見出し画像

置き土産 (5)

 妻に先立たれた友作は、ある少年と顔見知りになる。
 それは、ある姉弟が平穏な家庭を手にする為のストーリーの始まりだった。

 プロット5 行動する

 春になる。友理奈は高校3年、雄太は5年生になった。
 友作が保護者であることを、二人の学校へは届け出た。間柄は養親とした。
 「おじさん、、、養子の件お願いします。雄太もそうしたいって。私達、生まれてからずっと家族とか家庭とか恵まれていないみたいで、、、
  でもおじさんの家に来て、これが家族なんだ、暖かい家庭なんだって分かったの。だからこのままずっと、、、
  でもおじさん。ちゃんと治療して。私がケアするから。1日でも一年でも私達と一緒に居て、、、、お願いだから、、、」
 「ああ~、、、、友理奈、雄太、、、ありがとな。俺、治療するよ。俺もお前たちと一緒に、ずっと一緒に居たい。」
 友作は市役所へ出向き、養子縁組の手続きの事を聞き始めた。
 養子縁組届出書、それぞれの戸籍謄本、後は身分証明書と印鑑。それと家庭裁判所での審判が必要になるとの事。
 【あいつらの戸籍謄本か、、、○○市だったよな。住民票の変更の時に見たな。あいつらに発行依頼を書かせて郵送してもらうか。】

 養子縁組と並行して友作はある計画を進めていた。
 【友理奈、雄太。すまん、俺は長生きするつもりはないから、治療もしない。縁組が済んだら、、、、あの男を始末するから。】

 1月の終わりに友作は、河野不動産を訪ねていた。
 「おお、姫野さん。いらっしゃい。あの件、ご検討いただけましたか?」河野が笑みを湛え迎えた。
 「いえ、今日は別件で、、、木下若菜さんの借金を返そうと思いまして、、、、」
 「はあ?、、、何で姫野さんが若菜の借金を?、、、、関係ないでしょう。しいて言えば若菜の子を二人、下宿させてるくらいでしょう。肩代わりする筋の物でもないでしょうに。」
 「下宿人と言えど、家族になったんで、、、一人暮らしの俺にまた家族が出来たんで、、、あの子らにこれから苦労させない様にと思いましてね。」
 「……お金持ちなんですなぁ~、姫野さんは。」河野は左の口角を上げて不敵な笑みを浮かべた。
 「うちには子供いませんでしたから、家内も俺も慎ましく暮らしてましたんで、その位の貯金はあります。」
 「……そうですか、分かりました。貸し元は他の人ですがお渡ししておきましょう。」
 「そうですか、お願いします。では、、、預かり証を書いてください。そして借用書、証文を持ってきてください。その証文と預かり証を交換し、完済としましょう。」
 「……ほほう、、、なるほど、、、、承知しました。それで行きましょう。金額は、、、、500万。利息は、、、、」
 「利息は要らないでしょう。若菜さんのブランド品や、、、友理奈の件もありますし、、、、」友作、河野の声を遮る様に告げた。
 「…友理奈か、、、、本人がそう言いましたか、、、、そうですか。」
 「警察には言わないでとは言われています。しかし、未成年者への暴行や行為は親告罪では有りませんので、出る所へ出て利息をお支払する、、でも構いませんが?」
 「ああ、いや、、、、分かりました。利息無し、で証文を作っておきます。」
 「では、、、こちらが500万です。」友作は持ってきた鞄から封筒を取り出し、机の上に置いた。
 河野はその封筒から帯の付いた札束を出して、確かめる。
 「確かに、、、では預かり証を書きますんでお待ちください。」河野は机へと向かい、PCを操作しプリンターから一枚取り出し、署名し捺印してきた。
 「それではこちらが預かり証です。」友作にそれを手渡した。
 「……確かに、、、証文が揃ったら連絡ください。」目を通した後、それを鞄に仕舞い友作は席を立った。
 「姫野さん、、、何でそこまでするの?、、、友理奈に惚れちゃったの?」帰ろうとする友作の背中に向けて、河野が軽い口調で投げかけた。
 「河野さん、、、見縊らないで頂きたい。男が全て自分らと同類と思わない方が、、、、良いですよ。」友作、足を止め振り返らずに勤めて冷静にそう返した。
 「……あ、すいません、、、冗談です、冗談。…じゃあまた、連絡します。」

 後日、証文を預かって来たとの連絡で友作は河野を訪ね、預かり証と証文を交換した。
 「お母さんの借金、かたをつけてきたからもう心配いらない。」と友理奈へ伝えた。
 友理奈はいつまでも「ありがとう、おじさんありがとう。」と泣きながら頭を下げていた。

 友作、通信販売であるものを買い、ホームセンターでロープを購入。
 【さて、借金は済んだ。順番とすれば次は養子縁組か、、、それが決着すれば河野。それから、俺か、、、】

