先生、なんで俺のこと見捨てへんの?


 先生、なんで俺のこと見捨てへんの?


こないだある生徒に言われた。


びっくりした。


考えたこともなかったから

えええ??見捨てるってどういうこと?

そう返した。


彼はじっと私の目を見ていた。



確かに教師から見て真面目な生徒ではないかもしれないし、色々学力的に厳しい部分はあるかもしれないけれど、私は彼の素敵なところをたーくさん知っている。


バイトを頑張っている。

友達から好かれている。

自分の感情を素直に表現することができる。

笑顔が素敵。

ラップに詳しい。



だから本人が、自分のことを「教師に見捨てられる存在」と認識していることが何よりショックだった。



こんなこと教師として言っていいのかよく分からないけど、私は勉強なんてできなくてもいいと思っている。


勉強ができることより、「自分が何が好きか」「自分はどんな人間か」「自分はどう生きていきたいのか」を知っていることのほうが何倍も大事なんじゃないかなと思う。


確かに高校を卒業するためには進級することが必要で、

そのためには単位を取らなければならない。

それはその通りなんだけど、だからと言って勉強ができないことで自分を否定する必要はないと思う。


1年目のペーペーが何を言うと教育界隈の人に言われそうだけど、この1年で私はわかった。

教師の仕事は生徒を信じること。私は彼がやればできるって信じている。


だから、どれだけ周りの生徒が彼をバカにしようとも、彼自身が頑張ることを諦めても、変わらず励ましていた。


あれから半月。
彼は変わった。


もしかしたら今日1回限りの気まぐれだったかもしれない。それはそれでいい。

でも1回であったとしても、授業時間中1回も寝ることなく、前を向き、ずっとノートを取っていた。文法の問題にも熱心に取り組んでいた。初めて見る姿だった。


私たちは教師と生徒である前に、人と人だ。

彼のその姿に尊敬の念を抱いた。崖っぷちであることは事実だけれどそこで諦めるのではなく、頑張ろうとする姿に自分自身の背筋が伸びた。


気づけば残り数回しかない授業。

私は何が残せるだろう。


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