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Thank you, ROCK BANDS!

たぶん今年のベストライブ。というか、しばらくこれを超えるライブを観ることはできないんじゃないだろうか、とさえ思う。UNISON SQUARE GARDENのトリビュートアルバム『Thank you, ROCK BANDS!』発売記念イベントは、そのくらいとんでもないライヴだった。
2019年8月29日のこのライヴのことを忘れたくなくて、書きなぐり。

ちなみに、彼らが演奏した曲目はすべて、下記のいずれかに当てはまる(アンコールを除く)。

・ゲストアーティストの曲(カヴァー)
・トリビュート盤の収録曲(当然、ゲストたちのアレンジ済)
・ユニゾンの曲をゲストと一緒に演奏(移調していたり、アレンジされてたり)

『Thank you, ROCK BANDS!』を聴いた人なら知っていると思うが、本作の収録曲はどれも、けっこう派手にアレンジが加えられている。つまり、ユニゾンにとってはどれもこの日のためだけに用意した"新曲"と言っても過言ではないのだ。

ちなみに、BIGMAMAや9mm Parabellum Bulletはわたしにとって、学生時代からずーっと聴いている大好きなバンド。ほかの出演者も、アルバム買ったりワンマン行ったりフェスでは必ず観たりと、濃度は違えどかなり好きなアーティストばかりなので、わたしにとっては"人生のボーナスステージ"と言いたくなるような夜だった。

イズミカワソラ

この日のライヴの初っ端は、生演奏の「絵の具」だった。開演直前の静謐からおごそかに鳴るピアノ、そして透き通るような歌。終わった途端、斎藤さんが「本物だー!」と嬉しそうな声を上げていたけれど、観ているこちらも全く同じ感想だった。

「mix juiceのいうとおり」も、イズミカワさんのピアノがいわば"本物"。3ピースバンドの音楽が大好きなのは言わずもがなだけど、鍵盤が紡ぎ出すキラキラした音もたまらなくいいなぁ、と思う。

「鍵盤って、楽器があるからあんまり動けないじゃないですか。でも今日は、人見知りが治ったら勇気を出してみんなの所へ行こうかと思って」と笑顔で話すイズミカワさんに、斎藤さんは「ちょっと待ってください。それなりに付き合いが長いつもりでいたんですけど、まだ人見知りしてたんですか」と苦笑い。普段のユニゾンのライヴでは見られない表情に、なんだかほっこりしてしまった。

続いて、イズミカワさんのカヴァーで「サイボーグ99%」。ちゃんと斎藤さん・田淵さんに寄っていくイズミカワさん、かわいい。しかしよくもまあ、こんなに高い声が出るもんだ!と斎藤さんのハイトーンヴォイスに改めて驚く。

最後はトリビュート盤に収録された「ガリレオのショー・ケース」。「絵の具」のイントロを思わせるピアノアレンジが、わたしはとっても好きだ。
ここまでの4曲でも十二分に楽しかったけれど、このライヴはまだまだ始まったばかりなのである。

BIGMAMA

「今日はずっとこんな感じで、最後までよろしくお願いします。続いてのゲストは…」斎藤さんの呼び込みでステージに上がったのは、BIGMAMA。ハンドマイクで登場した金井さんは、1曲目の「ライドオンタイム」から絶好調だ。ミラーボールがきらめく中、ステージ上を縦横無尽に動き回り、ときには田淵さんや斎藤さんを追いかけ回す。こんなユニゾンの姿、わたしは見たことがない。

斎藤さんが「BIGMAMAは本当に古くからの付き合いで、高校生のときとかから知っているバンドです」と話すも、我関せずな様子の金井さん。「…聞けよ」と突っ込む姿から仲の良さがにじみ出ていた。

続く「Mr.アンディ」は、真緒ちゃんのヴァイオリンが効いたアレンジ。ストリングスが入ると、音が一気に分厚くなるなと思う。金井さんと柿沼さん、交互に歌うヴォーカルも楽しくて、こちらのテンションもどんどん上昇していく。

MAMAと一緒に演奏した最後の曲は、「かくれんぼ」のカヴァー。この曲、めちゃくちゃ好きなので、イントロを聴いた瞬間に歓声を上げてしまった。これも相当キーの高い曲だけど(女性なのにカラオケで歌えなくて悲しい)、斎藤さんも金井さんも気持ちよく高音を出し切るからすごい。これ、音源化してくれないかな……本当に好きだったな…………

クリープハイプ

MAMAとの共演で上がりきった会場の熱気を、穏やかなセッションが少しずつさましていく。このイントロは!と思ったところで始まったのは、クリープハイプの「5%」だ。ゆったりと奏でられていく中、尾崎さんの声に寄り添う田淵さんのコーラスがひときわ印象的だった。

