政治とカネ
探していたタイプの書籍をやっと見つけることができたので、記事にまとめることとした。
なお、まだまだ政治のことが分からない、一般国民目線で見た意見ということを考慮いただきたい。
探し物とは
新人の国会議員がまっとうに活動する際に、活動にどの程度のお金を要するのか。
これが分からないうちから「国会議員は多額をもらっているのにけしからん」などとはいえない。
私腹を肥やすために金が足りないと言っているのか、
精力的に活動するには本当に金が足りないのか、
サボっているから金が足りるのか、
精力的に活動していても効率的その他の理由で金が足りるのか、
議員経験や議員スタッフ経験のない国民には、いずれなのかを判断できない。
これを判断するには、新人の国会議員がまっとうに活動する際に、どの程度のお金を要するか、この情報を持っていることが前提となる。
『シン・ニッポン2.0』には以下の記述がある。
支出の度合いと活動の度合い。このうち、支出の度合いを知ることのできる情報。この観点の情報が議員当事者目線で分かりやすく記されている書籍を探していた。ちょうどよいものが見つかったと思う。
なお、今回の書籍は「政治には金がかかる」と考えていると思われる議員のものとなっている。パーティー収入で事務所収入の補充が必要と考えているようなので。「金をかけなくても政治はできる」という主張の議員も、書籍などどこかで同程度の解像度で情報を出してもらえるとありがたい。
当方が知らないだけで、情報を出している議員はいるということであれば、当方の不勉強によるもの。お教えいただければありがたい。
書籍『国会議員の仕事』
今回の記事で参考としている書籍は『国会議員の仕事 職業としての政治』。
以下、副題を省いて『国会議員の仕事』と記すことにする。
著者は、林芳正氏と津村啓介氏。自民党議員と元立憲民主党議員(書籍発売当時は民主党議員)。党派性の全く異なる議員の共著というところも興味深い。
「書籍発売当時は民主党議員」と書いたように、少し古い書籍となっている。書籍の発売が2011年。この記事は、書籍のうち2003年から2006年の活動に関する部分を取り上げている。
そのため、今の事情とは異なる要素があると思う。政治資金法制が変わっているところもあるだろうし、国民意識が変わっているところもあるだろう。とくに、最近の政治資金問題で議員の意識も変わる部分があるかもしれない。
しかし、何も情報がないところから考えるよりは、ここに記された情報をベースに、今の事情との違いを掘り下げていけば、より深く考えることができると思う。
他の書籍『シン・ニッポン2.0』との比較
この書籍よりも前に『シン・ニッポン2.0』を読んでいる。この記事と同じ観点でつぶやいたこともある。
『シン・ニッポン2.0』の「国会議員の懐事情」を中心に、こんなものにお金がかかるという説明が記されている。しかし、こんなものにかかる、あんなものにかかる、その程度の記述に留まる。情報が断片的で、結局のところ月いくらくらいかかるのかという部分は分からなかった。
『国会議員の仕事』では、より直接的な記載になっている。この記事では『国会議員の仕事』を中心にまとめることとした。
ただ、必要とされる支出の背景などは、『シン・ニッポン2.0』に掘り下げた記載が見られる。合わせて読むとより理解が深まると思う。
書籍内で参考とした箇所
『国会議員の仕事』に記されている内容のうち、以下の部分を参考にしている。津村氏の一期目の活動に相当する。
この書籍の読みどころは、上記以外にもいろいろあると思う。しかし、ほとんど読んでいない。上記以外では、林氏と津村氏の双方、「国会議員になるまで」を読んだ程度。そこまで読んだところで通読をやめた。
そして、この記事のきっかけだった「探しもの」に沿う部分をピンポイントで読むと、ぴったりの内容だった。ただし文章ベースの記載内容だったため、当方で表にまとめている。
林氏に関わる部分には、収支を網羅的に知ることのできる情報がなかったため、取り上げていない。津村氏に関わる部分だけを取り上げている。また、収支に関連の薄い要素は省いている。とくに、直近の落選の原因に関わるだろう噂などには触れていない。
収支
国会議員個人の収支
『国会議員の仕事』の「国会議員個人の収支」に記されているものをまとめると、以下のようになった。
赤背景の部分が政治目的で使っているもの、青背景の部分が私的に使っているものを表す。
緑背景は、書籍に記されている情報から算出したものを表す。
