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あたおか散文

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流れ落ちるままに生み落とした「あたおか」な散文たち
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2021年2月の記事一覧

いいとこ鳥

リストの上から順番に

並べて食べて少しずつ

少しずつなら傷つかない

美味しいとこだけ食べて残して

また育つのを待っている

順繰り並べて穂先だけ

栄養には渋みもある

渋いくらいなら食べなくて良い

甘さだけを取り出して

贅沢な食事をいつまでも

空の食事をいつまでも
#あたおか散文

セル結合

同じ顔

色もない

音もない

香りもない

味もない

質感もない

そう思っていたけれど

僕の感覚が消えていたんだ

全部同じ箱に入れれば

考えずに済んだから

でも、この電源は消したままにする

僕を守るため

誰も傷つけないため

ずっと知らないふりをする

愚かな僕で構わない
#あたおか散文

無限再生

ひみつの

とびらをひらいたおくの

りんどうのさくおかでながめてる

ひがないちにち

とおくのこうば

りねんをあんでる

ひぐれのこうば

といちでかりたなけなしのかね

りんねのさきまではおいかけまいよ

ひきつれたきず

とけたくつ

りんりんとなるぼうさんのかね
#あたおか散文

砂にめりこむ

右足に仕方ない

左足に大丈夫を履いて

ぴこぴこサンダル楽しげに

砂浜を走って飛び込む胸は消えました

もう一度右からやり直し

やり直しの足が怯んで出ない

ただ悄然と夕焼けを眺める

やがて闇夜がやってきて

波がさらってくれるでしょうか

取り残された朝日

ぴこぴこと鳴る
#あたおか散文

雨、雪、散、貼り付く黒いそれ

降ってくるんだよ

私が

空の上からね
 
降ってくるんだよ

雲の上からね

絶望した私が

いつか抱き止めてあげようと思うのだけど 

いつも失敗する

落下速度に合わせた空があんまり綺麗にすぎるので

あんまり軽やかにすぎるので

落ちる事を選んで選んで

また落ちる 
#あたおか散文

言問橋

私の坊やはどこですの

赤い襦袢の裾ひいて

ほつれた髪で彷徨って

磁石が砂を絡めるように

世の罪悪をその身に寄せて

我が子のように慈しむ

おぉ、坊や

今抱いたげましょうね

こんなに冷えきって

かかさんが悪かった

大きな石くれ抱きしめて

愛し気に撫でて川の中
#あたおか散文

白衣の十字架

寝方を忘れた兵隊さん

触りすぎて傷が膿む

生まれてきたのは後悔と不安

無駄と無理と無茶を混ぜて湿布にする

いっそ叶わぬ夢ならば

壊して埋めて忘れてしまお

いずれ芽が出て膨らんで  

獣の餌にもなりましょう

後は野となれ山となれ

山の裾には骸が埋まる
#あたおか散文

ガラクタが楽だ

また一からだ

真っ白け

いつものように画用紙の中

描いた絵は消えていく

描いても描いても

さようなら

芽吹いては枯れて

実りを忘れた枝の先

ひとつぶら下げる

無機質な球体
#あたおか散文

水上置換

水面鏡の美しさ

水琴窟の妙なる調べ

触れて触れられない

優しく繊細な

世界の縮図

あまりに的確に見せる走馬灯

だからこそ

上っ面の愛ばかりを囁けない

もっと深く質感のある

いやむしろ

もっと軽くて何もない

綿飴のように正確に

あんよは上手

いち、に、さん
#あたおか散文

足りない

あなたが二人いるのなら

この世界から奪い去って

小瓶に詰めて閉じ込めたい

みんなの為のあなたと

わたしの為のあなたと

それでは足りない

あなたの為のあなた

一番大切な

あなたの為のあなたを愛してる

みんなの為のあなたを愛してる

私の小瓶はやっぱり空っぽ
#あたおか散文

右と南東と左とY軸

それは私の

痛くても悲しくても醜くても

私の大切な

私だけの庭

誰にも開け渡さない鍵

そのせいで私が消えたとしても

後悔はない

勝手に覗いてあなたと比べたりしないで

あなたが綺麗な事なんて、愛されてるなんて知ってる

知らないのはあなただけ

小さな花を毟り取らないで
#あたおか散文

乗り換え間違い

なにやってんだ

きっと全然

こういう事じゃない

頭が悪い子

愚かな子

生ゴミのように腐ってく

いっそ土塊に戻りたい

さればとて

墓に布団も着せられず

テーブルに響く自分の鼓動

ごめん、君はこんなにも健気にリズムを刻み続けているのに

正しい場所まで来れなかったよ
#あたおか散文

無いがあったから置き場に困って

無遠慮

無類

無用の長物

無機質

無感覚

無頼な男たち

無味乾燥

無知蒙昧

無抵抗な白痴

有限界の中にこそ潜む無限
#あたおか散文

蓄音機

それは周波数

それは記号

それは形

それは信号

呼び続けていたものが応えて降り注ぐ

かくれんぼするもの寄っといで

あなたが笑ってくれるなら

私も笑って走りましょ

鬼にも蛇にもなりまする

遠くでなってる汽笛の音に

黄昏時は

誰そ彼

見えなくてもいる微かな光

霧の中
#あたおか散文