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ザリガニを食べて労働の対価に思いを馳せた話

こんにちは。
あなたの人生のエキストラ、よくいる佐藤です。貝類が苦手です。

人間と私

数年前、モラトリアムのさらにモラトリアムな頃。
仕事もせずに家からほとんど出ない時期があった。いわゆるニートである。

その頃は駅やスーパーなど不特定多数の人間がいる状況にぼんやりとした恐ろしさを覚えていた。普通に暮らしている人達の中に普通に暮らせていない自分がいるということに罪悪感を覚える瞬間が多々あった。

それでいて、大学の同期達を見れば一流企業で活躍しているものだから、何でも良いので働いて口に糊するなどという選択肢は……あったかもしれないが、当時は選べなかった。当然細々と暮らしても収入は無いので口座の残高は日々減ってゆく。そんな時期の話である。

近所のどぶ川

大まかな計算上、来月までに何らかの収入源を得なければ生活もできず、実家に帰る金すら無くなるという状況だったと思う。スーパーの帰りに近所のどぶ川が目に入った。

小さなころから生き物を見つけるのが得意だった。
小学生のころ50㎞/時くらいで走る車の中から枝に擬態したナナフシをみつけて車を止めてもらい捕獲した経験がある。人に自慢はできない謎のスキルだ。

そんな私の目はどぶ川のなかに濁った赤色がいくつかあるのを見つけていた。間違いなくアメリカザリガニの生息地になっている。

アメリカザリガニは昔食用として日本に入ってきた。そんな嘘か真かあいまいな話を思い出し、私は帰宅してザリガニ捕獲用の罠を作成した。

捕獲手段

ザリガニ捕獲用の罠を作るのはそんなに難しくない。
2リットルのペットボトルを加工し、入ったら出づらい形にする。そして中になるべく臭いのある餌を入れて水に沈めればよい。
(ペットボトルの口部分は切った方が大物を捕らえやすい)

お金も無かったので薬局で大幅値引きされていた犬の餌(缶タイプ)を使用した。間接的に自分の腹に入る可能性は考えていなかった。

一晩川に放置して翌朝、なるべく人がいない時間に回収に向かう。
二つの罠に合計5匹、良いサイズのザリガニが入っていた。

調理と実食

すぐに調理するには泥臭さが怖かったので2日程糞出しのために水を入れ替えながら放置した。水槽など無いのでユニットバスの浴槽に浅く浅く水を張った。
アメリカザリガニを捕獲場所から生きた状態で移動する行為は当時の法律的にはセーフだったと思う。今は知らない。(※追記:だめになったらしい)

糞出しの後、茹でる。色々こわいので10分以上は茹でる。
茹でて殻を剥くとカニカマみたいな色の小さな身が出てきた。一口にしても小さすぎるくらいの小ぶりな身だ。

とりあえず塩コショウをかけて食べる。……うまい。
カニとエビの間みたいな味がする。風味などはカニ、食感はエビといった感じである。あっという間に5匹食べきってしまった。

そして、まだ大学院生の余韻がどこかにあった私はその経験をレポートに残した。この記事はそのレポートの悲痛さをいくらか希釈して書いている。

因果関係があるかは分からないが、その翌月、私はニートからフリーターに昇格した。

若さゆえの愚かさ

今の私はいわゆるアラサーである。
あの頃よりは余計なプライドも無くなり、大学の同期達ほど立派ではないが正社員として雇用され、生きていくのに十分な収入を得ている。一度立ち止まった人間に決してやさしくない世の中で、運に恵まれた自覚があるが、それでも今の自分に納得できない日はある。

そんな時にふんわりとあの日の味を思い出す。
意外にも美味しくて、量は少なく、働いて稼ぐ理由に立ち返らせてくれる。

こんなもんをこんなに苦労して食べるくらいならちょっと面倒でもとりあえず働いて稼ぐ方がましだなあ……と。

それくらい可食部が少ない。心に余裕がある人はぜひ一度チャレンジしてみてほしい。切羽詰まった感じがなければ捕獲も調理も実食も普通に素直に楽しめると思うので。個人的にはたくさん集めてザリマヨとかいいと思う。

ちなみに

私が暮らしに行き詰って食べるに至ったザリガニだが、趣味?のような形で捕獲して食べている人も結構いることを後年知った。

自然にあるものを捕獲、収穫して食すことを野食というらしい。
自然の楽しみ方や食糧問題へのアプローチのひとつとして素敵なことだと思う。ちなみに私はザリガニを食べたくらいの時期に雑草も炒めて食べて普通にお腹を壊した。野食はよく調べてから行うことをお勧めする。

最後に

アメリカザリガニは外来生物として生態系を大きく変えてしまう存在でもある。湖沼や河川への放流は言語道断、捕獲した場所から生きたままの持ち運びも避けるべきである。(※追記:やっぱりだめになったらしい)

あなたがもし「ザリガニ食べてみようかな」と考えた場合、私からのアドバイスは下記の通りだ。

1.泥抜きなしでも尻尾の真ん中をつまんで引き抜くと背ワタが抜ける。
2.それでも臭みが残る場合も料理酒などでほぼ除去できる(らしい)
3.火はめっちゃめちゃよく通した方がいい
4.小鉢1杯分で5、6匹は必要。がんばれ。

それでは、良い野食ライフを。

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