2021年9月13日 北海道白バイ右直事故に思うこと

2021年9月、トラックと白バイの右直死亡事故が発生した。
この裁判が先日、7月6日に始まった。裁判の行方が気になる。

この事故について、そしてこの事故を離れて類似の状況となった場合にどのように運転するか、思うところをまとめた。

なお、交通法規の専門家ではないので、正確性は紹介書籍や弁護士サイト、さらに正確性を望むなら弁護士相談などで補完してほしい。


この事故について

白バイ死亡事故というと、2006年の高知白バイ事故を思い出す人もいると思う。あの事故、バスが道路を塞いで停車しているところに白バイが突っ込んだ事故態様となっている。裁判結果に異のある人もいると思う。そこには今回は触れない。

今回の事故の事故態様はどうだったか。

事故現場と事故態様

事故現場は、道道129号線と、国道234号線に伸びる道路とが交わる丁字路。
信号なし。

事故車両は、道道129号線を対向するかたちで接近。白バイは北西方向から接近し直進予定のルート。トラックは南東方向から接近し右折して国道234号線へ入る予定のルート。

トラックは積荷のある状態で徐行右折。これに白バイが止まり切れずに、トラック左後部に衝突という事故態様の模様。

大まかな事故イメージは以下のとおり。
方角はおおよそのもの。衝突位置のトラック左側後部などは、どの程度正確に表現できているかは分からない。バイクのフリー素材を見つけられなかったので、白バイの部分には自転車画像を用いている。

事故イメージ
事故イメージ

以下の点がポイントとなりそうに思う。

  • 白バイは、赤色灯あり&サイレンなしで117km/hで走行。この速度がどのあたりを走行しているときのものか、衝突時にどこまで減速されていたのかは不明。緊急走行ではなさそう。この速度がどう判断されるか。この速度はトラックの右折可否の判断を見誤らせたのではないか。

  • トラックが白バイを発見した位置、トラックが右折を開始したときの白バイの位置、トラックに対する衝突位置、これらがどうだったか。

  • 国道234号線から降りてきた右折待機車のドラレコ映像はどうだったか。トラックは、この右折待機車がなかなか動かないことを見てから右折を開始したらしい。そのときのトラックの挙動が映像に残っているはず。

白バイ側の道路、交差点から見て北西に伸びる道路は、室蘭本線や国道234号線の上を立体交差するようになっている。つまり交差点に向かって坂を下るかたち。速度が乗りやすいように思う。

位置と距離と速度と到達時間の関係

ストリートビューで見通し状況を確認してみる。

白バイから交差点案内板が見える状態になるのは、白バイが室蘭本線を超えるあたり。この時点で交差点までの距離は約350m。

白バイから交差点付近の対向車に見通しが効く状態になるのは、白バイが室蘭本線と国道234号線の中間位置くらいに達するあたり。この時点で交差点までの距離は約310m。

白バイが国道234号線を超えるあたりとなると、交差点までの距離は約230m。このあたりまで近づくと、117km/hの走行では危険域に近づきつつある。
道路構造令19条では、設計速度120km/hの道路に対して、制動停止視距は210m以上設ける必要があるとしている。ある程度の安全バッファはあるものの、制動が間に合わない距離に入りつつある。しかも国道234号線を超えて交差点までの区間は下り坂。
補足:2023/09/29訂正:道路交通法施行令19条→道路構造令19条

トラック側から見た場合。赤色灯は最低限300m離れたところから視認できる必要がある。見通しの効く状態になれば赤色灯も見えていたことだろう。

第231条 緊急自動車に備える警光灯の色、明るさ、サイレンの音量、車体の塗色に関し、保安基準第49条第1項及び第2項の告示で定める基準は、次の各号に掲げる基準とする。
一 警光灯は、前方300mの距離から点灯を確認できる赤色のものであること。この場合において、警光灯と連動して作動する赤色の灯火は、この基準に適合するものとする。

道路運送車両の保安基準の細目を定める告示 第231条1項および同項1号

120km/hの車両が300m走行するのに必要な時間は9秒。
60km/hなら2倍の18秒。80km/hなら13.5秒。
最も遠い約350mだと上の秒数を約2割増し、
より近い場所ならその割合に応じて秒数を減ずる、
おおよそこういった時間感覚になる。
短ければ数秒あるいは10秒前後、長くても20秒以内。

