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道路交通法 妨害運転規定

道路交通法の妨害運転規定、おもに、第117条の2第1項第4号(著しい交通の危険)と第117条の2の2第1項第8号(交通の危険のおそれ)の関係性を中心にまとめた。

ある妨害運転事案の解説動画で、妨害運転の罰則規定に関する説明に疑問を感じた。調べたところ、随所に誤りが含まれていると感じた。そこで、この点をまとめることとした。

以下のつぶやきの掘り下げでもある。

以下、道路交通法を単に法、道路交通法施行令を単に令と略記する。

なお、交通法規の専門家ではないので、正確性は紹介書籍、さらに正確性を望むなら弁護士相談などで補完してほしい。


妨害運転事案

解説されていた妨害運転とは、以下の報道に関するもの。

後続バスに煽られたと誤解した者による、バス運転者への傷害容疑、それに先立つバス前方での停止に伴う道路交通法違反容疑である。

問題と感じた解説内容

どこに公開されている解説動画かということには触れない。その解説動画では主に、道路交通法違反が妨害運転に抵触することを前提に、妨害運転の処罰規定を中心とする解説動画となっていた。

疑問に感じた解説部分は以下の2点である。

・法第117条の2第1項第4号(著しい交通の危険)と法第117条の2の2第1項第8号(交通の危険のおそれ)の違い
・行政処分に係る違反点数と傷害事件の関係

この記事では前者、法第117条の2第1項第4号(著しい交通の危険)と法第117条の2の2第1項第8号(交通の危険のおそれ)の違いを確認し、その確認内容をまとめている。

「著しい交通の危険」「交通の危険のおそれ」の違い

法第117条の2第1項第4号には「著しい交通の危険」、法第117条の2の2第1項第8号には「交通の危険のおそれ」が規定されている。この違いを解説していく。

条文

まずそれぞれの条文を記す。

(著しい交通の危険)
第百十七条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
四 次条第一項第八号の罪を犯し、よつて高速自動車国道等において他の自動車を停止させ、その他道路における著しい交通の危険を生じさせた者

道路交通法第117条の2第1項第4号

(交通の危険のおそれ)
第百十七条の二の二 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
八 他の車両等の通行を妨害する目的で、次のいずれかに掲げる行為であつて、当該他の車両等に道路における交通の危険を生じさせるおそれのある方法によるものをした者
イ 第十七条(通行区分)第四項の規定の違反となるような行為
ロ 第二十四条(急ブレーキの禁止)の規定に違反する行為
ハ 第二十六条(車間距離の保持)の規定の違反となるような行為
ニ 第二十六条の二(進路の変更の禁止)第二項の規定の違反となるような行為
ホ 第二十八条(追越しの方法)第一項又は第四項の規定の違反となるような行為
ヘ 第五十二条(車両等の灯火)第二項の規定に違反する行為
ト 第五十四条(警音器の使用等)第二項の規定に違反する行為
チ 第七十条(安全運転の義務)の規定に違反する行為
リ 第七十五条の四(最低速度)の規定の違反となるような行為
ヌ 第七十五条の八(停車及び駐車の禁止)第一項の規定の違反となるような行為

道路交通法第117条の2の2第1項第8号

これらの共通点や相違点を、観点別に記していく。

共通点

「著しい交通の危険」には、「次条第一項第八号の罪を犯し、よつて」と記されている。つまり、両者の実行行為は共通だと分かる。そして、「よって」が含まれることから結果的加重犯となっていることもわかる。

妨害運転(著しい交通の危険)の禁止(4号)
法第117条の2の2第1項8号の罪を犯し、よって道路における著しい交通の危険を生じさせた者について、結果的加重犯としての罰則を定めたものである。

19訂版執務資料道路交通法解説』p.1313

「交通の危険のおそれ」に規定された罪を犯し、それによって「交通の危険のおそれ」に留まらない、「著しい交通の危険」に抵触する実行結果が生じた場合に「著しい交通の危険」が適用される。

まずはこのように理解しておきたい。

「交通の危険のおそれ」に規定された罪の掘り下げは、この記事では省いた。

主体の違い

誰が実行したときにこれらの罪を負うことになるか、である。これは実は、道路交通法だけを見ていても分からない。道路交通法施行令を合わせて読む必要がある。

令 別表第二
二 一の表及び二の表の上欄に掲げる用語の意味は、それぞれ次に定めるところによる。
4 「妨害運転(交通の危険のおそれ)」とは、法第百十七条の二の二第一項第八号の罪に当たる行為をいう。
131 「妨害運転(著しい交通の危険)」とは、法第百十七条の二第一項第四号の罪に当たる行為(自動車等の運転に関し行われたものに限る。)をいう。

道路交通法施行令 別表第二 備考二

「著しい交通の危険」には、「自動車等の運転に関し行われたものに限る」との限定条件がある。「交通の危険のおそれ」にはこの限定条件はない。ここでいう「自動車等」とは、「自動車又は一般原動機付自転車」を指す。