書籍内に年額が記されているものは「年額」のみを記載した。
書籍内に月額が記されているものは「月額」を記載して、12倍したものを「年額」に記載した。
転記ミスがないことを確認できるようにするため、記載のもととなる部分を書籍から抜き出しておく。
持ち家で家賃要らず、手取り月31万円相当の生活と考えればいいと思う。
これを見て、高給取りといえるかどうか。
個人的にはあまり高給取りとは思わない。
当時の都道府県別統計がどこにあるか分からなかったので、令和4年統計を確認した。これによると、東京都の平均賃金は月37.5万円。年収450万円。ネット情報では手取り351万円となる模様。
これを見ると、手取り年額で東京都平均より33万円ほど高い。手取り月額にして+27,500円程度だろうか。そこまで高級取りとは思わない。
ただし、以下3点には留意する必要があるだろう。
まず、N=1であること。これが典型的な新人国会議員の収支なのかは分からない。
次に、政治に金がかかると考えているだろう議員の収支であること。金をかけなくとも政治はできると考える議員であれば、その分、私的に使える分は多くなる。
最後に、これはやや古い情報。記載されている2003年~2006年は約20年前のもの。20年の経過をどう読むかという観点もあると思う。
事務所の収支
『国会議員の仕事』の「政治資金──収入」「政治資金──支出」に記されているものをまとめると、以下のようになった。
緑背景は、書籍に記されている情報から算出したものを表す。
書籍内に年額が記されているものは年額のみを記載した。
書籍内に月額が記されているものは月額を記載して、12倍したものを年額に記載した。
人件費は書籍には「月一○○万円を優に超える」とある。完全に明かすことはできないのだと思う。他人の給料を明かすことになるのは問題なのだろう。上表には月額100万円と記すことにした。その分、支出はやや控えめの表となっている。
転記ミスがないことを確認できるようにするため、記載のもととなる部分を書籍から抜き出しておく。
おそらく書籍には、大きな金額だけが記されているのだと思う。それでも、収支のおおよその部分を見える形にしていただいているのはありがたい。
以下の2つの部分に矛盾があるように思う。文書通信交通滞在費の全額は、年間1,200万円のような気がする。当方に読み解きの誤りがあるのだろうか。
収支の各要素について
私設秘書
書籍の該当箇所は以下のようになっている。
公設秘書3人+私設秘書6人+スタッフだろうか、
公設秘書3人+(私設秘書+スタッフ)6人だろうか、
秘書の役割、事務所をどのくらいの人数で回せそうなのか見当がつかないため、見当はずれなことを言っているかもしれない。
公設秘書と私設秘書の扱いは『シン・ニッポン2.0』に記されている。
また、私設秘書やスタッフの人数も『シン・ニッポン2.0』に記されている。
『シン・ニッポン2.0』を読んだとき「公設秘書を入れて最低でも七人くらい必要」という記述を信用しきれていなかったところがある。党派性の全く異なる津村氏が「計九人の秘書・スタッフを雇っている」と言っていることを考えると、おおよそ間違っていないものと思われる。
両書籍を見ると、二期目が通るか不確かな一期目の議員についてきてくれる奇特な秘書を7人~9人ほど揃えるだけの運や人脈があり、それを雇うだけの資金を調達できる環境にある者が、雇った人員を用いて丁寧に仕事でき、それが二期目の当選に結びついている。そのように考えることもできそうだ。
収支を公開してくれる別の議員がもう少しいるとありがたい。秘書が少なくてもやっていけるという議員がいるなら、そういう議員の収支もみてみたいと思う。
選挙区事務所
地元山口の現事務所をGoogleStreatViewで見ると、2011年1月時点では事務所はなく、整形外科だったようだ。2011年6月には壁にポスターが貼ってあることから、この頃に現事務所に引っ越したものと思われる。書籍の後半に記されているのかもしれないところ、そこは読んでいない。
書籍記載の月額25万円の事務所とは異なるようなので、この金額を掘り下げるために十分な情報はない。
つぎに『シン・ニッポン2.0』で選挙区事務所の説明を見てみる。
この内容はやや盛り感。地域要素が大きい部分もあると感じる。地方で車社会だと、車で訪れることを中心とした場所となるような気もする。そうなると駅前を選ぶのが最善とは言い難い。
