自動車が交差点で取り残される状況に関するまとめ

自動車が信号などの事情で交差点内に取り残される状況に関するまとめ。

交通事故や交通法規解説のYoutube動画で、交差点内に取り残され気味の車両の動画を見る。交差点から出ようとする車との間で事故が起こりやすくなる、このような車両状況に対するまとめ。

交通法規の専門家ではないので、正確性は紹介書籍や紹介判例や弁護士サイト、さらに正確性を望むなら弁護士相談などで補完してほしい。

以下の書籍を参考とした。

前方渋滞

交差点の先が渋滞している場合。

この状態で交差点に進入し、交差点内に取り残されると、道交法50条1項違反となりえる。

交通整理の行なわれている交差点に入ろうとする車両等は、その進行しようとする進路の前方の車両等の状況により、交差点……に入つた場合においては当該交差点内で停止することとなり、よつて交差道路における車両等の通行の妨害となるおそれがあるときは、当該交差点に入つてはならない。

道路交通法第50条1項

直進で交差点に取り残されるのは、ほぼこのケースになるだろう。右左折でも起こりえる。右左折で交差点に取り残される代表例はこのケース以外にもある。それらは後節で説明する。

うっかり入ってしまった場合、前方が掃けるのを待つしかない。わずかに交差点に進入しているに留まる場合、前方が掃けて進行するよりも留まるほうが、交差道路における車両等の通行の妨害となるおそれが少ないなら、留まる選択もあるだろう。この点は後節「停止位置との関係」に記す。

右左折待ち

右左折時の横断歩道上の横断歩行者待ちや、右折時の対向直進車待ちや対向左折車待ちの場合。

青色灯火のうちに交差点に進入し、歩行者や対向車を待っている間に信号が赤色灯火に変わった場合でも、そのまま進行してよい。これは道路交通法施行令2条に記されている。

赤色の灯火
……
二 車両等は、停止位置を越えて進行してはならないこと。
三 交差点において既に左折している車両等は、そのまま進行することができること。
四 交差点において既に右折している車両等……は、そのまま進行することができること。この場合において、当該車両等は、青色の灯火により進行することができることとされている車両等の進行妨害をしてはならない。

道路交通法施行令第2条

条文内の「既に左折している」「既に右折している」という表現が気になる。

『執務資料 道路交通法解説 18-2訂版』P.123では、「既に左折している」に対比して「左折にかかる前」という表現を用いて説明している。左折目的で交差点内に直進のまま進入し、交差点内で左に進行方向を変え始めるあたりで「左折にかかる」と言える。つまり「既に左折している」とは「既に左折を開始している」という意味合いに見える。右折も同様。右折の場合、直進状態はさらに長くなる。

進行方向が右左折方向に完全に変わっている場合も、交差点を抜けるまでは「既に左折している」「既に右折している」が継続する。これには後節「複合交差点」で触れる。

既に右左折している場合

既に左折している場合の扱いは、書籍で以下のように解説されている。

「交差点において既に左折している車両等」(三号)は
対面する信号機の信号が赤色灯火のとき交差点において既に左折している車両等は、そのまま進行することができるとされているので、A(注:~することができる)の場合に当たる。この場合、進行しないでその場に停車していても、駐停車違反となることはあっても信号無視の違反にはならないと解される。

『執務資料 道路交通法解説 18-2訂版』P.123

「交差点において既に右折している車両等」(四号)は
対面する信号機の信号が赤色灯火のとき交差点において既に右折している車両等は、そのまま進行することができるとされているので、A(注:~することができる)の場合に当たる。

『執務資料 道路交通法解説 18-2訂版』P.124

このように、交差点内に入り込み、進行方向を左右に変え始めている状況下では、信号が赤色灯火に変わっても進行は継続可能。信号無視にはあたらない。

ただし、他車を進行妨害すると令2条4号後段に該当する行為となり、赤信号無視となる。書籍では、以下のように説明されている。

右判決は、車両等が信号を無視したかどうかは、その車両等が交差点に入るとき対面する信号が「赤(黄)色の灯火」であるか「青色の灯火」であるかによって決まるというものである。……、交差点に進入した以上は、その後にどの方向に対面することとなっても(その方向の対面する信号が赤色の灯火であっても)信号無視とはならないというのである。しかし、青色の灯火により進行することができることになっている車両等の進行を妨害すれば、赤信号無視の違反が成立することがあることに注意すること。

