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この手があったか!ステークフリット。

肉が食いたいと思うとき、わたしの場合は焼肉ではなくステーキになる。
厚みのある肉をナイフで切り取り、口いっぱいに頬張って奥歯で噛み締めたい。
それは最低でも350g、できることなら1ポンド(約450g)であるのが理想だ。
それと焼肉なら断然ビールだが、ステーキは安くて構わないから赤ワインがどうしても欲しくなる。そんな欲求を満たせる店を探すとなると、やはり財布が心配になってくる。
「いきなりステーキ」の赤身肩ロースで1ポンド3000円弱。レスラーの聖地である「目黒のリベラ」で4500円。高級なステーキハウスでは万単位になるだろう。
これにワインをつけるとさらに高くなる。
どうしてこんなにステーキは敷居が高いのだろうか。日本はなんでもおいしくて価格のレンジも広い国だが、牛肉に限っては妙にブランド志向だ。

もっと手軽に安価で肉を食っている連中が世界にはたくさんいる。

ステーキの最大消費国はアルゼンチンだという。以前、おいしいステーキを求めて南米とヨーロッパを旅するドキュメンタリー映画を観たが、全編通して有名店のエイジング方法と、有名牧場を訪ねて牛の種類と飼育方法を取材するという内容だった。つまり、どんな種類の牛をどのような餌で育て、さらに店はその肉をどうやってエイジングしているのかということだけにフォーカスしていた。
しかも世界一だというアルゼンチンのステーキハウスでは、肉に塩を降り、乱暴に鉄板の上に放り投げていくというワイルドな調理法だった。もちろん火入れに手を抜いているわけではないだろうが、常に同環境で良いコンデションの肉なら、どう焼いてもうまいと開き直っているように見えた。
とにかく、肉の調理法というよりも、肉の扱い方が違うのだ。これは文化と歴史の違いと言って良いだろう。
一流でない店でも基本的な姿勢は同じだ。流通がこなれていて安価でおいしい。
生活の中にステーキが根付いていることが羨ましい。

フレンチマスタードで食べるステークフリット。
安い肉もフレンチフライとマスタードがあれば満足できる味わいに!

誰でも本音では、高級なおいしい肉でステーキを食いたい。
しかし肉にこだわったらそれは必然的に日本ではとても高価なものになる。
なんとか安価で、うまいステーキを日常的に食うことはできないだろうか。そこで閃いたのはパリのビストロやカフェで、やたらフランス人が隙あらば食べている「ステークフリット」である。
肉の部位なんて気にしないというあのスタイル。乱暴で素っ気ない盛り付け。
フレンチマスタードによって、おいしくしてるんだか誤魔化しているんだかわからないあの独特な味わい。だけど絶妙なおいしさと満足感がある。
何よりも、あのケチで意地悪なフランス人が毎日食べている料理なら、絶対に安いはずだし、わたしにも簡単に作れるはずだ!

パリのビストロを再現する。安いワインが気分だ。

ステークフリットとは、ステーキに大量のフレンチフライを盛り付けたものだ。
ステーキは塩コショウだけの味付けで、皿にたっぷりと塗りつけられたフレンチマスタードをつけて食べる。
これを初めて食べたときには面食らった。
フレンチフライの方が多いじゃねえか!
とまず見た目でゲンナリし、次にステーキを切りとって口に運ぶと、なんとも素っ気ない味わい。ビストロというよりもカフェに近い店だったから、喫茶メニューのようなものなのかもしれないとがっかりしていると、数席向こうに同じようにステークフリットを食べている労働者ふうのガタイのよい男がいた。彼は薄いステーキの肉を大事そうに切り、それにマスタードを塗りつけてうまそうに頬張っている。そうか、そうやって食べるのかと合点したわたしはさっそく真似てみた。
すると独特の深い味わいになったではないか。
安くて薄い肉を適当に焼いたものが、こんなに旨いなんて!
なんとこの料理はこのフレンチマスタードが決め手だったのだ。
そうして食べ進んでいくと、途中で頬張るフレンチフライも旨い。肉汁とバターとマスタードが混ざった、なんとも絶妙なバランスの味わいとなるのだ。
食べ方のコツを掴んで、途中まで食べたところでマスタードがほぼなくなった。
どうしようかと悩んでいると、向かいの男はギャルソンを呼び止め、マスタードのお代わりをもらっている。なんとその時ギャルソンは、マイユの大瓶を持ってきてスプーンで男の皿に塗りつけたのだ。わたしは拙い英語とフランス語のチャンポンで「マスタード、シル・ブ・プレ」と彼の方と自分の皿を指差して思いを伝えた。
すると男と目が合った。
男はニヤリと不敵に微笑んで、背の低いワイングラスをかかげてみせた。

