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響子と咲奈とおじさんと (10)

  イタい過去との再会

【あれっ!隆一?】
駅から自宅への帰り道にあるコンビニに寄った際に、見覚えのある男性を見かける。忘れようにも絶対に忘れられない顔。
男性が先にコンビニを出る。急ぐように響子もレジを済ませ、自宅方向へ歩く。
途中の公園に、先ほどの男性。煙草を吹かしてる。響子は男性に近づく。
「あの~。この公園、禁煙なんですけど~。」わざと鼻にかかった声で声を掛けた。
「あ、すいません、、、、えっ!あっ、、、響子っ。」慌てて、煙草をポケット灰皿へ仕舞おうとして顔を向けた男、驚いた表情になった。
「やっぱり~。……お努め、ご苦労様でした。」響子、薄笑いを浮かべる。
「……ム所帰りじゃねーし。」男も薄笑いになる。
「少年院だったっけ。」
「ちげーし!。」
響子も、隆一も声を出さずに笑う。
「何してんの?」
「うん。今度、こっちに戻るんで、アパート探し。」
「うちの裏、空いてるよ。」
「いや、別の所、探してる。」
「ふ~ん。っで、見つかったの?」
「まだ。また明日、別の不動産屋に行ってみる。」
「戻るって、なにすんの?」
「国道沿いの”鈴木自動車整備”に行く。」
「へぇ~。良く雇ってもらえたね。」
「うん。つーか、今、千葉なんだ。鈴木の親父さんの知り合いの修理工場。そこで修行してた。3年前から…。」
「……3年前か、、、。てっきり、逃げてたって思ってた。」
「……うん,響子。あの時はすまなかった。本当に俺が悪かった。……すまん。」
「……謝って欲しくないなあ~。 幼気いたいけな少女の青春が台無しになって、一生残る傷が出来たんだよ、、、一生、恨んでやろうと思ってんのに、、、。」
「そ、そうだよな、、、すまん。この通りだ。」隆一は、土下座をしようとしたのか、しゃがみ込もうとした。
「止めてよ!。人が見たら、私がとんでもない人に見えるじゃん!。」響子は、困らせてやろうとしたさっきの言葉を発したのを少し悔んだ。
隆一は、片膝を地面に着いた状態で、目を伏せて動かない。響子も次の言葉が見つからない。
暫くの沈黙の後、隆一が立ち上がりながら、
「今度、俺、嫁さん貰うんだ。」
「へぇ~。なんて言って騙したの?。」
「……うん。」苦笑いを浮かべながら隆一は続ける。
「で、嫁さんとこっちに戻るってんで、今日は部屋探しだったんだ。 ただ、、、。」
「ただ、何?」
「嫁さんにはお前の事、話した。……あの事。」
「……。 」
「嫁さん、今度二人で謝りに行こうって。許してくんなかったら、許してもらえるまで何でもしよう、二人で。って」
「……ふ~ん。何でもねぇ~。 」
「うん。何でもだ。許してくれるまで、、、。お前に、、、。」
響子は薄暗くなった空を見上げ、暫く考え込む。
「……あの事、その人以外には話してないよね?。」
「あぁ、話してない。」
「今度、二人でこっち来るとき連絡ちょうだい。その時、条件を言うわ。」
「……判った。……話しとく。」
「覚悟しといてね。……相当つらい条件になると思うから、、、。」
隆一は大きく鼻で息を吸い込み、ハっと口から吐き出し、「うん。覚悟もしとく。」
「じゃ、番号教えて。」響子は鞄から携帯を取出し、通話画面を呼び出す。
「080 515* ****」隆一が言うと同時に番号を押す。隆一の携帯に呼び出し音が流れる。
「それが私の番号。登録しといて。」
「……判った。今度来る時連絡する。」
「じゃ、帰ろっ。……今日は千葉に帰るの?お母さんとこの?。」
「うん、お袋のとこ帰る。……嫁さんと生まれる子供の事、色々相談しないと、、、。」
「そう、赤ちゃん出来てるの、、、よかったじゃん。……そうそう、私の事、絶対内緒だからねっ、判ったわねっ。」
「判ってる。俺からは言えないよ、、、。」
響子の家、隆一の両親の住むアパートまで二人は並んで帰る。

「久しぶりだね~二人で帰るの。小学校以来かな~。」
「そうだな。……俺が中学ん時は、お前が後ろをくっ付いて帰ってたな。時々な。」
「……そうだね。帰る時間が変わっちゃったもんね。隆一が中学生になったら。よ~く待ってたんだ、表通りで。隆一が来ないかなって。んで、隆一が来たら隠れて、通りすぎたら後着いて、、、。」
「……響子が5年生の時、俺が中一の時か?、、、、ランドセル、川に落とされてたのって。」
「うん、6年生に生意気だって小突かれて。転んだとこに隆一が来て。”お前ら、何やってんだぁ!。”って」
「そしたらあいつら、お前のランドセルを川の方へ投げたんだったな。」
「あいつら走って逃げた。……で、家に帰って教科書とかノートとかランドセルを隠れて乾かしてたら、隆一が昔の教科書を持ってきてくれたんだったよね。」
「あ~、そうだったな。使えるかどうか判んなかったけど。」
「隆一が言わなくても良い事言うから、お母さんにバレちゃって。あれから学校へ怒鳴り込み。」
「言って無かったとは思わなかったんだ。許せ、……今頃言ってもしょうがないか。」
「ふふっ。あれから6年生の奴ら、親と一緒に謝りに来たよ。うちへ。教科書代やノート代持って。」
「俺の教科書は役に立たなかったな。」
「う~うん。隆一の教科書、持ってってた。……だって、パラパラ漫画とか描いてあったから。ハハハッ。」
「……勉強、ついていけてなかったんだよなぁ。遊んでばっかりいた。」
「あたしは一人でニヤニヤして楽しんでた。パラパラ漫画。……でもすっごい嬉しかったんだぁ。」
「……恥ずかしいなぁ~。」隆一は頭を掻きながら照れ臭そうに言う。
「……響子、聞いていいか?」隆一は立ち止まり、俯きながら言う。
「何?」響子も立ち止まり、横の隆一の顔を下から覗き込むように答える。
「……怒らないのか?。……もっと喚き散らすぐらい怒んないのか?。」
「……。」
「……怒って良いんだ。……殴っても良い位だ。……俺は、、、。」
「……ほら、私って変わってるじゃん。昔っから、、、気が強いのか、弱いのか分かんなくて、人に強く言ったり、自分で抱え込んじゃったり、、、
 自分でも良く判んない。……怒ってないと言えばウソだけどさ。……でも、やっぱ、判んない。」

響子は、あの時感じた隆一への申し訳無さや自分の無力さが、今でも心の中の重しになっていると感じていた。
隆一に対しての怒りが無いとは言えない。両方持ち得ているが故かもしれない。
心の重しが無くなるには、何が必要かも判らないでいた。
二人はまた歩き出す。無言のまま。

響子の家の角に着く。
「じゃ、連絡ちょうだいね。……また。」
「あ~。連絡する。」隆一は角を曲がり、アパートの方へ向かう。

響子は家へと入る。家の中から大きな声がする。「ねぇ~ねぇ~、あの隆一がさぁ~帰ってくるんだって、ム所からっ!」
「…おい!、ちげーし。…まっ、いいか。」隆一は裏のアパートへ向かう。

翌朝、響子がLINEをチェック。咲奈から、 0:45着信。
--返事着てた。
--土曜日 12:30
--なんか ホッとした(´▽`)
--またあした

【短ケっ。……バイト上がりで眠かったか。】


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