令 第三十三条の二 法第九十条第一項第四号から第六号までのいずれかに該当する者についての同項ただし書の政令で定める基準は、次に掲げるとおりとする。
一 ……が一般違反行為(自動車又は一般原動機付自転車(以下「自動車等」という。)の運転に関し……。

道路交通法施行令第33条の2第1項第1号

つまり、自転車などで妨害運転をした場合、「交通の危険のおそれ」に抵触することはあっても、「著しい交通の危険」までは適用されることはない。このような違いがある。

 令別表第二備考の二において、本号の罪に当たる行為を「妨害運転(著しい交通の危険)」と定義しているが、当該行為については「自動車等(自動車及び一般原動機付自転車)の運転に関し行われたものに限る」と規定されている。……、「妨害運転(交通の危険のおそれ)」は、……、主体に特段の限定がないことから自動車等の運転者による行為はもとより自転車の運転者による行為についても適用の対象となり得るが、本号については前記のとおり主体が限定されている

19訂版執務資料道路交通法解説』p.1313

妨害運転(著しい交通の危険)の法令適用にあたり、法は主体を限定しておらず、罰則を科すことも可能であるが、令によって罰則を科す主体を限定しているという捉え方が適切に見える。

なお、今回の事案は自動車で行われているため、どちらも抵触し得る。

犯罪行為の実行場所

説明の順番としてはあまり適切でないところ、後の説明を容易とするために、先にこの観点を説明しておく。

著しい交通の危険の条文を再掲する。

(著しい交通の危険)
第百十七条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
四 次条第一項第八号の罪を犯し、よつて高速自動車国道等において他の自動車を停止させ、その他道路における著しい交通の危険を生じさせた

道路交通法第117条の2第1項第4号

上記の太字部分のうち、「その他」の前に記される「高速自動車国道等において他の自動車を停止させ」は、「その他」の後に記される「道路における著しい交通の危険を生じさせた」の例示である。

 「高速自動車国道等において他の自動車を停止させ」は、「道路における著しい交通の危険を生じさせた」場合の例示である。高速自動車国道及び自動車専用道路(高速自動車国道等以外の道路においても、「道路における著しい交通の危険を生じさせた」場合には、本号(当方注、著しい交通の危険)の適用対象となる

19訂版執務資料道路交通法解説』p.1314

これを踏まえて、両者の条文を再掲する。

(著しい交通の危険)
第百十七条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
四 次条第一項第八号の罪を犯し、よつて……道路における著しい交通の危険を生じさせた者

補足、……の部分(高速……その他)は例示のため、読み飛ばしてよい。

道路交通法第117条の2第1項第4号

(交通の危険のおそれ)
第百十七条の二の二 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
八 他の車両等の通行を妨害する目的で、次のいずれかに掲げる行為であつて、当該他の車両等に道路における交通の危険を生じさせるおそれのある方法によるものをした者

道路交通法第117条の2の2第1項第8号

どちらの条文も「道路における」交通の危険を問うものであり、「著しい交通の危険」「交通の危険のおそれ」どちらも、どのような道路であるかの制限はない。道路性が認められるような場所であれば、どちらも適用し得る。

これをあらかじめ説明しておくことで、以降の説明では、例示部分を表す「高速自動車国道等において他の自動車を停止させ、その他」を読み飛ばしていける。そのため、先に説明した。

問題としている解説動画では、「高速道路でやると、それで危険性があるとこちら(著しい交通の危険)になる」と解説しており、「高速自動車国道等において(他の自動車を停止させ、その他道路における著しい交通の危険を生じさせた)」とでも解釈しているように見えるが、それは誤りである。

おそらくその解釈を条文で表すには、「高速自動車国道等において」のあとに読点が入る。読点が入っていないので、「高速自動車国道等において他の自動車を停止させ」までが一続きである。

このあたり、「その他」「その他の」の使い分け問題、そして使い分け曖昧問題がある。そのため「その他」を含む条文の解釈にはほぼ、逐条解説本での確認が必須である。これを逐条解説本も使わずに自力解釈すると嵌る。自分自身が嵌る程度ならまだしも、多くの登録者を抱える動画配信者でこれをやらかしてしまうのは適切でないと感じる。

「その他」は並列、「その他の」は例示というのが基本形であるところ、上記のように「その他」が例示を意味することもある。「その他の」が並列を表すものを見たことはないが、世の中にはあるのかもしれない。

そのた(の)【その他(の)】
 ……、「その他」はその前に置かれるものとは別のものとしてその後に置かれるものが対等並列な関係に立つ場合に用いられ、「その他の」という語は、「その他の」の前に置かれるものが「その他の」の後に置かれるものの一部として包含され、その例示である場合に用いられる。以上が基本的区別であるが、実際上は両者が混同して用いられる場合もあり、注意を要する。

法律用語辞典第5版』p.738

この言葉は、「政令で定める」系と一緒に使われる場合に、とくに要注意である。

 両者の違いは、「その他の政令で定める」とある場合と「その他政令で定める」とある場合に影響を及ぼします。たとえば、「医師、看護師その他の政令で定める医療関係者」とある場合には、医師や看護師は医療関係者の例示として挙げられているのに過ぎないのですから、医師や看護師を「医療関係者」に含めるには改めて政令で定める必要があります。
 もし、これが「医師、看護師その他政令で定める医療関係者」とあったらどうでしょう。医師や看護師は、すでに法律で明示されているのですから、改めて政令で定めずとも、この規定の対象者となるはずです。