インディーズの頃から仲の良い、ユニゾンとクリープハイプ。しかしどうやら尾崎さんは(斎藤さんではなく)田淵さんと仲が良いらしく、田淵さんは「自分の友達がバンドメンバーと仲良くなるのを嫌う」らしく。拗らせエピソード、大好物である。

「さよなら第九惑星」は、演奏していた当時を知るクリープハイプだからこそ選んでくれた曲、だそうだ。中盤、歌詞の一部を「嫌いだ こんな田淵は」と変えると、オーディエンスからは大歓声が上がった。

この曲だったか次の曲だったか、斎藤さんが歌っているところへ尾崎さんが寄り添ったり、かと思いきや尾崎さんの後ろをついてきた田淵さんも斎藤さんに肩を寄せてみたり。"馴れ合い"を好まない印象のユニゾンが、きっと今日だから、尾崎さんとだからこそ見せてくれた場面に、思わず頬が緩んだ。「今日でだいぶ距離が縮んだ気がする!」と嬉しそうだった斎藤さん。最後の「栞」を聴きながら、またいつかこの共演を観たいなと切望してしまった。

それにしても、ユニゾンと仲がいいバンドは、ハイトーンなヴォーカリストが多いなあ、なんて思う。なにかシンパシーを感じるのだろうか。

SKY-HI

SKY-HIのアクトは、タカオさんのドラムとラップの掛け合いで始まった。スポットライトが2人を交互に照らして、最後はラップとドラムが同時にリズムを刻む。めちゃくちゃかっこいい登場だ。続けて「Diver's High」を聴くと、この4人本当にかっこいいなと痛感する。

「15周年おめでとーう!!…ございます」と、きっちり敬語なKY-HI。彼は、単独だとなんというかスター然としているので(褒めてます)、"後輩"な様子は物珍しい。「前髪を下ろしていると斎藤派、真ん中分けだと田淵派」と言う斎藤さんに、「やめてくださいよ!今日これスタイリストと15分もめたんですから!」と答えたSKY-HI。ちなみにこの日は真ん中分けで、田淵さんが嬉しそうに前髪を整えていた。いかに彼が可愛がられているか、このやり取りだけで伝わってきた。

「蒙昧termination」では、斎藤さんのアコギを聴けたのが嬉しかった。〈歌詞書いたの僕じゃないんで田淵さんに言っといて〉では、当然のようにオーディエンスが沸く。ユニゾンの曲にこういうシックなアレンジが合うのは、個人的には新発見だ。アコースティックライヴも観てみたい……なんて遠い目をしてみる(笑)。

ラストは「Snatchaway」。この選曲は、きっとSKY-HIから先輩たちへのメッセージだと思う。だって〈圧倒的っていうのはこういうモン〉という詞は、あまりにもこの日の3人にぴったりで。最後の最後まで「ユニゾンスクエアガーデンおめでとう!ありがとう!」と言いながらステージを去るSKY-HI、ユニゾンが大好きなんだなあと、こちらまで嬉しくなってしまうステージだった。

9mm Parabellum Bullet

不穏なギターが響く中、登場した9mm Parabellum Bullet。いきなり〈東の空から夜な夜なドライブ〉と「徹頭徹尾夜な夜なドライブ」が始まったから、その勢いにちょっと面食らってしまったくらい。9mm版のこの曲はギターの圧やら癖やらがとにかく凄まじくて、どちらのバンドも大好きな自分としては聴くたびにニマニマしてしまう。先日恵比寿で見た2マンだったか、斎藤さんが「9mmにこの曲を取られてしまいそう」と言っていたけど、そのくらい強烈な演奏だ。そして、そのアレンジを演奏してしまうユニゾンも、つくづく強烈なバンドである。

「言われる前に言っちゃおう、15周年おめでとう!」と、9mmの15周年を祝う斎藤さん。「ありがとう!15周年おめでとう!」と返す卓郎さん。動き回るメンバーがいる、という共通点や、恵比寿での2マンの話をしつつ、互いに表情を綻ばせる。

そんなほんわかした雰囲気から一転、「お祝いに来たんだけど、ここから2曲、9mm Parabellum BulletがUNISON SQUARE GARDENを乗っ取ってもいいですか!いけるか!!」と、いつも通り客席を煽る卓郎さん。それに応えて拳を突き上げるオーディエンスと、楽器を掻き鳴らすユニゾン。普段のライヴではまず見ない光景だ。ユニゾンファン、こういうノリもできるのか!と驚いたほど。

