愛してるは劇薬

愛してると言われ、言うとき、それはすべてを無効化してしまう。
あまりにも強い言葉なので、それまで二人が築いてきた記憶を愛というよくわからない、それでいて魔力的な力を持つ何かが覆い尽くしてしまう。それは照明が強すぎて、真っ白で何も見えないことに似ている。

1つの傘を2人でさして私の肩が雨に濡れたこと、待ち合わせの駅の改札近くで私に気づいた彼の顔に一気に笑顔が広がる事、酔っぱらった帰り道に小声で歌をうたいながら一緒に歩いたこと、LINEの返信頻度でもめたこと、彼氏の歯ブラシを勝手に使って怒られたこと、泣いている時に涙をぬぐってくれたこと。
良い事ばかりじゃない、1つ1つの重みをもつ記憶が、愛しているという言葉で、すべて愛という抽象的で代替可能な何かに変わってしまう。

「人生色々あったよね」、の”色々”に似ている。色々なんかで集約されえない、そこから零れ落ちた毎日の記憶、それが、それこそがすべてだと思う。

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