津村氏の現事務所だと、やや最寄駅からは離れる。最寄りの新幹線停車駅、岡山駅前から約7km。路線価は5万7千円。駅前に比べて路線価が二桁下がる場所。駅から7kmならタクシーで訪れることも可能な範囲か。
話は変わって、国会議員と地方議員でどの程度事情が変わるか分からないところ、地方議員の事務所事情を公開している議員がいた。音喜多駿氏がアゴラに寄稿した記事のようだ。
「政治・選挙事務所としての利用はNG」「うちはずっと◯◯党さんの支持だから…」といった苦労は、国会議員も地方議員も変わらないのだろうと推測する。
事務所事情は地域差がありそうに思う。N=1ではなかなか検討しづらいように思う。
交通費
『国会議員の仕事』の「議員宿舎と議員パス」には、以下の記述がある。
3往復分はクーポン、他は自腹ということになるのかもしれない。『シン・ニッポン2.0』には以下の記述がある。
このあたり、別枠で月あたりの支出を出してほしいと思った。
そして、議員の移動には秘書が同行する。これは『シン・ニッポン2.0』に記されている。
議員は議員パスが使える。しかし秘書の交通費は議員の自腹。津村氏の場合は、事務所から支給ということになるのだと思う。月に四~八往復ということは、往復分に限っても、秘書の交通費に月20万円~40万円かかっていることになる。実際には、地元との往復以外の交通費もあるだろう。そこそこの規模の支出と思われる。
これら、議員交通費と秘書交通費は、人件費とは別で集計したものを確認したかった。
地元との交流の必要性
ここまで記してきた金額の多くは、地元との交流の必要性に由来する。
頻回の移動、「月に四~八往復、年間で六○往復」は、地元との交流を前提としたもの。
地元に事務所を置くのは、地元の声を陳情として受け付けるためのもの。
地元事務所に配置する秘書やスタッフは、地元事務所を置くことが前提となるもの。
この考えに至る背景も書籍に記されている。関連する部分は2か所ある。
ひとつは初当選前の説明に書かれた点。
もうひとつは、初当選後の説明に書かれた点。
政治家を目指すルートに、以下の4つが示されている。
① 地方議員ルート
② 秘書ルート
③ 政策調査会スタッフ
④ 候補生公募
①②③を経て国政に出ている場合、①②③のうちに看板(知名度)を得ることはできるかもしれない。また、①を経ている場合は、①のうちに地盤(後援会)も得ているのだとも思う。
津村氏の選択は④だった。看板や地盤がない者が④を選択した場合、地元との交流に力を掛けることはどうあっても必要に思う。津村氏は候補者の頃、ポスター貼りで地元に知ってもらう戦略を用いていたことが書籍に記されている。このような地元密着型の戦略である以上、当選後も、地元との交流に力を入れていたということだろう。
ただ、国会議員がその戦略を用いる場合、地元との往復を頻回行うことになる。津村氏はほぼ毎週に近い頻度で地元に帰り、地元との交流に力を入れていたものと思う。それは、「東京と岡山の交通費を毎回全額自己負担するとしたら大変だ。月に四~八往復、年間で六○往復として、一往復五万円ほどかかる」と記していることから窺い知れる。この頻度が適正か、議員として典型的か、このあたりが分からない。
ここをどう考えるかが鍵になりそうに思う。『シン・ニッポン2.0』にも週末は地元に帰るのは当然と考えているように見える記述が記されている。お金がかかると考えている議員は、地元との交流に重きを置いているのだと思う。
ネットに触れることのない、情報源がテレビや新聞という層を中心に、どのように知名度を上げていくか。ネット社会と言えど、情報源がテレビや新聞だけという層はまだいると思う。メディアが公平に取り上げてくれればいいのだが、そこは期待できそうにない。そうすると自ら地元にアピールしていく必要はあると思う。その方法が問われているということになるように思う。
話は変わり、偶然にも津村氏と同じ岡山の小野田紀美氏の発言「挨拶に来ないと有権者から怒られますが政治の仕事には差し支えない」というところが気になる。
小野田氏は現時点で当選2回だったと思う(『国会要覧』75版、2023年8月版、p.261)。2022年7月の参院選で公明党の推薦を蹴っての当選が記憶に新しい。するとこのポスト(ツイート)の頃には一期生ということになるだろうか。
地元に事務所と秘書を置くことは必要と考えているものの、交流には別の考えなのかもしれない。地元の餅つきはやっているし、交流の回数を押さえて濃さを高める戦略なのかもしれない。
