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女神 (33) 唯奈


第四部
一人立ち

唯奈

香奈と唯奈、2年間の専門学校を卒業し、それぞれの道を歩き始める。
香奈は、トラベルコーディネーターとして浜松町にある「H○Sトレードセンター店」に勤務。
唯奈は、パテシエ見習いとしてお茶の水にある洋菓子店に勤務。
この洋菓子店のオーナーはNon Status(ノン ステータス)の常連さん。
ある時「君たちのバニーガール姿が見たい。ハロウインにコスプレしてよ。」とリクエストがあった。
東京へ出て来て2年半、杏樹の指導のもとでの良い女成長プロジェクトもかなりの効果を上げてきている。
この成長を見て欲しい欲求も出てきている。思い切って二人で網タイツとレオタードの黒猫ガールになってみた。
そのオーナー、大感激。ご満悦。
ある時、唯奈が製菓学校に行ってると言った時、「お茶の水の○△□って言う洋菓子店、人の育て方上手いよ。行ってみれば。」とアドバイスをくれた。
アポを取り面接に行ったら、険しい顔をして厳しく、注意を周りに与え続ける別人の様な常連さんがそこに居た。
「自分自身、メンタルが弱いとか思うなら来るな、多少の事ならコントロール出来ると思えば、来い。鍛えてやる。」
「よろしくお願いします、私を鍛えてください。」
今、修業中。就職を機にそれぞれがアパートを借りる予定だったが、「貯金できるまで、置いて。」「良いじゃん、彼女出来てないし。」なし崩し的に、雄大のマンションへ居座っている。

「ただいまぁ~、、、あれ、唯奈は?遅いのか?、、、、」
雄大が帰宅する時間には、いつも唯奈は帰ってきている。洋菓子店は朝早くから始まり、夕方には翌日の仕込みをすれば、その日は終わりとなる
勢い、唯奈が夕食担当になる場合が多くなっていた。しかし今日は香奈がキッチンに立っていた為の雄大の先程の第一声だった。
「今日はお泊りだってぇ~」
「そうか、、、お泊まりかぁ、、、、、、えっ!、唯奈がっ!、初めてじゃんっ、唯奈の外泊なんて、、、、で、相手は誰?、、お店の人?、、、学校の時の?、、、誰?」
「悠一さんだよ。杏樹さんとこの、、、、雄大さん、知らなかったっけ?唯奈が前から好きだったの、、、、」
「……悠一君かぁ、、、いつから?、、、、アルバイトの時?、、、最近?、、、なんか、ちょっとショックが、、、保護者の気分だ、、、」
「雄大さんって、鈍いよね、ハハハ。ほら、唯奈のお父さんが逮捕された時からくらいかな?、、、雄大さんも行ってくれたじゃん。あん時。」
「あ~、そう言や~悠一君が一緒に行ってくれたんだったな。あん時。」

成人式の後、唯奈の父親は妹の有希奈に対し、暴力を振るうようになった。止めに入る母親にも暴行を繰り返す。
ある日の夕方、Non Status(ノン ステータス)の従業員控室で、黒服に着替えていた唯奈の携帯に有希奈からのSMSが届いた。
”助けて お姉ちゃん パパに殺される”
その画面を見て固まる唯奈。その画面を横から覘く香奈。
「えっ、殺される?、、、唯奈、電話!、、、香奈のパパに電話してっ!」思わず声を上げる香奈。
「………わたし、、、、あの家族とは、、、、、、、」プルプルと小刻みに震える唯奈。
「そんなこと言ったって唯奈、、、後悔するでしょ。もしもお母さんと有希奈ちゃんが殺されでもしたら、、、」
「・・・・・・ど、どうしよう、、、、あの人の事だから、警察が来ても何事も無かった様に追い返すだろうし、、、、逆上して、、、、」
「失礼します、、、入ります。」悠一が控室のドアを開けて入ってきた。
「唯奈さん、聞こえてしまいました。お父さんを説得しに行きましょう。俺、行きます。雄大さんへも連絡します。まずは杏樹ママへ報告します。」
悠一は唯奈と香奈へそう言った後、オーナー室へと向かった。
しばらくして杏樹と悠一が控室に来た。
「唯奈ちゃん、雄大と悠一と一緒に行きなさい。雄大には今、連絡したわ。直ぐにここに来るって言ってたから、、、
香奈ちゃん、唯奈に連いて行って。あなたがそばに居てあげなさい。良いわね。」
「はい。」「……すみません」

