さよならのあとさきに 清明 (5)
社会人となり10年。比呂と淳はあれ以来、会っていない。
仕事が忙しく、休日も合わなかったりしたせいでもあったが、元々恋愛感情が湧かない二人。相手に依存する事も無く、それぞれが思う様に暮らしてきたからだった。
比呂は、国内の高規格道路、新設新幹線の駅舎の設計から現場確認で働き甲斐を見つけている。
会社や現場の男性は、学生時代スポーツで鍛えた身体を持ち、明るく大きな声で話す人たちが多い。
大柄な比呂も目立たないくらい、普通の女性として居ることが出来ていた。
当然、デートや食事の誘いも来る。出来るだけ応え、淳以外に信頼できる人を見つけようとした。
二人の男性と、お付き合いするまでに親密となり関係も持ったが、長続きしなかった。
その理由は、優しいと思うのは最初だけで、乱暴な時もあり独りよがりで自己中だった。
淳との時の様に気持ち良くならない。痛いだけの時もある。
気持ち悪いことをされ、ラブホテルの壁に思わず怒りをぶつけ、穴をあけた事もあった。
それ以来、お誘いも減ってきた。おかしな噂が立っていると聞いた事もある。
【もう、いいや、、、理想の人って現われなかったらしょうがないじゃん。一人でも生きて行けるし。】
悟りらしきものを開いた、比呂。
淳の方は、1年毎に東京都内の各営業所を渡り歩き、アパートやマンションの内見、案内、契約と忙しく飛び回っている。
営業所の女性や同僚から誘われ合コンに参加する事もたまにあったがその後、誰かと消える事は無かった。.
『収入が有って、学歴もあって、優しくて、浮気はしないで、料理が出来て、アウトドアが趣味で、健康に気を使ってジムに通い、私の事を一生愛してくれる人が理想よね。』
自分を高く見せようとしてるのか、我こそはという男性のアプローチを促しているのかは分らないが、意識高い系の女性達。
【そんな奴、どこに居るっつうの。どこかしら見劣りする男に捕まって、昔の知り合いに見つからない様に暮す奴の多い事。見栄張るのもいい加減にせいっ。】
男性の前では大人しく、女性同士では際どい話をする女性達。
臆病者を演じ、無知を装い、好奇心旺盛を振舞う。
自分の理想の計画は持ってはいるが、それを相手の男性に任せ、一つ一つ評価する。合格とか残念とか、もう少しだけど努力は買うわ、、、とか。
【何様だよ、、、望み通りの言動の男なら良いのかよ。結果が違ったら罵るのかよ。いい加減にしろや。】
何度か誘われるまま、ベッドを共にする事もあった。笑われるんじゃないかと気が気じゃ無かった。がっかりされるんじゃないかとヒヤヒヤした。
積極的な子は「ヒェっ、」とか「ウフっ」の声を漏らし、股間に顔を埋めてきた。
猫を被ってる子や消極的な子は、俺のされるがまま。
「また会ってくれる?」、「今度どっか行こうよ、連れてってよ。」という会話が事後に無かったのが、全てを物語る。
結局、風俗へ通う日々だった。
「淳、久しぶり、、、元気だった? 今度会えないかな?、、、、実はねぇ、海外赴任が決まったの。7,8年は帰ってこれないの。」
比呂からの電話。
「何時でも良い、比呂の都合のいい日に合わせる。会社は休んでも構わないから。」と返す。
「今度、どこだっけ?」と淳。
「中央アジア、ダムと水力発電所、その近くを通す高速道路を作る国家プロジェクト。何社かのベンチャーでね、私は発電所担当。」
「すげえな、、、比呂、すげえ。」
「うん、官民総力戦で勝ち取ったの。最初から参加したし、決まった時はその場にへたり込んじゃった。」
「いつ出発すんの?」
「来週初め、部屋も引き払った、、、淳、今日は泊めて。」
「ああ、良いとも。」
比呂と淳、あの日以来10年ぶりの夜。
翌朝、近くの駅まで歩く二人。
「淳、、、もしさぁ、このプロジェクトが終わって帰った時、淳がまだ独身だったら、私と一緒にならない?」
「ああ、良いよ。一緒になろう。でも、、、」
「でも、何?」
「お互いに束縛しない様にしないか。」
「そう言うと思った。……嘘、一緒にならなくていい。たまに帰ったら会って。それで良い。」
「うん、待ってる。何時でも空けておく。」
「じゃあ、比呂。頑張っておいで。」
「うん、頑張る。淳、、、、、行ってきます。」
【淳とはきっと上手くいかない。人と共に人生を歩む事は、彼には難しい事だと思う。それは私も同じ事。
彼は彼で、私は私で、、、生きていくのが良いの。
やっぱり似た者同士なのかな、、、、分らないけど、たまに会えればそれで良い。
ひとまず、、、、さようなら、、、、】
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