こういう考えの人の収支もみてみたいと思う。考えの異なる議員の収支を比べることで、地元との交流の必要性、交流のありかたが見えるのかもしれない。
勉強会、議員連盟
勉強会などの支出。このあたりは『国会議員の仕事』から窺い知ることはできなかった。書籍の後半に書かれているのかもしれない。ただ一期生のところには書かれていなかったように思う。
『シン・ニッポン2.0』には、勉強会や議員連盟のことが記されている。ただ、断片的な記載、自民党寄りの記載が多く、あまりわからなかった。
議連に関する支出だけは、この記事の視点で見た場合に、やや詳しく記されていた。
単純計算で、300円×100=3万円。年間36万円。そこまではいかないにしても、民間勤めでもスキルアップのために、書籍購入、業界新聞購入、業界雑誌購入、資格取得、勉強会参加などを自腹でやっている人はいるように思う。会社の支援を受けての資格取得や業界ショー視察見学などとは別に。
リスキリングという言葉を聞いた時にも違和感を覚えたところ、学校を卒業した後に継続して学習習慣を行ってこなかった者が、制度が与えられたからといって学習しようとなるものだろうか。そのようなことを感じていた。
閑話休題。この勉強会や議連まわりでかかる金額は、どこかで知りたいところ。おそらく政党によって色があると思うので、月あたりの総額と大まかな種類が知りたいと思う。
パーティー収入
事務所収支をもう一度記す。
ここからパーティー収入を除くと、事務所収支は赤字となる。弱小政党なら政党交付金から回ってくる収入は少ないかもしれない。その理由でも赤字となるかもしれない。
もう一度、個人収支もみてみる。
政党支部への寄付。住居費は議員宿舎だとすれば、月に約13万8000円。年に約165万6000円。残りの1394万円ほどを政党支部に寄付していることになる。政党支部への寄付がここまで必要でなければ、その分を事務所につぎ込むこともできそうに思う。そうすると、パーティー収入なしで回せるように思う。
このあたりの運用は、政党によって異なる部分だと思う。各政党ひとりずつでもいいので、議員個人収支を見てみたいと思う。
最後に、パーティー収入がどのように、どの程度の規模感で行われているかを記しておく。ちょうどパーティー収入の是非が問われる中、このようにその事情を垣間見ることのできる書籍があるのはありがたい。
ただ、パーティー収入は収入元への依存を生むことになる。ある政党、ある団体は、パーティー券を外国籍の人に売っていたのではないかという噂を聞く。この噂を聞き、その国に依存を生む結果となりかねない点は懸念に思う。パーティー収入なしでやりくりできる道を探すべきと思う。
依存性という意味では寄付も同様。
これらの点、小野田氏のポストが参考となる。「寄付の影響を受けないように導入された政党助成金」、その「政党助成金で活動できる範囲」、ここが重要と思う。
政党助成金の仕組みを詳しく知らなかったところ、総額から議員数割と得票数割をベースに分配する仕組みの模様。これを聞くと、ますます政党助成金の中で活動するのが適切に思う。これで足りないというなら、政党助成金の総額、国民一人あたり250円という基準を増やす方向に変えるのが適切に思う。
もっともその前に、議員がまっとうに活動しているかを知る術があるのかという疑問がある。冒頭に「支出の度合いと活動の度合い」と書いた。この記事では前半「支出の度合い」に焦点を当てている。後半「活動の度合い」をどのように知ることができるだろうか。
最後に
『国会議員の仕事』の「政治とカネ」をベースにまとめた表、この解像度で、あるいは議員交通費と秘書交通費を別枠にしたくらいの解像度で、政治にかかるお金の支出を公開する議員がもう少し増えてほしいと思う。
表を再掲しておく。
お金はあまりかからないという議員の収支を見たいと思う。
事務所を置いていないのか、秘書を雇っていないのか、地元との交流を省いてネットに極振りしているのか、どういった工夫あるいは戦略によってやりくりできているのかを知りたいと思う。
あとは、テレビでこの水準まで掘り下げたうえで、金のかからない政治を論じてほしいところ。「なぜ政治にお金がかかるのか」それを分かりやすく視聴者に伝えるのが、メディアの仕事ではないのかと疑問に思う。コメンテーターが「なぜ政治にお金がかかるのか」、政治アナリストが「地盤固め」、この一言で済ませてしまうから、国民に伝わらないのだと思う。
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