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あたおか散文

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流れ落ちるままに生み落とした「あたおか」な散文たち
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2021年10月の記事一覧

月見て泣いたシャツの裾

サブスクみたいな女の子

騙して

ほだして

好きにして

毎月定額たまには課金

君はクタクタ

僕よりクタクタ

無視して

脅して

許されて

不機嫌ハンドル振り回し

サブスクみたいな女の子

数千円で身を捩り

帰るお家を忘れて泣いて

歌も忘れた黄色い子

月夜の海にさぁ浮かべ
#あたおか散文

昭和歌謡の街頭演説

甘いポマードの香り

古びて酸化したような

改善の余地のない

そういう男

他方

こちらも

舶来物の張り切りすぎた

浮かれた柔軟剤の匂い

改善する気もないような

そういう女

30年前の三文記事に

針を落として繰り返す

傷つくたびに後へと戻る

終わりの来ない流行歌
#あたおか散文

無音のまま落ちていく高層ビルのカケラ

身体の水が質量を変えて起きる化学変化

目に写らない虚な感慨

加虐性の増幅により空いた穴

映写機に映らないアルコール臭い正義感

五線譜に並んだ雀が撃ち落とされる様を誰も知らない

白い歯の隙間に隠される

幼く、柔らかく、真摯なる

煩悶
#あたおか散文

死菌石

少年の唇を濡らす赤い境界線は

いつまでも世界を曖昧にしていく

行き行きて脳髄の反乱

骨盤の上に介在する存在証明を許さない臓腑

掌に生暖かい鼓動を与えながら

断絶の行進をいざ進め

眠れぬ夜を穢れた37度で埋め尽くせ

純白の凝りに天馬が翔る
#あたおか散文

十月十日

太腿の鉛

京成線の電車の音

曇天に広がるビル

鈍く香る立ち食い蕎麦

混ざりあえない水溜りの油

艶かしく広がるエナメルの光

開いていく瞳孔に閉じ込められる女学生

優美な曲線がしなだれた静寂を壊す
#あたおか散文

高熱が上がりますので白線までお下がりください

風に吹かれて秋葉原から総武線

背伸び3回骨食ってニャン

カマイタチから逃げ延びて

命からがら三下り

もうすぐ届く柱の傷よ

指先だけなら御茶ノ水

コードレスで聞こえる白旗の声

祈って諦めて忘れて捨てた

胸元の熱に触れもみで

あなたはどこへ行ったやら
#あたおか散文

ねじまきのループお洒落にあしらって

ねじまきのループお洒落にあしらって

役立たず

末尾5番であなたの声を聴く

マロンクリームの甘だるさ

ちびりと飲むラムが燻らす煙

どうして

を飲み込んで

削れていく金属のリボンを眺む

蚊帳を釣っても夜は来ない

船を漕いでも港は見えない

山の向こうでうさぎが跳ねた
#あたおか散文

迷い子の安全な遠吠え

なぜなぜと問う尖った爪先

大丈夫だよと応える尾羽

全てが繋がっていて

一本一本解けてる

あの時の小石は見つかりましたか

居残り授業に黒曜石の地図

ここって潰れる前なんだっけ

切り抜いたドレスに縫い付けた鬼灯

白玉粉を練る古の記憶

葬送の歌はまだ聞こえない
#あたおか散文

トライアングルジャックポット

昔々、あるところに三匹の子豚がいました

お兄さん豚の藁の家の下からは人間の下半身が

真ん中子豚の木の家の下からは人間の胴体が

末っ子豚のレンガの家の下からは人間の頭部が見つかりました

並べてみても一向動く様子はありませんが

一緒になってよかったね

めでたしめでたし
#あたおか散文

紅に染まった頭巾から覗く柔らかな現実

ちょっと疲れちゃった

赤ずきんちゃんは言いました

お家に帰ろうと思っただけなのに

歩いても歩いてもお家が見えなくて

そのうち気づいたの

お家なんか

とっくに無かったって

そもそも

私にお家なんかなかった

私どこに向かってるの?

私何してるの?

ねぇ、あなた、誰?
#あたおか散文

チカチカと地下の音

あるあるないない

ごちゃまぜのカラーボール

かまびすしい可視光線の渦

不可逆的な時の流れも滴るような

迷走した神経が掘り当てた神秘の泉

ひきずりこまれたふくらはぎが見た

唯一の名を呼ばれないもの

虚構という真理
#あたおか散文

フランジ

沈むべき日の快適な平行線

並ばない雁の群れ

いちごジャムに飲まれていく親指の抵抗感

πr²に閉じ込められた蝉時雨

針の穴から覗く海溝の遺伝子配列

サナトリウムの壁に刻む虚な火照り

雨さえ降らないこの街には雨上がりもない

おめでとう

何も起こらないあなたの安心な日々
#あたおか散文