見出し画像

君思ふ黄昏

君といつか再会を誓ったあの喫茶店は
背の高いビルに変わっています。

君に借りたツルゲーネフの小説は湖畔が綺麗に見えるコテージに置いてきました。

君と一緒に歩いた夏の田んぼの畦道には家がたくさん建ちました。

君が描いてくれた僕の肖像画はどこかの店の壁にかかっています。

君と過ごした青春を忘れたくて忘れたくて忘れたくて

君を思い出すあらゆるものが変化していくけれど

君は月のように当たり前に僕の心の中に生きています。

君が人生で初めて、吸ったタバコ。

僕が当時ずっと吸っていたタバコ。

ハイライトの青を君は無理して吸った。

君が死んだ日、僕は数十年ぶりにハイライトの青を吸った。

タバコの煙が喉を通り、肺に通る過程で

煙と共に君との思い出が肺よりずっと奥に奥に奥に入ってゆく。

人間の器官を超えるような感覚が今、胸に迫ってゆく。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?