大型車の積載状況と右折所要時間の関係性には詳しくない。ただ、大型車は総じて右折に時間がかかると思う。積載している状態で、いったん交差点内で停車しているとなればなおさら。
10秒前後という時間が右折を行うのに十分な時間か。白バイが通常速度だったとして十分な時間があったか。白バイが120km/hという速度を出していたことでどの程度時間が短くなったか。交差点到着までに右折を完了できると判断するのは適切だったか。争点はこういったあたりになろうかと思う。

白バイを認識した場所、右折を開始した時点の白バイの場所、これらが分からないことには、これ以上のことは何とも言えない。今どきならトラックにもドラレコ映像が記録されていたことだろう。それによって判明できるものと思う。

過失割合

この事故と同じ事故態様における過失割合を記す。刑事裁判に過失割合が直接的に関係するわけではない。四輪車側の立場、分の悪さを示すために記した。

以下に記すのは一般車両に対するもの。警察車両に対する扱いがどのように変わるか変わらないか、そのあたりの考慮は行っていない。

『別冊判例タイムズ38号』に照らすと、事故態様【189】と思われる。対向車両間の交差点右直事故には、十字路も丁字路も同じ事故態様【189】を用いると思われる。

基本は単車15:四輪車85。報道などから適用されると思われる修正要素は、四輪車既右折+10、単車30km/h以上の速度違反+20。修正要素適用後の過失割合は、単車45:四輪車55。

また、トラック側の車両次第で、大型車修正-5%が加わると思われる。大型車修正は、大型車であることが危険を増大させるタイプの事故に適用されるもの。最大積載量6500kg以上なら適用されるように思う。これが適用されると単車40:四輪車60。

ウ 大型車について
……
大型車であることが事故発生の危険性を高くしたと考えられる態様の事故においては、大型車であることにより5%程度の修正をするのが相当である。例えば、……、交差点に直進進入した単車が右折する大型車の側面後方に衝突した事故などである。……、大型車による修正は、大型車であることが事故発生の危険性を高くする場合には、大型車に対してより慎重に交差点に進入する注意義務が課せられることを前提とする……。

『別冊判例タイムズ38号』第4章1(2)ウ
注:文章中の太字は当方で付した

いずれの場合でも、四輪車側の分が悪い過失割合となっていることが分かる。つまり、過失割合の算定において典型的な修正要素の範囲内では、四輪車側の分が悪いことは変わらない。

赤色灯あり&サイレンなしの警察車両をどのように捉えるか

ここでは事故後の過失問題ではなく、事故回避の観点で記す。

この事故で白バイは赤色灯あり&サイレンなしだった。赤色灯あり&サイレンなしの警察車両を相手に、事故を起こさないためにどのように捉える必要があるか、思うところをまとめた。なお、警察車両がまわりの車両と一緒に走行しており、緊急走行中とは明らかに考えられないケースを除外して考える。

問題となった右直事故では、警察車両は緊急走行中ではなかったようだ。
まずはこのあたりの法令を確認する。

緊急自動車の要件は、道路交通法施行令の13条1項および14条にある。13条1項が車両の要件、14条が緊急の用務のため運転するときに行うべき要件。14条の要件を満たした運転状態のことを、しばしば緊急走行中と呼ぶ。

第十三条 法第三十九条第一項の政令で定める自動車は、次に掲げる自動車で、その自動車を使用する者の申請に基づき公安委員会が指定したもの(第一号又は第一号の二に掲げる自動車についてはその自動車を使用する者が公安委員会に届け出たもの)とする。
一の七 警察用自動車(警察庁又は都道府県警察において使用する自動車をいう。以下同じ。)のうち、犯罪の捜査、交通の取締りその他の警察の責務の遂行のため使用するもの

