お菓子の家

初めてそこを訪れた時 まるでお菓子の家を見つけたみたいな気持ちになった。ただでさえ規則だらけなのにコロナ禍でもっと厳しくなった鍵付きの一時保護所に何ヶ月も閉じ込められていたから 久々に外に出る開放感と 地元が田舎だったので少し都心に出たワクワク感 そしてファミリーホームなので少し入り組んだところにある秘密基地感 路地裏を抜けた先にかわいいお花が飾られた入口があって ドアを開けたら女性専用なのでピンクや白のあたたかい色で統一された空間が広がっていた 至る所にかわいいぬいぐるみが置いてあった フリースペースにはお菓子も置いてあった 養母になる人は眼鏡をかけた背の低いおばさんだった 「ここは基本自由です 本人の責任で自由に過ごしてもらってます 今いる入居者はスマホも持ってます お菓子も自由に食べてもらって構いません」ルールの書いた紙を渡されたけど当たり前のことが書かれていて、常識さえ守ればあとは自由にしていいという旨だった。さらに「右側は紗夜さんと妹さんの部屋です。真ん中の部屋は使っていないのですが誰でも使っていいことにしようと思います。紗夜さんがひとりで勉強したい時 またピアノを弾きたい時など 自由に使ってください。」真ん中の部屋には電子ピアノが置いてあった。それは高3の春の話で、実家で目指していた音楽系に進むのか勉強にシフトチェンジするのかすら決まっていない時期だった。こんなにいい施設は無いと思った。はじめは妹と同じ施設に行けるかすらわからないとも言われていた身からしたら ものすごくありがたい話だと思った。妹と2人で話してすぐにその施設にしますと決めた。妹は進級と同時に転校が決まった。


入所当日 緊張した2人のいちばんの目的は数ヶ月ぶりのお菓子を食べることだった。「新しいところ緊張するね でも次のところに行ったらお菓子が食べられるから頑張ろうね」 一通り説明が終わって荷物の整理も終わって 「そろそろお菓子食べに行く?」「そうだね何があるかなあ」2人で一緒に1階のフリースペースに行った 大きなお菓子の箱が2つほどあっていろんなお菓子が入っていた ヒソヒソ声で「すごーぃ!どれにしよーう」なんて笑いながら漁ってたら養母さんが出てきて「そのお菓子は全部(先住民)ちゃんのものだから食べないでね あなた達も食べたかったら〜…わかりにくいから部屋にカゴを置きましょうか お菓子はたまに私が買い物のついでに買ってきますので渡しますね それ以外にも欲しかったらお小遣いから買ってください お小遣いは1ヶ月ここで過ごしたら出ますので」



それから養母の人からお菓子を貰うことはほぼなかった 児相のCWとの面談で媚び売って買ってもらうお菓子やお昼代で貰ったお金で買ったお菓子を2人で寄せ集めて たまに部屋でお菓子パーティーをした




(先住民)ちゃんと養母さんは仲が良かった ファミリーホームはもう1人代表の人がいて養母のパートナーさんみたいな人 (おじさん)も仲が良かった 毎日日付が変わる頃までリビングでケラケラお話をしていた お風呂を使う時と洗濯機を使う時など 共用スペースを使う時は声をかけなければならなくて毎日妹とどっちが声をかけるか押し付け合いをしていた リビングと同じ1階に養母の部屋があるから話がひと段落した頃に養母が出てくるんじゃないかと妹と2人でリビングのドアで待ち伏せしていたこともある 話しかけたらいつも何かしらのお叱りが待っていた 妹が行けば私の事 私が行けば妹のことをいつもついでに注意されていた それが怖くて 楽しそうな話を遮るのも怖くて 途中から声をかけなくなった たまに怒られたけど声をかけなくてもあまり気付かれることはなかった もちろん ピアノを弾ける事なんてなかった


ある日妹がテスト前で夜遅くまで勉強していて 妹がパニックになっていて私が一緒に起きて話を聞いていて そしたら2人で夜遅くまでおしゃべりしてるのだと勘違いされて その日は(先住民)ちゃんの体調が悪い日だった うるさいよ、早く寝なさいと何度も何度も部屋を覗かれて養母に怒られた 部屋は消していたしデスクライトだけで2人とも落ち着かないと落ち着かないとと焦っていたけどそうすればするほどパニックになって妹も泣いてて声を抑えられなくて ついに養母が児相CWに私たちの態度が悪いと報告した それで面談があってCWがうちの施設があっていないことがわかって。

ちょうど高3の秋頃だった。夏の入院から帰ってきて1ヶ月ほど生活できていた頃。私の衝動性も抑えられなくなっていて 私にも妹にも限界が来ていた。児相は「別のところで生活しよう」と受験に専念する環境を整える必要もあったため私を子どもシェルターに入れることに決めた 本当は妹も後を追って冬休みからそこに来るはずだった また必ず会おうねと 泣いてお別れをした 子どもシェルターで一緒に過ごすために妹が冬休みが始まる前に冬休みの課題を全て終わらせてくれていたのも電話で聞いた でも‘’大人の都合‘’で私たちは会えなかった 妹は一時保護所に入って次の施設を探していると聞いた また、転校。本当にそれで良かったのか 妹の気持ちは聞いてくれているのか 妹は誰かに本音を話せているのか


一時保護所で妹が編んでくれたネックウォーマーはわたしのお守り。交換ノートも。帽子も編んでくれてたんだよね 受け取れなかった いつか必ずこの手で受け取りに行くからね

あなたとお揃いの名前はしばらくは変えないよ あなたに相談してからにする

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