ここからの「新しい光」「Black Market Blues」は、有限実行な9mmが文字通り"乗っ取っていた"としか言いようがない。ステージ上で瀧さんと田淵さんが暴れまわるわ、卓郎さんが走り回るわやりたい放題なんだけど、演奏は一切乱れない。

同級生の2組は、一見すると正反対のように思える。毎回のように客席を煽る9mmと、決してそれをしないユニゾン。けれどその根底にある「音楽を楽しんでほしい」という想いが共通しているからこそ、こういう夜が成り立つのだろう。一方で、他のバンドが"共演"だったのに対し、彼らのそれは"競演"の文字の方が相応しいように思った。ユニゾンを乗っ取ろうとする9mm、9mmの曲をゴリッゴリに演奏するユニゾン……とんでもないものを目撃した!と、いまだ興奮さめやらぬままである。

堂島孝平

2日間のトリビュートライヴ、ラストを飾るのはユニゾンの大先輩・堂島孝平さん。1曲目が「さわれない歌」だったのは非常に意外だった。オリジナルよりも低めのキーで、丁寧に歌い上げる堂島さん、そして斎藤さん。個人的に、移調してもさらっと歌えてしまう斎藤さんは凄いなと思う。聴いている方も特に違和感が生じないのは、曲のメッセージ性がいつも以上に際立って聞こえたからか。

「どこから話せばいいんだろう……」と、苦笑いからMCを始めた斎藤さん。なんと、堂島さんが着ていたのは3人の私服だったのだ。Tシャツはタカオさん、Gパンは田淵さん、そして靴は斎藤さんのものだという(しかも斎藤さんの靴は金井さんからの貰い物らしい)。「楽屋泥棒だろ!」と文句をつけるタカオさんに、「始まる前、一緒に写真撮ったときは緑のスーツ着てたのに!」「そういえば僕らがインディーズですらない頃、堂島さんのOAをやらせてもらって、最後に1曲一緒にやったじゃないですか。あのときも確か、田淵の私服を着てましたよね?」と妙に冷静な斎藤さん。「オマージュだったのか!」と自分で驚く堂島さん。ご本人も言っていたけれど、その服装だと確かに"どこにでもいる人"である。

でも、一度マイクを手にすれば、堂島さんは流石に超一流のミュージシャンだ。「ユニゾンと、ユニゾンのファンに捧げる曲」と言って4人で演奏したのは「SHORT CUTTER! -音の遊撃手-」。〈鮮明な日々〉という言葉は、まさにユニゾンの音楽をよく表しているように思う。

最後の曲は「シュガーソングとビターステップ」。イントロのギターフレーズは、トリビュートに則ってオーディエンスが大合唱する。よりポップで、ひときわカラフルなアレンジを施されたシュガーソングには、大団円とか"めでたしめでたし"いう言葉がふさわしい。仲睦まじげな先輩後輩の共演は、あまりにもハッピーな時間だった。

アンコール:プログラムcontinued (15th style)

「特別な日が終わってしまう!でも僕もう疲れたよ、パトラッシュ……」再登場するなり、そんなふうにこぼした斎藤さん。どちらも、紛れもない本音だったろうと思う。はじめにも書いたように、この日のためだけの演奏が終始繰り広げられていた2時間。体力的にも精神的にも、相当に疲れると思うのだ。

「5年後にまたこういった事をやります!とは言えないけど。『UNISON SQUARE GARDENは世界で一番かっこいいバンドです』と胸を張って言えるような活動を続けていきたいと思います。その先にまた、今日みたいな夜があればなって。今日はありがとうございました!最後に1曲だけ……堂島さんの私服で全部飛んだけど(笑)」そう言って3人だけで演奏し始めたのは「プログラムcontinued (15th style)」。このお祝いの締めには、これ以上ない選曲だ。

舞洲のライヴでは中盤にさりげなく演奏されていて、その流れもかっこよかったけれど、やっぱりこうして"とっておき"のような形で演奏されるとぐっと来るものがある。〈今日くらいは祝ってくれないかな〉の後、歓声やら拍手やらが上がるんだけど、毎回それにじーんとしてしまって。素直に祝われてくれる3人が微笑ましいやら愛おしいやら、こうして祝えることが嬉しいやら。

来年になったらきっと、彼らは今までどおりの"通常営業"に戻るのだろう。こんなにお祝いモードで油断しているユニゾンを観ることができる期間は、もうそんなに長くない。でも、すでに来年が楽しみな自分がいる。これだけの幸福を糧に、これからユニゾンはどんなバンドになっていくんだろう。〈きっと大して変わらない〉かもしれないけれど、それでも、これからも続いていく彼らの音楽と共にありたいと思った。


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