道路交通法施行令 第13条第1項および同項第1の7号

第十四条 前条第一項に規定する自動車は、緊急の用務のため運転するときは、道路運送車両法第三章及びこれに基づく命令の規定(道路運送車両法の規定が適用されない自衛隊用自動車については、自衛隊法第百十四条第二項の規定による防衛大臣の定め。以下「車両の保安基準に関する規定」という。)により設けられるサイレンを鳴らし、かつ、赤色の警光灯をつけなければならない。ただし、警察用自動車が法第二十二条の規定に違反する車両又は路面電車(以下「車両等」という。)を取り締まる場合において、特に必要があると認めるときは、サイレンを鳴らすことを要しない。

道路交通法施行令 第14条

14条にあるとおり、緊急走行中は、赤色灯をつけてサイレンを鳴らす必要がある。ただし、警察用自動車が法22条違反取締り中の場合は、サイレンを鳴らさなくてもよいとされている。法22条違反とは速度違反のこと。

前方遠方に、赤色灯あり&サイレンなしの警察車両を見た場合に、どのように行動すべきか。警察車両が緊急走行中か緊急走行中でないかは、外目には判断付かない。令14条但書にあるように、緊急走行中だとしてもサイレンを鳴らす必要がないケースがあるのだから。

そうすると、仮に緊急走行中であっても問題のないように行動する必要があると考える。それが自衛策であり、リスク管理であると考える。今回の事故で警察車両が緊急走行中ではなかったというのは結果論に過ぎない。事故前に、赤色灯あり&サイレンなしの警察車両が緊急走行中か否かを判断できる材料はないのだから。

サイレンを鳴らさなくてよいケースには何があるか、緊急走行中かもしれないことを前提にどのように行動すべきか、緊急走行中かもしれない警察車両がどのくらいの時間で自車付近に到達するか、これらの点をまとめる。

サイレンを鳴らさなくてよいケースには何があるか

すでに令14条但書に示すように、サイレンを鳴らさなくてよいとされるケースがある。それ以外にも同様のケースはあるだろうか。『緊急自動車の法令と実務 6訂版』P.48に解説がある。

① サイレンを欠略せざるを得ない事態
犯人が押し入っている現場に緊急接近する緊急自動車
手配中の犯人が潜伏している場所に緊急接近する緊急自動車

緊急自動車の法令と実務 6訂版』P.48

上記の「緊急接近」には、速度を上げて緊急接近する場合だけでなく、一方通行や右左折禁止などの交通規制を回避して目的地まで最短経路で緊急接近する場合も含む。迂回していては現場への到着が遅くなる場合、速度を上げる方法だけでなく、交通規制を回避する方法で到着時刻を早めることもあり得る。しかも、目的地にある程度近づいている場合、犯人に気づかれないようにするためにサイレンを欠略することもある。

つまり、赤色灯あり&サイレンなしの警察車両は、想像できないような場所で速度を上げるかもしれないし、想像できないような場所で右左折し旋回するかもしれないということになる。

これらの行動は厳密には法令違反となる。法22条違反以外の理由でサイレンを欠略させることを、法は認めていない。ただしこれらの行為の目的を考えれば、刑法35条(正当業務行為)によって違法性が棄却されるケースに相当するといえる。

つまり、高速に逃走する車両を追走するような場合以外でも、サイレンを鳴らさずに走行している緊急自動車の可能性があるという前提で行動すべきと思う。繰り返すと、事故を起こした後にその車両が緊急走行中ではなかったというのは結果論に過ぎない。

どのように行動すべきか

緊急自動車に対して一般車両が行うべき行動は、道路交通法40条に規定されている。

第四十条 交差点又はその附近において、緊急自動車が接近してきたときは、路面電車は交差点を避けて、車両(緊急自動車を除く。以下この条において同じ。)は交差点を避け、かつ、道路の左側(一方通行となつている道路においてその左側に寄ることが緊急自動車の通行を妨げることとなる場合にあつては、道路の右側。次項において同じ。)に寄つて一時停止しなければならない。
 前項以外の場所において、緊急自動車が接近してきたときは、車両は、道路の左側に寄つて、これに進路を譲らなければならない。