『執務資料道路交通法18-2訂版』P.117
強調表示は当方によるもの

右左折にかかる前の場合

交差点内を直進しているだけで右左折を開始していない場合、「既に左折している」「既に右折している」には該当しない。そのため令2条の2号3号4号いずれにも該当しない。つまり、進行や停止の規定は存在しない。

このあたりの扱いについて、書籍で解説がある。右折の説明は左折に委ねているため、左折のみを示す。

「交差点において既に左折している車両等」(三号)は
……
ところが、「青色の灯火」の信号で交差点に入った車両等が「左折にかかる前」(既に左折している車両でない)に対面する信号が「赤色の灯火」に変わったとき、車両等の運転者がどうすればよいか定めがない。交差点に入ったばかりの車両等にまで「そのまま進行することができる」としたのでは、無理な交差点進入を奨励することになるので、右のような場合を規定からはずしたものと解される。
しかしながら、それだからといって信号が「赤色の灯火」となったところで直ちに停車させると、かえって交通の円滑を阻害するばかりでなく追突などの事故発生の危険もあり、この法律の目的にそわないことになる。
したがって、既に左折している車両等に当たらない場合であってもその位置によっては「左折し」、あるいは「後退する」等して交差点の外に出るべきと解する。もちろん、このような行為をしない場合であっても信号無視の違反になることはない

『執務資料 道路交通法解説 18-2訂版』P.123
強調表示は当方によるもの

つまり、状況に応じて進行や後退によって交差点の外に出るべきとしている。しかしそのまま留まっても信号無視とはならない。

前節と合わせると、青色灯火で停止位置を超えた右左折車両は、交差点を通過し終える前に赤色灯火に変わった場合、そのまま進行し右左折を継続することができる。青信号他車への進行妨害が成立しない限り、信号無視とはならない。

あとは交差点への進入度合いや他車との関係性を考慮して、進行や停滞や後退、場合によっては退避を選ぶことになる。この論点は後節「停止位置との関係」に記す。

停止位置との関係

信号が赤色灯火のとき、停止位置で停止する必要がある。この停止位置とはどこを指すのか。この点は、道路交通法施行令2条の表外備考に記されている。

備考 この表において「停止位置」とは、次に掲げる位置(道路標識等による停止線が設けられているときは、その停止線の直前)をいう。
一 交差点(交差点の直近に横断歩道等がある場合においては、その横断歩道等の外側までの道路の部分を含む。以下この表において同じ。)の手前の場所にあつては、交差点の直前

道路交通法施行令2条の表外備考
交差点関連のみ抜粋

停止線が設けられている場合は、停止線の直前が停止位置となる。停止線が設けられていない場合は、横断歩道の外側まで含めた交差点領域の直前が停止位置となる。

停止線が交差点から比較的遠い位置に設けられている具体例が、国道256号線桑原交差点にある。この東進方向は、停止線が交差点からやや遠くに設けられている。記事作成時点のストリートビューで、停止線は、交差点手前の2台目の後輪近くとなっている。

このような場合、青色灯火で停止線を通過したのち、交差点までに信号が赤色灯火に代わっても、そのまま交差点内に進行しても信号無視にはならない。

記事作成時点のストリートビューでは、交差道路を車両が進行している。交差点手前の2台の車両は、赤色灯火を理由に交差点内に進入せず留まったのかもしれない。

停止線が交差点から比較的遠い位置に設けられていることには理由がある。多くの場合、大型車の右左折に必要なスペースを確保するためとなっている。そのため、停止位置を超えたあと交差点に進入せず留まることは、交差車線の大型車右左折の妨害となりえる。つまり道交法50条1項違反となり得る。道路状況からそのような懸念が考えられる場合、その場に留まらず進行する選択が有力となる。

他方、先行車両が右折待ちをしている場合などでは、停止線をわずかに超えた場所に停止している場合もある。このような状況で信号が変わった場合、前述の妨害の懸念がない場合もある。また、交差道路の信号が青色灯火に変わってしまっている場合、無理に交差点内に進入することは危険といえる。その場合は進行せず留まる選択が有力となる。後続車がおらず後方の安全を確認できる場合は、後退も候補となる。