 友理奈と雄太の戸籍謄本が郵送されて来た。友作、確認する。
 【ん、友理奈の母親は結菜(ゆいな)?、若菜さんではないのか?、、、、お父さんの雄介さんは結菜さんと友理奈の戸籍に入っているな、、、婿養子?…複雑だな、、、、
  友理奈と若菜さんとは血の繋がりは無いってことか、、、雄太は雄介さんと結菜さんの子か? その結菜さんは、雄太が2歳の時に死んでる。その後に雄介さんと若菜さんとが結婚か、、、木下性のまま、、、若菜さんも木下、、、身元ロンダリングか?、、、
 雄介さんがその2年後に死亡、、、、、家族とか家庭とか、安らぐ場所が無かったって言ってたのは、、、こういう事だったのか、、、、。】
 友作、二人の戸籍の複雑さは関係ないとして養子縁組を進めると決めた。家庭裁判所へ出向き、申請書類を書いた。後日、裁判官による当事者全員への面談があると聞かされた。

 家庭裁判所から受け取った書類と届出書を市役所へ提出。晴れて姫野友作、姫野友理奈と姫野雄太の親子、家庭が出来た。
 その夜、お寿司を買い、親子3人でのお祝いとした。

 夏。友作のがんの進行が止まらない。
最近は身体中が怠く、腰痛もひどくなる。症状の出方は人さまざまだからと主治医は言い、早く放射線治療、抗がん剤投与をと勧めるが友作は「要らない。」とだけ答える。
 【今のうちだな、、、始末しよう。】

 「河野さん、姫野です。例のマンションの件、もう少し詳しい話を聞かせてください。工期とかその間の部屋や家財の保管とか。」
 河野を自宅へ呼んだ。
 「姫野さん、友理奈と雄太を養子にされたそうで。」
 「ええ、二人とも承知してくれました。二人の為にもいい形でここを残してやりたいと思いまして、、、すみませんね、お忙しい所。」
 「いやいや、おめでとうございます、あの二人ももう安心だ。あいつら本当に辛い子供時代だったそうですから。」
 【こいつはどこまで知ってるんだ?、お前が辛くしていた一人じゃねえのか、、、まあ、この際どうでも良い事だ。】
 一通りの説明を聞き、友作はトイレに行くと言って席を立った。

 自部屋へと戻り、右手にスタンガン、左手にロープを持ち、河野の背後へとまわった。
 ”バチバチ、バチバチっ”、、、スタンガンを当てられた河野がテーブルに突っ伏す。
 友作は河野の上体を起し、椅子に凭れ掛らせる。両手両足を椅子にタオルで縛り付ける。
 そして真新しいロープを河野の首にまわし、友作は河野と背中合わせになり、ロープを思い切り引っ張り、背負う体勢を取った。
 河野の足がバタつき、テーブルに当たり上に載っていたものが床に落ちたりした。
 友作が立ち上がる。何とか逃れようと暴れる河野。しかし河野の腕は自由が利かない。スタンガンのショックもあり直ぐに河野の力が抜けるのが分かった。
 暫く、背中越しの背負い状態を続けた友作、河野を降ろし、ロープで河野を縛る。
 【気絶しているだけかもしれない。後でもう一度、、、、しめる。】
 引き摺る様に河野を自家用車の後部座席へ乗せ、友作は郊外の山林へと向かった。
 廃寺となった建物がある山へと着いた友作。後部座席の河野の首を手を縛っていたタオルで、締め上げた。
 河野は既に絶命していたらしく、ピクリとも動かなかった。
 友作は河野を背負い、廃寺へと歩を進めた。
 そこには廃寺とは言っても本堂が辛うじて建っている。
 本堂の裏に回り、外縁廊下の一本の柱の根元に河野を降ろす。
 河野を縛っていたロープを解き、その柱と欄干に一方を輪にしたロープを括りつける。
 河野を抱き起す。
 ロープの輪に河野の首を通す。
 抱えていた河野を、、、、突き放す。
 縁石で一段高くなった犬走の土に、尻が着くか着かないかの状態で河野の身体はぶら下がった。腕はだらりと垂れ下がっている。
 「お前が生きていればまた、、友理奈に近づくよな、間違いなく食い物にするよな。そうはさせない。」友作は一人呟いた。
 この廃寺に来る人などいない。河野の死体が見つかるか見つからないかは分からない。
 数ヶ月、数年して見つかってくれれば、スタンガンの跡など消えるはず。 
 自殺として処理してくれることを願う。
 しかし河野が友作の家に行った後、行方不明となったとすれば友作が疑われる。
 【これで自分を始末できる。悔いはない、俺も居なくなっていれば、、、好きな様に解釈すればいい、、、後は友理奈と雄太がどうにかするさ。うん、どうにか生きていけ、、、金は残せたから。】

 二日後、友作の水死体が日本海の海で見つかった。
 地元の警察署へ出向き、安置された部屋へ入るなり友理奈は、両手で顔を覆い、泣き叫ぶ。雄太は両拳を握りしめ、嗚咽が漏れるのを耐えた。
 それは他人から見れば絶対にバレない、見事な演技だった。

 友理奈と雄太は、見つかった町で火葬された友作の遺骨を持ち、家へと帰って行った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?