おばあちゃんのわがままがずうずうしいけど、可愛く思えた話。

私の母方の祖母は、とてもパワフルである。どのくらいパワフルかと言うと、着物でスーパーカブを乗り回すくらいにはパワフルでワイルドだ。

祖父母は、私が小学五年生になるまで細々と飲食店を営んでいた。主な調理担当は亡き祖父、そして、配達や細々とした作業などは祖母が担当していた。祖母は、当時秋冬と毎日着物を着ていた。着物を着ているからといって、しゃなりしゃなりとしているわけではなく、豪快に仕込みをし、スーパーカブに跨って配達に行った。着物を着てバイクに乗るおばあちゃん、と言えば○○町の何々さんと通じたのだった。

そんな祖母、店を畳んでからも移動手段はスーパーカブだった。着物はやめて、手作りのモンペを着ていたことが現役と違うとこだろうか。そして、2〜3年前、祖母は事故に遭った。

不幸中の幸いか、他人を巻き込んでの事故ではなく、自損事故で、祖母自身も大怪我だったが命に別状はなかった。ただ、命に関わりなかったとはいえ、左半身が何カ所も複雑骨折していたらしい。リハビリも含んだ少し長い入院が必要だった。私たち家族は、正直覚悟していた。このまま、リハビリも上手くいかずに寝たきりになり、そこからボケも始まるのでは……。よくある話だ、祖母がそうならないとは限らない。

だが、しかし。そう、彼女はパワフルだった。

医者も驚きのスピードで回復し、リハビリも進んでいった。もちろん、祖母の努力もあるのだが、後にケアマネから「○○町の奇跡」と言われた。

それはさておき、少し話は脱線する。祖母が入院していた病院からは、新幹線の線路がよく見えた。そのせいか、入院患者の間でこんなジンクスが伝わっていたらしい。

「ドクターイエローが走るのを見たら、退院が早まる」

それを聞いた祖母。ここで、ようやくタイトル回収の時間である。祖母も早く退院したかったのだろう。ドクターイエローという珍しい車両が見たかった。迷信だろうが、家に残してきた祖父も気になるし、何より暇でしかたなかった。彼女は、見舞いに来た私たち家族にこう言った。

「ドクターイエローの通る時間、調べてきて^ ^」

……祖母よ、それは違う。

偶然見るからジンクスなのであって、調べて窓に待機して見ても意味ないのだよ、祖母よ。

その時は説得の甲斐あって、なんとか「偶然」が大事なことを分かってもらえた。

まあ、でも、祖母も一人で寂しかったのだと思う。家族がお見舞いに来てくれるとは言え、あまり入院したことのなかったパワフルな人だから。そう、ずうずうしいわがままだけどとても可愛いおばあちゃんなのだ。時たま、この出来事を思い出しては、祖母孝行しなければなぁとしみじみ考えるのである。


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