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挨拶のマウント

あっ・・・たかっ!
高い高い!まってなにこの高さ、怖っ!
っていうね。

まあー、ほんと、高くて。
意識が。
僕の意識がね、天を衝くようなんですけど。
なんだろ、
この高さから落ちたら即死だなーくらいの高度感ある。

で、まあそんな意識が最高に高まった人間が
週末することと言ったら、
それはもう、ね、ほら、当然あれですよ。

山に登ってきまして。

まあ、なんというか、ここまで意識が高まると、
自分の意識の高さと同等の標高まで上がっておかないと
高まり過ぎた意識が暴走して、どうかしてしまう。
なんか、わかんないけどいつの間にか服とかがビリビリに破けてしまう。
破けたまま全裸でコンビニに入り警察に捕まってしまう。
意識高い系全裸おじさん。たちが悪い。

そんなわけで精神の高度順応をするために、
ちょいちょい山に登ってたんですけど。

ほら、山って意識高い系しかいませんでしょう?
人とすれ違う時は挨拶するのが当然というか、
そういう暗黙のルールがあるんですよね。
すれ違いざまの挨拶は意識の高まりの証。

当然、僕も挨拶の方をたしなんでましてね。
まして僕くらいの意識たかいたかーい人間ともなりますと、
これはもう、誰よりも高い位置から、先に挨拶してやろうと、
圧倒的高さを見せつけて挨拶のマウントを取ってやろうと
常にしてますよね。

意識の高さで常時相手を上回っていく。
そりゃ、たしかに今、収入とか社会的地位とかは
あなたのほうが高い位置にいるかもしれない、
だが僕の意識の高さはその高低差を埋めてあまりあるものなのだから
こっちのほうが偉いっていうか、もっと憧れて欲しいっていうか、
ちょっとずつお金とかをくれてもいいんじゃないか。
そういう高尚な気持ちで山に登っています。

でまあ、
意識の高さは山の上の方に行けば行くほど高まっていくのものでして、
上りは挨拶もどんどん活発になっていくんですけど、
問題は下るときね。
だんだん下山していくと、こう、普段そんなに山を登らない
エンジョイハイキング層の人たちが混じってきて、
この人達に頂上付近の意識を引きずったまま尊大な声で挨拶しますと、
「はぁ?」みたいな顔されたりする。
ほんと、にわか山ガールとかにうっかり絡むと
「何コイツいきなり話しかけてきてんのキモっ」て目で見られる。
まあ、いきなり見たこともない自意識の肥大化した全裸のオッサンが
あらぬテンションで挨拶してきたら確かにキモいよな・・・。

そうしてしゅんとしていると、
不意にガチの山ガールに挨拶の先手を取られて、
あ・・ああ、どもっす・・・みたいになる。
完全に意識の高さで上回られ、敗北感に打ちひしがれる。

ていう。まあ、この一連の流れをですね、
ひとつのゲームとしてプレーすることにしたんです。もう。

★ S(先に)A(挨拶されたら)M(負けですよ)ゲーム
・相手より先に挨拶したら【+1点】
・相手に先に挨拶されたら【−1点】
・挨拶を無視されたら【−3点】 

で得点をつけていきます。

挨拶無視のリスクが大きいので、
相手がガチ勢なのか、ライト目のハイカーなのかを
装備や雰囲気で瞬時に見分ける必要があります。
これが結構難儀で。
最近はライト目の人でもかなりいい装備持ってますから、
これにはもう基本的に仕掛けていくしかない。先手必勝。

無事得点したあかつきには「ゴォォーーール!」と心のなかで叫び、
グラウンド(心のなかの)を走り回ります。
実際は登山道を歩いてます。

ただ、たまにジーパンスニーカーでも平気で気持ちよく挨拶してくる
ナチュラル気さく人間もいて、これはほんと怖い。予測不能だし、
本当の手練はこのくらいの山ならラフな格好なのかもしれない。
という妙な説得力もあって、敗北感が増してくる。
敗北感は意識の低下を生むので危険です。

(山で意識が低まると、なんかいろいろあって最終的に死にます)

また山岳ツアーの人たちも結構見かけるのですが、
彼らは集団で密集しているうえ
基本的にガイドさんに挨拶を指導されているので全員挨拶してきます。
これはもう近接戦での壮絶な打ち合いを覚悟しなければなりません。
大量得点のチャンスではあるものの、油断するとがっつり攻めこまれます。
特におじいさんおばあさんの集団は、
それはもう恐ろしい数の弾幕(挨拶のことです)を張ってくるので
到底無傷ではいられない。
「こんにちこんにちこんにちこんにちはー!!!」と、
こちらもフルオートで対応しないと、隙間に差し込まれて被弾します。

なんだろね、無邪気って怖いなって思いますね。
こっちは真剣に人を上下で見ようとしてるのに、
向こうは天然そのもので、
山の空気はおいしいなーとか言って。のびのびして。
知らない人とも気軽に挨拶して、
上は晴れてますかねー、いやーちょっとガスってきましたねーとか言って。
なんだよ!素敵かよ!
あのね、こっちは人を見下すのに必死でそれどころじゃないんだよ!
殺伐としたもんなんだよ!

そんなこんなで山を降りる頃には
負けがこむこともあり、油断なりません。
山における挨拶、それは、意識の高さを誇示するための
真剣勝負にほかならないのです。

そんなギスギスした気持ちになりたい方、
S(先に)A(挨拶されたら)M(負けですよ)ゲームを
是非試してみてくださいね!

以上、山カースト最下層からお送りしました。


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