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赤く震える

シナリオスクールの課題で書いたものです

結構お気に入り

私のメロドラマ成分と不穏成分をいかんなく発揮したものです

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登場人物

白井紅子(38)長介の母
風翔(24)長介の父義家の教え子
白井長介(4)(16)学生

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○(回想)白井家外観
   白く真新しい立派な洋館。立派な門に
「白井」の白木の表札。

○(回想)白井家・庭
白井長介(4)が木刀を持って庭を駆
け回っている。赤いリボン・赤いスカ
ートの白井紅子(38)が手招きして
長介を呼んでる。
紅子「長介。いらっしゃい、長介」
長介「お母ちゃま!僕は大きくなってお母ち
ゃまを守りますからね」  
長介駆け寄って紅子の足を捕まえ見上げる。
紅子「ありがとう。甘えん坊の英雄さん」
長介M「母は華やかで美しい人だった。母を近くで観る為に早く大きくなりたかった」

○白井家外観
   薄汚れ色の禿げた白い洋館。立派な門
にはツタ。滲んだ文字「白井」の表札。
〇同・庭
蝉の声。伸び放題の庭の草むしりをし
ている長介(16)。
紅子「長介。いらっしゃい、長介」
   紅子、ひっつめ髪に紺の蚊絣の着物を
着ている。長介を手招きしている。
紅子「ごめんなさいね、久しぶりに帰ってき
たのにこんな事までさせてしまって」
長介「いえ、まったく。それより母様もお父
様のお着替えお疲れでしたでしょう」
紅子「私は、毎日の事ですから。お茶が入っ
たわ、少し休みましょう」

○同・リビング
   閑散とした部屋。テーブルにお茶が二
つ。
紅子「寮生活はどう?」
長介「はい、先生達や先輩も親切にしてくだ
さいます」
紅子「それは何よりだわ」
ドンドン!と二階から音。音と共に埃
が天井から降る。二人見上げる。

〇同・義家の部屋
   紅子、ベッドに横たわり唸っている義
家の汗を拭いている。ベッドの脇には
重厚な杖。長介入ってくる。
紅子「気づかなくてごめんなさいね。今日は
少し暑いわね。今氷枕を持ってくるわ」
長介「僕が持って来ましょう」

〇同・台所
タイル張りのシンク。長介氷枕の準備
をしている。
長介M「復員してきた父は両足と両目を失った。喉も焼けてしまったのでまともに声が
出ずああして杖で母を呼びつけている」

〇同・義家の部屋
   ベッドに横たわる義家の頭に紅子が氷
枕を差し込んでいる。長介はその後ろ
姿を見守っている。
長介M「父と二人の母を思うと、早く戻って
来たかった。母の隣には、僕がいなくては」
   玄関チャイムの音

〇同・玄関外観
   日焼けた扉の前に風翔が立っている。
風「ごめんください」

〇同・リビング(夜)
   長介、紅子、風が三人でテーブルを囲
んでお茶を飲んでいる。談笑。
風「突然申し訳ございませんでした」
紅子「いえいえ、訪れる者も無い家ですから
白井も喜んだ事と思います」
風「この度の事は…」
紅子「このご時世、うちだけが特別なわけではございませんから」
   紅子顔を傾けて下を向く
紅子「白井の教え子も、もう、この世にいる方のほうが少ないかもしれません」
風「確かに、同じ学び舎で白井先生の講義を受けた者がどれくらい生き延びたものか」
   風、口を結び首を振る
紅子「でも、風さんが生きててくださって、良かった」
   紅子、風の膝を軽く揺すり顔を見上げる。風、紅子の手をそっと握って紅子の膝に返す。
風「長介君の世代では、そんな事の無いようにしなければならないよ」
長介「はい、肝に銘じます」
風「さ、そろそろお暇しましょう」
紅子「まだ宜しいんじゃなくて?」
長介「角まで送りましょう」

〇同・玄関(夜)
風「それでは」
紅子「風さん、どうぞ、またお越しになってくださいまし。女子供だけでは心もとないものですから」
紅子、着物の袂を弄っている。
長介「母様、僕はもう子供じゃありませんよ」
風「頼もしいね、長介君。では奥様、また」
   長介ドアを開けて風を送りだす。後姿を見送りながら紅子は口元に手を当て呆けている。

〇白井家・台所
   赤いスカートに赤いリボン姿で手紙を読んでいる紅子。そこに長介が入ってくる。
長介「母様?」
   ハッと驚き背後に手紙を隠す紅子。
長介「先ほどお呼びしたのにお返事がなかっ
たもので。あの…」
   長介天井を指さす、埃が降っている。
杖の音。紅子天井を睨みため息をつく。
紅子「はい!伺いますわ!」
長介「ねぇ、母様?」
紅子「え?」
長介「そのリボン」
紅子「あぁ…片づけていたら昔の物が出てきて。年甲斐もないかしら」
長介「ううん、お似合いです」
   二階から杖の音。
紅子「行かなくちゃ」
長介M「実際あまりに似合っていた。ぞっとするほど。あの時似合わないと   言っていたら何か変わっていただろうか」

〇同・リビング
   紅子、窓の外の枯葉を見やりながら。
紅子「長介、今日は菊五郎の弁天小僧がかかるそうよ?ご覧になってきたら?」
長介「僕、そんなに興味がありません」
紅子「若い方が私と二人で家にこもってばかりじゃ良くないわ」
長介「父様もいるじゃありませんか」
紅子「いいから、さ、行ってらっしゃい」
長介「…わかりました」
   長介不満そうに外套を手に出掛ける。
長介M「母様がなぜ僕を出掛けさせたのか。知ってはいても僕に為す術は無かった。僕はまだ…やはり子供だったのだ」

〇同・玄関外観
日焼けた扉の前に風翔が立っている。
長介飛び出してくる。長介、風にわざと肩をぶつけて出かけていく。入れ替
わるように玄関の中に入る風。

〇同・玄関
   紅子が立っている。紅子待ちきれず土間まで降りて行き風に抱きつく。
紅子「待っていました。待っていたんです。ずっと」
   風、そっと紅子の背中に触れ抱きとめるようにしながら。
風「こんな事は、いけない事です」
紅子「いけない事だと知っててあなたはこうしてまたここにいらしたのです。今日こそ牢獄から連れ去ってください。お願いです」
風「けれど…白井先生や長介君が」
紅子「白井にはいずれ誰かが後添いを探しもしましょう。長介も、もう子供ではありません」
風「しかし」
   紅子、風に口づける。風、たまらずそれに応えるように紅子を抱きしめ玄関を上がろうとして杖につまずく。ハッと我に返る。
風「ああ!やはり、僕には荷が重すぎる」
紅子「私はあなたを!」
   風、紅子を振り切り玄関から飛び出していく。紅子、土間に座り込み泣く。

〇同・リビング(夜)
   紅子、ほつれ髪で目を見開いたままソファーにもたれかかっている。     長介が入ってくる。
長介「ただいま」
   長介、外套をかけて部屋から出ていく。外套からは封筒が見えている。
長介M「あの時、さっさと破ってしまえば良かった」
   紅子、よろよろと立ち上がり長介の外套の手紙を奪い取り封を破る。    それを読み、一瞬の間。満面の笑みで飛び出していく。

〇白井家外観(夜)
   門を押し出し中から外へ飛び出してくる紅子。足元は裸足。長介が後    を追い紅子に手を伸ばす。車のブレーキ音。車のヘッドライトに照らされる紅子。
長介M「もし、僕の背丈が数センチ高ければ、もし、僕に力があれば母を止められただろうか。僕の物には決してならない、母を」

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