見出し画像

響子と咲奈とおじさんと(24)

  第四章 明日への助走

  晋平の過去との巡り会い


2月に入り、いつもの様に晋平のマンションに居る咲奈。
優しくしてくれる晋平に対し、もうちょっと激しくと思う願望で、携帯で時々見る動画での行為や体位を思い切ってする咲奈。
行為の後、前から思っていた事を晋平の顔を見つめながら、恐る恐る言ってみた。
「ねえ、、おじさん。あの約束、、、卒業までっていう約束、、、延長できないかなぁ、、、お金は卒業まででいいから、後は私も働くし、、、、」
「……駄目だ、、、卒業までだ、、、それに、咲奈さんに彼氏が出来て、解消したいとなったらそれまでだ。」晋平、咲奈の言葉を予想していたのか目線を外したまま、淡々と返す。
「何で?、、、約束だから?、、、彼氏なんか作んないよ。卒業しても、おじさんと一緒に居たいもん。」咲奈、声が少し荒くなる。
「……うん、約束だからだ、、、咲奈さんには咲奈さんの人生があるから、、、」
「私の人生だから、おじさんと一緒に居たいのっ。」
「気が変わる事だってあるし、俺の事、嫌いになる事だってあるし、、、」
「……嫌いにならないもん、、、なれないもん、、、ずっと、、、ずっと、、、好きだもん。」咲奈、涙声に変わる。
「……ありがとう。でも俺が咲奈さんを嫌いになったら、俺が辛い、、、、、すまん。」
「……バカ、おじさんのバカ。」
咲奈は晋平に背を向け目を閉じた。

普通のカップルなら、言いたい事を言い合って喧嘩をし、お互いに理解し、許し合って更に愛を育むのだろうが、晋平と咲奈は、援助する側とされる側の関係である。
何処かに遠慮がある。深入りしない様にとブレーキが掛かる。でも気持ちと身体は求めあう、危うい微妙な関係である。

翌朝、咲奈は早い時間に晋平のマンションを出た。
「丸の内の本屋へ行きたいから。」「そうか、じゃ、また来月。」と言って、今朝は別れた。
大学3年となれば就職活動が始まる。卒業後の就職、どうしよう、何になろう、就職活動の為に何をしようかと、最近考え始めていた。
法律関係の仕事。司法試験は無理、、、司法書士、、、行政書士、、、公務員は国家と地方、、、企業の法務関係、、、コンサルタント、、、自分に出来そうな事、、、。と考えれば考えるほど、分からなくなる。自分は何処まで出来るのだろうかと考える。

