二重轢過事故と追突事故
『 二訂版(補訂)基礎から分かる 交通事故捜査と過失の認定』
第9講「二重れき過事故、追突事故」読了
興味深かったので、つぶやきでなく記事にまとめてみる。
事故態様が大きく異なるとみえるこれらが、なぜ同じ講の中に含まれているか。ここが非常に興味深いところ。冒頭に「過失と結果との間の因果関係の有無が問題となることがあるという点で似通っている」と記されている。
二重轢過事故
①先行車による致傷
②後続車による致傷
先行車は①②の責任を負う
後続車は②のみ責任を負う
先行車は、後続事故回避の義務を負う。因果関係という観点でも②の責任も負う。これは、先行事故によって傷害、後続事故によって死亡している場合も同じ。後続事故回避の措置が十分行われていない場合、後続車はもちろんのこと、先行車も過失運転致傷罪ではなく過失運転致死罪に問われる。
これは、以下の裁判例での判断「当該結果が、当該行為によって生じた危険性が現実化したものと評価できる場合に因果関係を肯定する」に基づく。これが有力な基準として定着されつつあるらしい。平成29年、近時の裁判である。
他方、後続車は①に対する責任を負わない。後続車は①との間に因果関係がないため。これは、検察官が①②の範囲を区別できないと、後続車を罪に問えないことを意味する。後続車に、①に含まれるかもしれない範囲の責任を負わせることはできない。まさしく「疑わしきは罰せず」となる。
この事情は、先行事故で既に死亡していたかが明白でない死亡事故にも言える。むしろ問題になるのは、傷害事故よりも死亡事故だろう。先行事故で既に死亡していた可能性を排除できない場合、後続事故の後に死亡しているとしても、後続車を罪には問えない。
状況別に分けて少し補足する。
先行事故で既に死亡していた場合、死亡に対する責任は後続車にはない。また、刑法190条の死体損壊罪には過失犯規定はないため、後続車をこの罪にも問えない。これらの結果、先行事故で既に死亡している場合は後続車を罪に問えない。「ご遺体を無残にも」という観点で民事で問うことはできるかもしれない。
先行事故では生きており、後続事故によって死亡した場合、後続車は過失運転致死罪を問われる。すでに前述のとおり、先行車も過失運転致死罪を問われる。先行車との間での責任の多寡という観点はある。先行事故で瀕死なのか、ヘルメットを被っており事故直後に自力で起き上がる程度の軽い事故なのか、こういった点で罪や量刑に大きく影響するだろう。
生死が明白な場合、一方は無罪、一方は過失運転致死罪となる。この差は非常に大きい。加えて、生死が明白な場合だけとは限らない。
先行事故によって死亡に至ったかが明白でない場合。たとえば、先行車運転者も負傷し意識を失っている場合、先行車運転者が轢き逃げをしている場合などがある。先行事故と後続事故が近接しており、先行事故のみで致命傷とはいえ、司法解剖しても即死と判断付かない場合も、これにあたる。
先行事故によって死亡に至ったことが明白な場合。たとえば、先行車運転者や目撃者が被害者に駆け寄り、容体を確認し、先行事故時点では被害者が生存していたと確認できている場合などがある。
多重轢過となるとさらに複雑になる。轢過したどれかの車両が原因で死亡したといえるが、どの車両かは判然としないこともあるだろう。この場合、先頭車両以外は罪に問えなくなる。
冒頭に記した「過失と結果との間の因果関係の有無が問題となることがある」といえる。
追突事故
二重轢過事故を読んで理解した後、そして書籍冒頭に記された「過失と結果との間の因果関係の有無が問題となることがある」と照らし合わせると、追突事故の問題を容易に理解できる。
多重追突事故の場合、二重轢過事故と似た状況になる。
多重追突事故に関与した車両がそれぞれ、どのような過失があったか、どれだけの傷害を被ったか、これらは容易に確認できるケースが多い。
しかし、それぞれの因果関係を結び付けるのが難しい。因果関係にない傷害に対する責任はなく、それに対する罪を問うことはできない。どの傷害がどの事故に因果関係を持つか、その立証責任は検察官にある。
捜査上の留意点には、衝突位置、衝突時の速度、衝突後の移動距離、損傷程度、被害運転者が感じた複数回それぞれの衝撃程度などが記されている。ここからどこまで因果関係を読み解けるかは確かに難しそうだ。
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