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女神 (39) 女神

 女神

香織が泣いている。声を出さず、口を閉じ、溢れる涙が頬を伝う。
「会いたかった、、、私も、良い人たちに会いたかった、、、雄大さん、、、、、羨ましい。」
それを見て、雄大。「会えていたと思うよ。だって今まで生きて、暮らして来てるんだし。これからだって、、、」
「そうよ。会えてたと思うよ。でもね、、、その時自分がいっぱいいっぱいだったら、、、なかなか気付けないよね、、、」 杏樹がフォローする。

「雄大さんが今までで一番、力になってくれました。あの半年の間、びくびくしながらでも幸せだったと思うんです。気持ちに余裕も出来て、将来は何をしようって言うのも固まってきてて、
 でも、、、雄大さんとは結婚できないって、、、思い込んでて、、、、、裏切ったんです。私。」
「聞かせてくれませんか?」雄大、穏やかに問いかける。

「あの頃、勤め先でリストラの為の資料を作ってました。正社員にして貰えた上司に頼まれて。
 上司に信頼されてるって思ったし、、、その上司には恩がありました。重要で内密な仕事だから、私は大丈夫、リストラ対象にはならない。って勝手に思ってました。
 食事に誘われて、雄大さんと暮らしてたけど、いずれは別れないとって思ってて、、、継続雇用して貰えるならって頭をよぎったら、、、、、
 その上司は、、、そういう関係だけ欲しかったみたいでした。バカでした。私には人を見抜く目がありませんでした。
 雄大さんを、裏切ってしまいました、、、もう、一緒に暮らせませんでした。だから、、、、、、」

「あの頃って、何も約束してなかったし、、、、香織は香織で、思う様にしてもよかったんだと思うんだ。
 俺がとやかく言う事も、違う気もする、、、今だから言える事なのかもしれないけど、、、裏切ったんじゃないと思うよ。」
雄大、言葉を選んでる。よくない方でしか考えがまわらない香織の事を思い、間違って無かったよ。って言いたかった。

「う、う~、、、」香織が泣いている。
【なんで、、、なんで、、、雄大さんはこんなに優しいの?、、、本心なの?、、、上辺だけなの?、、、もっと知りたかった。……まだ、間に合うの?、、、これからでも間に合うの?】

【雄大さんらしいか、、、】杏樹、香奈、唯奈はそう思っている。

「香織さん、、、やり直さないか?、、、知っておきたかった事、伝えておきたい事は今言えたから、、、これからは、、、探さないか、一緒に。」

【ど、どうしよう、、、どうしたい?、、どうすれば良いの、私、、、、預けてみる?、、、頼ってみる?、、、連いて行ってみる?】

「私、性格悪いです。暗いです。悲観的です、、、」
「知ってる、、、悪いとは思わないけど、、、」
「持病持ちです。迷惑がかかります。お金、掛かるかもしれません。」
「みんな何かしら持ってます。身体も心も、、、どこかしら、、、」
「料理も掃除も洗濯も、好きじゃないです。」
「俺、嫌いじゃないです。こまめにはしませんけど、、、」
「美人じゃないです。豊満な身体してません。むしろ貧弱です。」
「俺、背が低いし、サル顔だし、、、貧乳嫌いじゃないし、、、」
「貧乳って言ってないもん。」と香織、頬が膨らむ。

「本当に待っててくれたんですか?他に彼女出来なかったからじゃないんですか?」
「出来なかったのか、作らなかったのか知らないけどさ、、、その間の恋人は、深田Aみだったんだよ。」と香奈。
「深田Aみ?、、、って誰ですか?」
「セクシー女優。眼鏡かけた、、、痴女物が多い。笑い声が男前の、、、」香奈、笑うのを堪えながらの答え。
「クフフフ」「アハハハハ」遠慮した唯奈や杏樹の笑いが広がる。
「……なんか、次行ってみようってのが出来ないみたいで、、、マッチングとかなんか違くて、会社とかの合コンとかもう、声掛からなくて、、、
 やっぱり、忘れてなくて、、、だから、、、」

「……私で良いんですか?、、、後悔しますよ、きっと。」泣き顔の香織が、思い切って言った。
「うわっ、、、OK、貰えた、、、後悔?多分、しない。きっと。」思わず、笑顔の雄大。

「あ~あ、、、失恋決定記念日が出来ちゃったぁ~、、、、こういう場をセッティングした時から、分かってたんだけどね、、、それでもさ、、、」と香奈。
「香奈、次、行ってみよう。」「そうそう。」唯奈と杏樹。

2年後、雄大と香織、入籍する。
結婚式とか披露宴とはしないで、レストランを貸し切ってのパーティーとした。
福井から榊の両親と妹のひかり。そして副島珠美。
小牧から、渡嘉敷の両親と、弟と妹。翼とさくら。
宇都宮から渡部の両親と妹ののぞみ。
今、同棲中の悠一と唯奈。
1人暮らしを始めた香奈。
そして、杏樹。

「雄大、香織さん。お前達には親戚みたいな家族が多いな、、、友達の様な感覚で居れば良いと思うぞ。昔ながらの親戚付き合いなんてしないで良いからな。」榊のおとうさんが言ってくれた。
「香織さん、ちょくちょく帰ってきてね。雄大への愚痴とか聞きたいし、、、説教したいし、、、」榊のおかあさんが何やら言ってる。
「お兄ちゃんの事、お願いします。嬉しい様な悲しい様な、、、」妹のひかりが微妙な顔をしている。
「私も、いい人欲しいなあ、、、アプリとかって、なんかあっさりと終わるみたいで、、、お見合いでもしようかな。」と珠美。まだまだ良い女だよ。
「雄大、女ってのはいつも良くない方向とか、良くない結果を考えてるから、、、怒るなよ。」と渡嘉敷のお父さん。
「あのお兄さん、、、、あの 女性ひと 紹介して下さい、、、香奈さんでしたっけ。」渡嘉敷の翼君が、香奈を見初めた。
「雄大、いつも笑ってね。笑顔が一番、安心するから、、、香織さんの為にも。」と、渡部のおかあさん。

「香織さんに愛想を尽かされたら、私の所へいらっしゃい。」と 杏樹。
「杏樹さんなら、私、許します。」と香織。
「お、おい、、、香織、お前まで、、、、」
「だって、、、杏樹さんて、、、、、神様みたいなんだもん。女神さま。連いて行くなら、杏樹さん。」
「そりゃ、、、そうだな。」雄大、納得。

おしまい。

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