道路交通法 第40条

交差点を避けて停止、交差点付近以外では進路を譲るとある。おおまかには、緊急自動車の通行を妨げない行動を取ることが求められているといえる。

緊急自動車とは断定できない、だが緊急自動車かもしれない車両の場合にどうなるか。

問題となった右直事故の場合、基本は直進車優先の措置となるだろう。直進車を優先させる行動と、仮に緊急自動車であってもその通行を妨げない行動とは一致する。一般車両に対するより防御的に、直進車両を優先させるということになると思う。

相手車両が緊急自動車の場合には本来、交差点に進入せずに停車する義務、交差点から抜けて停車する義務、これらが生じる。しかし、外から緊急自動車か判断付かないこと、対向で自車右折の場合は交差点内停車すれば相手がどの方向に向かう場合も進行を妨げないこと、後続車がいる場合に交差点手前で停車しては追突されかねないこと、このあたりを考えれば、交差点内停車が無難と思う。

なお既に右折を開始している場合、交差点を速やかに抜ける選択しかない。既に対向車線を塞いでいるのだから。

自車が直進で相手警察車両が右折の場合は要注意か。この場合、何が正解か分からない。動静には注意しつつも自車優先だろうか。

どのくらいの時間で自車付近に到達するか

自車が交差点に接近しつつある状態で、緊急自動車とは断定できない、緊急自動車かもしれない車両を遠方に見つけたとして、どのように走行すべきだろうか。交差点手前あるいは交差点内で停車し相手車両の通過を待つのか、それとも先に自車を通過させるか。相手車両がどの程度の時間で交差点に到達するかによる。

相手車両がどの程度の時間で交差点に到達するか。それは、自車との距離、相手車両の速度による。どちらも目測で判断するしかない。

相手車両が緊急自動車らしき場合に、相手車両の速度をどのように捉えるか。

緊急自動車は、走行速度の制限が緩和されている。しかしながら制限はなお設けられている。『緊急自動車の法令と実務 6訂版』P.31に解説がある。

自動車等は、指定速度又は法定速度を超えてはならない(法32条1項)が、緊急自動車は、次のような特例速度を設け、迅速な用務達成を容易にしている。
ここで注意しなければならないのは、③の場合を除いて、緊急自動車の最高速度(上限)が定められているのであって、緊急自動車といえども、その速度を超えて無制限に速度を出すと速度違反となることである。

① 高速自動車道国道の本線車道又はこれに接する加速車線若しくは減速車線では、100km/h(令2条2項)
……
② 一般道路等では、80km/h(令12条3項)
……
③ 速度違反取締り中の緊急自動車は速度無制限(法41条2項)
※ 速度違反取締り中車両(白バイ・交通パトカーなど)は、違反車両の速度に対応して速度を出さなければ用務自体が遂行できないので、必然の特例といえるが、この特例は、「取り締まる場合」すなわち「相当の具体性を帯びた速度違反車両が予想又は認知される」場合に認められるものである。

緊急自動車の法令と実務 6訂版』P.31

三つの観点があると思う。

ひとつは①②。指定速度や法定速度を超えようとも、速度は制限されるということ。

次に③。特定条件下ではその速度制限を取り払えるということ。

最後に、前々節「サイレンを欠略するケースには何があるか」にも書いた、刑法35条(正当業務行為)による違法性棄却事由の観点。これを持ち出せば①②③の事情に関係なく、速度制限を守らず走行する合理的理由があり得るということ。(7/27表現修正)

そしてこのような事情を外部からは判断できないこと。

これらを考えると、緊急自動車らしき車両は、物理的に可能な範囲で最高速度で自車方面に接近し得る。そのような前提で自衛するしか手がないように思う。

①②にもかかわらずその制限を超えて高速接近してきた、あるいは緊急走行でなかったのに高速接近してきた。これらのことは事故後の結果論に過ぎない。事故が起こった後の裁判で、自己弁明に使うのは当然と思う。だがその考えは、事故を回避する役には立たない。事故前の時点では、それらの状況にあるかを判断する材料はないのだから。

まとめ

大型車のような、右左折に時間のかかる車両で警察車両に対するときは注意したい。

大型車でなくとも、相手警察車両の速度を見誤れば同じ状況になるので注意したい。

相手警察車両がバイクだと事故発生時に被害が大きくなり、しかも高速走行だとさらに被害が大きくなると想像つく。このような警察車両に対するときは注意したい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?