一先ず、本屋を出た。アーケードの通りへと踏み出したところで、一人の男性と目が合った。
「あ、咲奈さん。咲奈さんでしたよね、、、奇遇ですね。」晋平と同年代と思われるその男性が声を掛けてきた。
「えっ、咲奈、、、咲奈さん?」その男性の横に居るもう一人の男性が驚いた様に、連れの男性と咲奈を交互に見ている。
「……あっ、確か、、、須藤さんでしたか、、、どうも、こんにちは。」
「こんにちは。今日は買い物ですか?」須藤と言う男性が、満面の笑み、いや、ニヤケタ顔で問いかける。
「ええ、ちょっと就職とか将来の事とか考えてて、、、何かあるかなあって思って。」咲奈も微笑みを添えて返す。
「お、おい、須藤、、、誰、この方。この若くて可愛い女性は?」連れの男性が、状況が掴めない不安な表情で須藤へ問いかける。
「うるせえなぁ~、、、邪魔すんなよ。可愛い子と喋ってんだからさぁ~」須藤の面倒臭そうな顔と言葉。
「ウフ、どうも初めまして、向井咲奈と言います。大学2年です」咲奈は、笑いを堪え乍ら、もう一人の男性へ挨拶をした。
「咲奈さん、、、そうですか、、、咲奈さんですか、、、あ、私、小林と言います。」小林と名乗った男性は最初、少し暗い表情になったが、直ぐに笑い掛けてきた。
「おい、須藤。何でこんなお嬢さんと知り合いなんだ?どこで、どうやって、どうしたんだ?」小林が須藤に向かって詰問し始める。
「あ~、も~、うるせい じじいだな、あんたも。」
やかましいわいっ。お前も俺と大差ねえだろうが。」
「ウフフフフフ、、、あ、すみません。ごめんなさい。」咲奈、漫才の様な二人の掛け合いに思わず、鼻に拳を当て、笑ってしまった。
「……あは、可愛い、、、」男性二人の独り言が、ハモった。
「ウフっ、」咲奈、可愛いと言われた恥ずかしさと、二人の面白さに笑いを堪え乍ら、顔を真っ赤にした。
「ゴメン、ゴメン。そうだ、咲奈さん。おひるご飯、まだだったら一緒にどうですか?奢りますよ。このおじさんが。」と須藤が小林の方を指さしながら誘ってきた。
「そうそう、奢りますよ。貴方の分だけね。このおっさんのは払いませんけどね。」と小林。
「良いじゃねえか、俺にも奢ってくれたって、、、儲かってるんだから、、、もうケチ臭え奴だな~。」須藤が小林に向かって悪態をつく。
「グフフフフ、、、」咲奈、必死に笑いを堪える。
「すみませんねぇ~。変な中年男性二人なんて、イヤかもしれないけど行きましょうよ。……ちょっと気になるし、咲奈さん。」
「あ、はい。ご一緒します。でも、私の分は払いますから、、、」
「いいのいいの、気にしないで。世の中は儲かっている人がお金を使う義務になってるの。」
「さ、行きましょう。」
咲奈、男性二人が並んで歩く後ろを笑いを堪え乍ら付いて行く。その道中も、二人は「お前の趣味がわからん」とか「先輩はセンスが無い」とかツッコミ合戦をしている。

咲奈が須藤に会ったのは、クリスマスイブのレストランでの食事の時。
晋平と最初に会った恵比寿のレストラン。そこにたまたま須藤が来ていた。

「あっ、えっ、、、高杉さん?」晋平と咲奈が座るテーブルの横に立つ一人の男性。
「あ、、、どうも、須藤さん。御無沙汰してます。」晋平、椅子から立ち上がりながらの挨拶。
「……ご無沙汰です。お元気でしたか?、、、と言うかお元気そうですね。安心しました。」ホッとした様な須藤と呼ばれた男性、微笑んだ。
「ええ、元気です。ようやくね、、、」晋平が照れ臭そうに返す。
「こちらのお連れさんは?、、、あ、聞くだけ野暮でしたか、、、失敬、失敬。」
「あ、初めまして。向井咲奈と言います。あ、あの、晋平さんの遠縁になります。」咲奈は椅子から立ち上がり、お辞儀をしながら挨拶をした。
「えっ、、、咲奈、咲奈さん?、、、て言うんですか?」須藤の顔が驚いた表情になった。
「偶然です。たまたまです。いとこの娘になります。」と晋平。
「そうですか、、、。でも高杉さん、お元気になられて本当に良かった。うん、良かった。」
「はい、もう大丈夫ですよ。」と晋平。
「では、私はこれで、、、向こうで家内と息子たちが待ってますので、、、失礼します。」と須藤が一礼。
「どうも、では、これで。」と晋平も一礼。

「ねえ、今の方、どなたですか?」咲奈が晋平に聞く。自分の名前に驚いた反応をしたので、娘さんの知り合いか、知っているのか、と思った。
「ん、今の須藤さん?、、、うん、弁護士さん。事故の時の、、、相手側の、、、うん。」話す途中から、目を伏せ始めた晋平。
「そうですか、、、」娘さんの事、事故の事を知りたいと思う咲奈。でもこの席では聞いちゃ良くないと思い、それっきりにした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?