マイユのディジョンマスタード。これが必需品。粒マスタードではダメです。

意地悪なフランス人のやり方で作ればいい。

ハナマサ オーストラリア産牛肩ロース肉(481g) 1,433円

まず、肉は近所のハナマサがいちばん安い。
ハナマサのOG産牛肩ロース肉 481g (1ポンド453.6kg)1433円。
夕方で20%引きだったからもう少し安かった。
これなら意識の高いこだわったラーメン屋に行くのとあまり変わらない値段だ。

昔、イタリアンの有名シェフに取材したことがあった。
個人的な興味として、素人でも肉をおいしく焼く方法を教えてくれと頼んだ。
彼が言ったことはふたつ。まず、焼く前に肉は常温に戻せということだった。
冷蔵(チルド)でも最低30分は出して室温にしておけと。
さらに、素人なら弱火で長い時間焼くといいと言われた。
ひっくり返すのは一度だけ、あとはとにかく絶対に触るなとも。
どのくらいの時間かと問うと、肉の厚さや部位などによって変わるが、2、3センチの厚さなら最初の片面を弱火で10分くらいかなと。焼き時間は両面で8:2くらいということも教わった。途中、肉を休ませるだとかいろいろとテクニックがあるが、我々素人がやっても無駄だ。わかりやすい原則だけを頑なに守るだけだ。
とにかく、目指すのはあのカフェで食べた安いステークフリットだ。
それに一流レストランならキチンとしているだろうが、カフェや安いビストロであのフランス人が真面目に焼いているわけがない。絶対にいい加減だ。
とにかく基本に忠実に、自分で10枚ほど焼いていけばコツは掴める。
そうしてステーキを自分の日常にしていくのだ。
我々は神経質な日本人なのだから、目の前にある素材には最善を尽くす。
安い肉をなんとか及第点にすることが重要だ。
それに焼きすぎでも、ステークフリットのスタイルならおいしく食える。

シューストリングは1キロ500円程度。10回ほど使える計算だ。

フレンチフライは同じくハナマサのシューストリングを使う。1kgで500円くらいだ。フレンチフライの最高峰はマクドナルドだが、マックに行っていい歳のおっさんがポテトだけ買うわけにもいくまい。これも自分でなんとかする。

スーストリングは油が決め手。

さあ、実際に焼いてみよう!時間軸に沿って順に説明していく。

1:フライパンにラードとサラダ油をひく。

シューストリングを揚げる場合には油が重要だ。
マクドナルドのポテトのおいしさの秘訣はふたつ。切ったジャガイモを水でとことん洗い、養分のでんぷんをできるだけ抜くこと。それと揚げる油のブレンドだ。
シューストリングはすでに一度火が通っている加工品だから洗うことはできないが、油は工夫できる。マックの詳しい配合はわからないが動物性油と植物性油のブレンドなのは間違いない。何度か実験してみたが、植物性だけだとまずい。動物性だけだと、ちとしつこい。割合は適当で良い。また、シューストリングの場合は、油はたっぷりである必要はない。そんなの面倒だし。
ラード大さじ2、サラダ油も大さじ2くらいで充分だ。これで揚げ焼きする。

2:シューストリングを揚げ焼きする。

フレンチフライは多めの方が気分だ。重ならないようにフライパンいっぱいに敷き詰める。これで1人前にちょうど良い。こまめにひっくり返してうっすらと焼き色がついたら引きあげる。キッチンペーパーを別皿に被せ、その上に焼きあがったシューストリングを、フライパンに油が残るようにポテトだけを盛っていく。そこで間髪を入れずに塩を振る。

3:肉を焼く。

一度使った油は酸化しているから捨てるのが本筋だが、面倒なのでこのまま肉を焼くのにも使ってしまう。油が少ないと思ったら、ラードを少し足すくらいでよい。
常温に戻し、両面を塩こしょうをした肉を、熱したフライパンに。
すぐに中火の弱火くらいにする。肉の厚さ2センチほどなら片面を6分〜8分ほど焼く。これはわたしの経験値なのでみなさんこれを目安に自分なりでどうぞ。
このとき絶対に肉に触らないことが重要だ。とにかく動かさない、触らない。
6分ほど経つと肉の表面に水分が浮き出てくる。これが、ひっくり返すサインだ。
ひっくり返すと同時に、バターを10gほど投げ入れる。そして裏面を2分ほど焼く。この時も絶対に触らない。

4:マスタードはケチらない。

皿にフレンチフライを盛り、焼きあがった肉を乗せて、フライパンに残った油を大さじ1くらい回しかける。マイユのディジョンマスタードを縁に塗り付け、切った肉につけながら食べる。フレンチフライは肉から出た油を吸うと格段に旨くなる。

【ステークフリット】
〈材料〉1人前
オーストラリア産牛肩ロース 1ポンド(453.6kg)くらい
シューストリング フライパン全面に広がるくらい
フレンチマスタード たっぷり
ラード 大さじ2
サラダ油 大さじ2
バター 10g
塩 適量
こしょう 少々

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