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あたおか散文

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流れ落ちるままに生み落とした「あたおか」な散文たち
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2021年3月の記事一覧

失年

妥協妥協の産物で

白い鳩さえ黒くなり

元の姿を忘れてさえずる

さえずる声さえ掠れては

私が誰だかわかりゃせん

忘れてくれと泣き腫らし

思い出してと泣き腫らし

探してくれと泣き腫らし

当の私も無くした私

見つけようかてありゃしませんわいな

帰り道ものうなりました
#あたおか散文

白濁する想いを監禁する部屋

琥珀色の飴玉に閉じ込めた

安らかな夢

拙い言葉

ほんのり甘く

強かに熱く

黄身の粘り気

赤い舌

足りない欠片を

劣情で埋める

蠢くブラフ

そんな事じゃないんだ

滴る魔の夕暮れ

最後のロープ

掴み損ねてリングに戻る
#あたおか散文

記録と記憶の柔らかな裂け目に手を入れて

君はどうかそこにいて

美しく柔らかな

花と光のなかで

暖かに笑って

僕が必ず見つけ出すから

この闇と嵐の中から

きっと君を見つけ出すから

カバンの中のカビたパン

見てはいけない昼メロの艶かしさ

立て続けに起こる怠惰の結末

全てを越えて探しに行くから
#あたおか散文

存在の希薄な依存

あなたがいてと言うのなら

私はここに佇みましょう

ただ

小さく咲いて

佇みましょう

あなたが散れと言うのなら

私はここで散りましょう

たださりげなく

お邪魔にならずに

散りましょう

私の命と存在を

全て預けて流れましょう

ただ一瞬でも

見つけてくれた

あなたの為に
#あたおか散文

狐火の音

近づけば鳴る

遠くの鐘が

キンコンカン

千切れた足で踊るワルツ

剥がれた爪が弧を描く

赤い流線

決死の覚悟で捕まえた手綱

悲しいくらいに強い瞳

鉛のように重い天使の羽

軽やかに舞い上がる芦毛の馬

踊りましょう地の果てまで

歌いましょう水面の上で
#あたおか散文

フロアの記憶

どんなに愛しても

いつかは遠く離れた景色

それでも

その愛が嘘になるわけじゃない

甘く熱く柔らかな

その時を閉じ込めて

壁に塗り込める

触れることはかなわなくても

ただ記憶の中で踊る

床に響くあなたの靴音と

丸いコルネットの音と

私のため息
#あたおか散文

知るも知らぬも

神を知るものは

悪魔を知り

悪魔を知るものは

また

神を知る

何も知らないものは

何をも得ずに

全てを得る

得ていることも知らないままに

ただ全ての中に

調和して立つ
#あたおか散文

孤高の氷点下

誰もが皆

孤独の海の中で

溺れているのだろうか

雲の向こうの月を想うように

ただ誰かを愛しながら

触れることさえ  

叶わずに

君にとって

都合のいい僕でありたいと

願いながら

それも出来ずに

悶えているのだろうか

この冷えすぎた夜の街灯の下で
#あたおか散文

11個目の雨粒

純粋さと

粗暴さと

せつなる愛への枯渇と

その愛への怯えと

ロマンティシズムと

切なく散り続ける希望と

絶望と虚無が

同じ身体の中でせめぎ合う

そんなあなたの声を

ただずっと聴いていたくて

雨をみつめている

雨音に似た

あなたを思い出しながら
#あたおか散文

遠くで聞こえた、、、

遠くで汽笛を聞きながら

とは、なんともいい表現だな

と、思うのだけど

汽笛を聞かないわよね近頃

今私たちは遠くの何を聞いてるのかしらね

高速を走るトラックの音かしら

さかりのついた猫の恋かしら

ポリバケツに落ちる吐瀉物の音かしら

何も良いことがなかったこの街で
#あたおか散文

それは、みた、ありもしないものを

一つ目小僧の帰り道

閉じた世界に目を開く

開かずの扉の鍵はどこ

捕まえていつまでも飛び続ける蝶々

これ見よがしに舞い踊る

ありもしない

手にも入らない

虚飾の広間に一輪の百合

もうそろそろお帰りになる頃と思っておりました

雷の閃光

雷鳴の荘厳

つま先が導くありか
#あたおか散文

消えない痕、跡、後

風に乗って飛んできた剃刀が

遺跡に刻んだ恋の後先

痛みのかけらを集めて埋めて

鏡と一緒に葬って

千年の後に会いましょう

淫らな髪を結いあげた

あの娘のうなじへあと少し

柘植の櫛なら届こうか

壊れた心に届こうか

掘り起こされた恋に仇をなす

主の覚悟が聞きたいものよ
#あたおか散文

だらけた肢体の間

黒いコートは猫の毛だらけ

財布の中はレシートだらけ

鞄の中は屑だらけ

ヒールの中は砂だらけ

お腹の中は脂でまみれて

血濡れの心は傷だらけ

風で飛んだ看板の

大村崑は裏返し

ネガでもポジでも錆は錆

爪先立ちの鼠のダンス

排水溝のぬめりと朝食のジャム
#あたおか散文

滾る漲る操作不能のものたち

野に山に

解き放たれたる獣たち

咆哮の先に咲き誇る

散り散り

ざらざら

粉々

それでも残る野生と炎

消し炭になっても途絶えぬ嬌声

月に向かって

飛散しろ

村祭りの夜

艶かしく光る

路傍の石
#あたおか散文