」だったとしても、相手は「日本国民1.25億人」だ。勝てるはずがない。

 つまりはどう足掻いても1人しかいないものとして振る舞うことを求められるということなのだが、本当に気を付けていないと察しの良い人間には気付かれる。

  先日、同じ日の同じ時刻に俺2名が別々の場所に出かけていて、そこで同僚Aと同僚Bそれぞれと遭遇したというケースが起きた。

  幸いAもBも「普通、同じ人は1人しかいない」という前提を疑わなかったので、その日の俺のフットワークが異様に軽かったという認識を持ってもらえて事なきを得たのだが、あのときはほぼ詰みかけていたと思う。もしもAかBが柔軟な発想の持ち主だったら俺は死んでいた。


・引継ぎがだるい

 普通、自分は1人しかいないので、自分がその日やったことをもう1人の自分に引き継ぐという行為は必要にならないが、2人いる場合は必要になる。平日交互に仕事に行くのであれば、その日の仕事の内容は絶対に引き継がなければならないので、時間がかかってしまう。人間関係で起きたことについても同様で、そこを引き継がないと先述した事項のように「間の良い人間」に気付かれる可能性がある。

 様々な危険を回避するために結局この引継ぎにかなりの時間を使うので毎日イライラしてしまうというデメリットがデカすぎる。これについても、ボタンひとつで可能になるアップデート待ちだ。


・所詮、戸籍は1つしかない

 普通、自分は1人しかいないので、戸籍は1つでも足りるのだが、2人いると人間の総量に対して戸籍が足りなくなる。

  たとえば、免許証は同じ住所のものを1枚持つのが限界なので、免許の携帯を厳守するならば、せっかく2人いるのに車を2台使えない。

  せっかく2人いるのだからと2人の異性と交際していても、結婚できるのは1人なのである。こっちは2人いるのに。

  実際に2人になってみると意外とこの戸籍の縛りがきつくて、思うように自由な生活を送ることができず、その度にうんざりする。この世は2人になった人に対してかなり風当たりが強いのだ。居場所がない。

2人になるな


 正直なところ、俺は2人になってしまったことを後悔している。もちろんこれは俺がもう1人の俺を、俺が2人いるという利点を活かしきれていないだけなのかもしれない。ただ、しっかりと法律を守ったうえで何ができるかと言うと、割と何もないのだ。日常生活やその延長で2人になって初めてできることって、もう大体犯罪の類だ。

 あとぶっちゃけると、俺は2人じゃなくて3人になった。欲が出て。
  3人は正直かなりキツい。もはやまともな生活を送ることができていない。食費も3倍かかっている。

 なんとか1人に戻れないかと色々調べていたところ、どうやら「1人の人間が同時に存在できる数」にはシステム的に上限があるとのことで、256人で上限となったあと257からはオーバーフローしてまた1になるらしいのだ。

  俺に残された手段(正攻法)は現状それしかないのだが、どうやらシステム的に「1人の人間がもう1人増えていい回数」にも上限があり、1日につき1人までしか増えることができないらしい。

 256といっても2の8乗なので日数自体はそんなにかからないのだが、最終日に100人を超える俺を収容できる場所がない。
  普通、同じ人は1人しかいないので、100人オーバーの同じ人がいるというケースは完全にこの世の想定外なのだ。

 やはり、今後のアップデートを待つしかないということだろう。それまでは3人仲良く暮らそうと思う。

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