雄大が来た。自分の車を取りに帰ってると遅くなる。社有車に乗ってきた。
「これで行こう。所長には簡単に事情を話したら、許可してくれたから、大丈夫だ。」
唯奈と香奈を後部座席、助手席に悠一を乗せ、雄大が運転するカノンリース㈱の営業車は茨城県牛久を目指した。
途中、車の中から香奈は父親に電話する。唯奈の父親が逆上する可能性、警察を追い返す可能性を伝えた。

唯奈の家のそばに来た。後、数十メートルで家の前と言う路地に、車を止める。付近には数台のパトカーが居る。香奈のお父さんが居た。
「唯奈、大丈夫だ。今は刺激しない様にしている。家の中で異変が起きれば、直ぐに突入できるようにしてある。大丈夫だ。」
「お父さん、ありがとうございます。その時はお願いします。先ず、唯奈と俺、悠一君が行きます。、、、香奈とお父さんは、待ってて下さい。唯奈のお父さん、二人にはおかしな反応をしそうで怖いんで、、、それから、、」
雄大がこれからの作戦を香奈のお父さんへ説明する。
「ああ、夕方、交番勤務に巡回を装って行って貰ったんだが、父親のみ応対したそうだ。奥のダイニングに二人居るかどうかが分からない。」
警察官が数名で訪問したら、逆上するとの予想も同じの様だ。

唯奈が玄関横のボタンを押す。中でメロディが流れる。誰かが歩いて来る。
「……どなた?」ドアの向こうからの声、父親だ。
「唯奈、、、開けて。」
「なんの用だ。」
「……忘れ物、、、」
「あの時、燃やしたんじゃないのか」
「燃やせなかった物、、、」
しばらく静かな時間が過ぎる。ドアのロックを開ける音がした。ドアが開く。
「2階か?、、、直ぐに終わらせろ。終わったら、、、、出て行け。」そう言う父親の顔が泣いていたかのように、目が赤い。
唯奈が玄関へと入る。父親がドアノブを引こうとするその手を、悠一が掴んだ。
「だ、誰だっ!お前はっ!」
悠一は掴んだ手を捻り、父親の背中へと廻した。父親が身動きが取れない。その横を雄大が中へと入る。
それを合図に、警察官たちが一気に家の中へと突入した。
ダイニングに居る母親と有希奈を雄大が見つけた。ガムテープで上半身を拘束されている。
「たとえ肉親でも、暴行傷害の現行犯だ。被害者2名、午後、8時35分確保。」雄大の後から入った香奈の父親が宣言する。
二人に巻かれているガムテープを雄大が解く。
悠一が警察官へ唯奈の父親を引き渡し、逮捕。
救急車が到着し、母親と有希奈を病院へと搬送する。
唯奈は悠一とパトカーへ乗車し、救急車の後を追う。
唯奈の家に残った雄大、香奈と香奈の父親。
「お父さん、ありがとうございました。サイレンとか鳴らさないで頂けたので、なんとか穏便に終えました。」
「本来なら一般の方を危険にさらすなんて怒られそうですが、渡嘉敷さんなら、と思ったので、正解でした。ありがとうございます。」

詳しい事情は翌日に母親から聴取するとして、雄大、香奈、悠一は帰る事にした。
「唯奈、今夜はそばにいてあげるか?」雄大が聞くと唯奈は
「……帰る、、、許せないのはあの人だけじゃないから、、、まだ、、、、、ムリ。」唯奈の傷は深い。
4人で帰る。

数カ月後、唯奈の両親の離婚が成立し、母親と有希奈は水戸市へと転居した。

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