このような要素を考えながら、進行や停滞や後退を選ぶことになる。

前節で触れた退避には、以下の判例を紹介しておく。交差点の外に出ないまでも、他の交通の妨害にならない位置に移動するというのも選択候補となる。

昭33.3.14 佐世保簡裁
自動三輪車が交差点内に入った途端エンジンが止まり横断歩道の中央で停止したので急遽エンジンを始動したが、その時警察官の手信号による「止れ」の信号に変わった場合は、次の「進め」の信号に変わるまでそのまま停車を続け、もし横断歩道上の歩行者に対する交通の妨害となる恐れがあるときは、他の車馬の交通の妨害とならない方法で緩衝地帯等の別の場所に転進する等、危険の発生を未然に防止するに必要かつ十分な注意を払い、それに相当した処置をとるべき義務がある

『執務資料道路交通法解説18-2訂版』P.125

複合交差点

近接した交差点の場合、実務上は一つの交差点とみなして運用している場合が多い。これは以下のように書籍で説明されている。

……比較的幅のせまい河川や公園等(道路の附属物等ではない。)道路の中央に介在する場合、非常に接近して二つが存在することになる。このような場合、二つの交差点として別個のものと解すると、車両等の交通方法や信号の意味を介する上において問題があるのみでなく、著しく交通の危険があり、しかも交通の円滑を阻害することになるので、実務上は、信号機の設置、道路標示等の交通規則のほとんどは、一つの交差点とみなして運用されているのが現状であり、その方が、この法律の目的から考えて妥当性があると考えられる。
複合交差点とみるかどうかの判断の基準は、右判例等から考えると一応次の二つを挙げることができよう。
① 二つの交差点を一つの交差点として信号処理などの規制方式が取られているとき。
② 信号処理などは行われていないが、前記図(15)の甲乙間の距離が非常に近接しているとき、すなわち、一つの交差点と考えるほうが交差点の交通方法に適合するとき。

注:
図(15)は立体交差点。
甲乙は幹線道路の登り口と降り口の二つの交差点。

『執務資料道路交通法解説18-2訂版』P.27

このように、近接した交差点は複合交差点として単一の交差点と扱われる場合がある。他方、複合交差点とみなされない、独立交差点の場合もある。

前節「既に右左折している場合」では、青色灯火で交差点進入後に赤色灯火に変わった場合、右左折を継続していいと説明した。複合交差点は単一の交差点と扱われるため、右左折を継続していいという影響は複合交差点を抜けるまで続く。交差点内で赤色灯火になれば、直後は全方向赤色灯火だろう。全方向赤色灯火の状況でも、複合交差点なら進行を続けて構わない。

他方、独立交差点の場合は、右左折を継続していいという影響は一つ目の交差点を抜けた時点で失われる。二つ目の交差点を赤色灯火で進行すれば、信号無視となる。

このように、複合交差点と独立交差点では、右折後の赤信号に対する扱いが全く正反対となる。

複合交差点の扱いは、書籍では以下のように説明されている。交差点の状況は、東西に並んだ近接交差点による複合交差点。甲車は、北進して西側交差点を右折、東側交差点を直進して東進。乙車は、南進して東側交差点を直進。このような状況を想定した説明となっている。

図(42)の交差点は、いわゆる複合交差点であり、甲車が→線のように進行したとしても甲車は対面する信号「青色の灯火」で同交差点に進入したのであるから原則として信号無視の違反は成立しない。しかし、甲車が同交差点で右折を終わり、引き続き直進する過程で青色の灯火に従って進行する乙車の進行を妨害すれば、赤信号無視の違反が成立する(前記五3(4)参照)。

『執務資料道路交通法解説18-2訂版』P.136

一つ目の交差点を右折完了後も引き続いて進行可能なこと、原則的には信号無視とならないこと、他車への進行妨害によって赤信号違反が成立することが示されている。

複合交差点と独立交差点をどう見分けるか。

ネットでは、二つ目の交差点手前の停止線の有無で判断するという説明がある。停止線がなければ複合交差点、停止線があれば独立交差点。おそらくこれは正しいと思う。ただし所有書籍では確認できなかった。

またネットには、GoogleMapで交差点表記が単一か複数かで判断するという説明もある。こちらも所有書籍では確認できなかった。

実例1、複合交差点

神奈川県海老名市、下今泉交差点。国道246号線と県道46号線の立体交差。国道246号線の南北に交差点がある。交差点の表記は北側交差点だけに記されている。

東方向から西進して南側の交差点に入り、右折、北進する向きのストリートビューを下に記した。南北の交差点の間に停止線はない。そのため、単一の複合交差点となる。一つ目の交差点を青信号で交差点進入していれば、交差道路が赤信号でも継続して進行してよいケースとなる。

