マガジンのカバー画像

あたおか散文

432
流れ落ちるままに生み落とした「あたおか」な散文たち
運営しているクリエイター

2020年10月の記事一覧

豊潤な迷宮回廊

豊潤な迷宮回廊

かけることのないあかいつきをいくつみおくれば、おれんじのこうきをはなつすこやかなあさにたどりつけるのだろうか

突然世界に一面の青の洞窟が現れると

その安心感と静けさたるや凄い

そしてそこが青より深い青であるおかげで、ここにある小さく確かな炎の存在に気づく

ただ、少し

青が青であることは、寂しくはないのだろうか

と変な気遣いを起こしてしまう滑稽

なさぬ仲なら

いたたまれなさ
やるせなさ

不意に忍び込む

所在のなさ

むずむずと自分の存在からはみ出そうとする何かをかき集めて肉体と呼ぶ

すんでのところで人間の体をなしたる煮崩れた思考の塊を肉体と呼ぶ

朝日の力で吹き飛ばされるあの薄紫のやましさは

僕を覚えててくれるかな

座れない丸、まん丸つるり

僕信じないんだ

世界が丸いだなんて

僕のおうちは四角だし

タマのお鼻は三角だ

ミラーボールが僕の世界だなんて信じない

僕のロボットは四角だし

ママの靴だって三角だ

もし世界が丸いなら

僕はこぼれ落ちてどこへ行くの?

落ちこぼれの僕はどこに座ればいいの?

寒いよ

呼び兎

変遷が

とぐろを巻いて

無地の海

きちんと寝たら

ウサギが2匹

辺境でひとり紙芝居

聞いたか聞いた

見たか見た

ポンチョの下に人はない

サンチョ・パンサの悲しい狼狽

先生私夢をみるんです

ほうそれはどんな

銀杏の下でその根に包まれながら冬虫夏草になるのです

山とある冒険譚の一節はどこかへ正気を置き忘れた少女の黄色い夢から始まります

まず本日はこれぎり

秋も縮み上がって白くなる

金木犀が散りました

電灯の明かりチラチラと

迷彩の赤子よちよちと

あんよは上手いちにっさん

迷子も慣れれば冒険者

明日も朝とランデブー

住み慣れた小屋に忍び込むネズミ

下水溝のむつみごと

それさっき聞いた

近所のコロッケ揚げたてサクリ

妻夫木さんが家建てたって

屋根の上猫の恋

たまには帰っておあげよ

肋骨に住むムカデ

深夜の道路に立ち尽くす白い影

お客さんどこまでだい

子育てを始めた屋根裏のねずみ  

恥の上塗り

忘れられたケーキが朽ちていく

乳の流れる跡をみた

路地裏で猫を見た

幻だった

交差点で彼を見た

幻だった

道端に落ちた牛乳瓶の湿り気だけが

この世界だった

カルメ焼きのかおり

サバランの甘さ

啄む鳥の可憐なステップ

朝の献身を打ち捨てる闇の残酷

夜というのは気が利かない

深い夜の闇中にあっても

朝に時間を明け渡そうと

刻々と準備を始めてしまう

せっかく朝が命を削って身を捧げても

それが厭わしいかのように着々と世界を手放す

一刻も

純粋たる夜、純然たる闇でいてくれない

その暖かな闇に溶かしておいてはくれない

奉納舞

ふにゃふにゃの、ギラギラ

俊敏な小狐のジャンプ

あたりを見回して喉元に食らいつく

獲物はいつもの屋根の上

御供物ではありませむ

享楽の果ての短い祭り

冷えた星が歌いあぐねる夜に

積木が崩れたら

鼓動のリズムで舞い踊れ

質量保存の法則

ため息をつくと幸せが逃げていくと母は言った

でも、この人に逃げていくほどの幸せがあったろうかと

彼女の手首の傷を数えながら思っていた

昔はそれが傷跡だと知らずに羊を数えるようになぞって眠ったのだった

ため息と流れた血ならどっちの質量が幸せと相対をなすのだろうか

黒点

じぶんのことをむしめがねでみすぎると

こげちゃうんだよ

むねが