実例2、独立交差点

静岡県藤枝市、藪田西I.C交差点。国道1号線と県道215号線の立体交差。国道1号線の南北に交差点がある。交差点の表記は両方の交差点に記されている。交差点名は同じ「藪田西I.C交差点」となっている。

南西方向から東進して北側の交差点に入り、右折、南進する向きのストリートビューを下に記した。高架を潜った先の交差点手前に停止線が見える。停止線があるため、独立交差点となる。北側交差点を右折後、南側交差点の信号が赤信号なら、停止線手前で停止する必要があるケースとなる。



指導停止線

複合交差点に関連して、指導停止線を説明しておく。

交差点手前に実線ではなく点線が引かれている場合がある。実線なら停止線だが、点線なら指導停止線となる。

信号交差点ではないものの、長崎県警サイトで写真付きで説明されている。法令による規制はなされていない、停止しなかったとしても取締りの対象とはならない、設置者は公安委員会でなく道路管理者と説明されている。そのため、交差点や信号に対する停止線としての効果はない。ただ、交通状況により停止する必要がある場合は、指導停止線の位置で停止することが求められる。

具体例を見ながらでないと分かりにくいと思う。埼玉県の円阿弥交差点を例に説明する。なお、この交差点はYoutubeでも解説されている

埼玉県さいたま市、円阿弥交差点。国道17号線と県道215号線の平面交差。国道17号線が上下線に分かれており、それぞれ県道215号線と交差する2か所に交差点がある。

下のストリートビューは、西側交差点内から高架方向を見たもの。向かって右側の車線、高架下から手前の交差点に入る直前に点線が見える。この点線が指導停止線。停止線が薄れたものではない点に注意。

近接する複数の交差点の間に停止線が引かれておらず、代わりに指導停止線が引かれている。このような場合、停止線ではないため複合交差点と扱う。つまり、指導停止線がない場合と同様に扱う。

複合交差点のため、一つ目の信号を青信号で進入し右折するケースでは、二つ目の信号が赤信号でも指導停止線の位置で停まる必要はなく、進行を継続できる。先に紹介したYoutubeでは、そのようなことを所轄の警察に確認していると解説されている。

なお上の地図を見ると、東西の交差点の間に、丁字路が2か所あることがわかる。これは、17号線に並走する首都高速埼玉新都心線の降り口。ここも複合交差点内の交差点となっている。信号がついていることがストリートビューで確認できる。つまり、4つの交差点が複合交差点となっている複雑さが見える。交通量も多そうであり、初見では通行が難しい交差点かもしれない。

なお、指導停止線の有無は、事故時の過失割合に影響はないようだ。裁判例検索では見つからなかった。ただネット上には指導停止線を争点とした裁判結果を取り上げているサイトがある。交民DATABASE 要旨検索システムを使うことで指導停止線への言及があったことと事件番号だけは確認できる。東京地判H30.12.26 交民51-6-1568、事件番号平30(ワ)6910。

・……。指導停止線は法定外表示の一つにすぎないから,これを一時停止線と同種のものとまで評価するのは相当ではなく,指導停止線設置の趣旨・目的等に照らし,具体的な道路状況を前提とした過失割合の判断に際しての一つの考慮要素にすぎない

いわゆる「指導停止線」のある交差点での過失割合の考え方

過失割合の修正要素を読み解けるほどの詳細は記載されていない。しかし原告の主張がそのまま通った過失割合であり、指導停止線があることは過失割合に影響しなかったといえる。

たとえば、見通しが悪いために指導停止線が引かれているケースを考える。指導停止線が引かれていることそのものを根拠に過失割合修正するわけではない。指導停止線設置の趣旨・目的となる、見通しが悪いという具体的な道路状況を根拠に過失割合を判断する。このような意味だろうと思う。

黄色灯火の進入

黄色灯火の進入は、その進入が違反でない限り、青色灯火の進入と同等となる。その限りで、ここまでの節に書かれている進行は継続可能となる。交差点進入が違反かの判断は、この記事の主題から外れるため省略。

過失割合も同様。例えば右直事故を例に挙げれば以下のとおり。

(ウ) 直進車・右折車ともに黄信号で進入した場合
解説①
直進車Aと右折車Bがともに、交差点直前で黄信号に変わったが、停止位置に近接しているため安全に停止することができない場合は、例外的に交差点への進入が許されるから(令2条1項)、青信号進入と同視して、本基準によらず、【107】による。
……

『別冊判例タイムズ38号』【109】


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