新法令用語の常識第2版
「その他の」と「その他」

法令用語の「その他」への要注意度合いの嗅覚は、結局のところ、法をちゃんと学んでいるかということに直結する。法をベースに何かを解説する者は、独学で構わないにしても、基本的なところをひととおり学んでほしいものである。

客体の違い

法益侵害が及ぶ相手が誰であるか、である。

これは条文を読み比べると容易に分かる。

(著しい交通の危険)
第百十七条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
四 次条第一項第八号の罪を犯し、よつて……道路における著しい交通の危険を生じさせた者

補足、……の部分(高速……その他)は例示のため、読み飛ばしてよい。

道路交通法第117条の2第1項第4号

(交通の危険のおそれ)
第百十七条の二の二 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
八 他の車両等の通行を妨害する目的で、次のいずれかに掲げる行為であつて、当該他の車両等に道路における交通の危険を生じさせるおそれのある方法によるものをした者

道路交通法第117条の2の2第1項第8号

交通の危険のおそれでは「当該他の車両等に」という限定条件が入っているのに対し、著しい交通の危険ではその限定条件は含まれていない。

「当該他の車両等に」とは、「他の車両等の通行を妨害する目的」における妨害被害車両である。

つまり、「当該他の車両等に」という限定のない著しい交通の危険とは、妨害被害車両に限らず、第三者の車両に危険が生じる場合も含まれる。

 「道路における著しい交通の危険を生じさせた」には、対象の被害車両のみならず、第三者の車両等に対して著しい交通の危険が生じた場合も含まれる。

19訂版執務資料道路交通法解説』p.1315

なお、妨害被害車両が第三者車両と衝突するような事故は、妨害被害車両にも交通の危険を生じさせているのだから、「当該他の車両等に道路における交通の危険」に含まれる。

妨害被害車両には危険あるいはおそれを生じなかったが、第三者だけに危険あるいはおそれを生じさせたというケースは、あまり好例が思いつかない。

A車を妨害する目的で割込み等を行ったところ、A車はうまく回避し、危険を生じるようなことはなかった。しかし車線変更が勢い余って、さらに先の車線のB車に接触あるいはB車が驚いて急ハンドルを切る等、B車には危険が生じた。このようなケースを想定しているのかもしれない。

具体的危険犯と抽象的危険犯

交通の危険の程度の違いに着目して、条文を読み比べてみる。

(著しい交通の危険)
第百十七条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
四 次条第一項第八号の罪を犯し、よつて……道路における著しい交通の危険を生じさせた

補足、……の部分(高速……その他)は例示のため、読み飛ばしてよい。

道路交通法第117条の2第1項第4号

(交通の危険のおそれ)
第百十七条の二の二 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
八 他の車両等の通行を妨害する目的で、次のいずれかに掲げる行為であつて、当該他の車両等に道路における交通の危険を生じさせるおそれのある方法によるものをした

道路交通法第117条の2の2第1項第8号

ここには以下2種類の要素がある。
・具体的危険犯(危険を生じさせた)と抽象的危険犯(危険を生じさせるおそれ)
・「著しい」交通の危険

まずはこれらのうち「具体的危険犯と抽象的危険犯」を確認する。

「著しい交通の危険」は具体的危険犯、「交通の危険のおそれ」は抽象的危険犯と呼ばれるものである。

問題としている解説動画では、事故の有無で区別しているように聞こえる解説となっていたが、これまた誤りである。事故が現に発生しているものは、侵害犯と呼ばれるもので、具体的危険犯よりもさらに狭い範囲を指す。

 侵害犯 ⊂ 具体的危険犯 ⊂ 抽象的危険犯

事故の具体的危険性が迫る状況がひとたび発生したなら、具体的危険犯は既遂となる。その後、事故が回避された場合でも、具体的危険犯の成立は覆らない。この点が、侵害犯と具体的危険犯の違いである。もちろん事故が発生していれば、具体的危険犯の要件も満たす。

 しかし、本罪(当方注、著しい交通の危険)の成立要件は飽くまでも具体的な危険を発生させることであり、現に重大な交通事故が発生したことを要するものではないことから、事故の態様が物損事故に留まりその被害の程度が軽微であった場合や物損事故すら発生しなかった場合であっても、加害車両による実行行為が行われた時点において加害車両や被害車両の距離・速度、交通量その他の事情に鑑みて、社会通念上、重大な交通事故につながる危険性が現に生じていたと認められる場合には、本件要件に該当する

19訂版執務資料道路交通法解説』p.1314

侵害犯と具体的危険犯の違いはここまでとし、あらためて「著しい交通の危険」と「交通の危険のおそれ」の相違点を考える。

前項で「交通の危険のおそれ」の客体は妨害相手に限定されることを示した。話を簡単にするため、妨害相手の交通の危険を前提に考える。

具体的な危険の切迫までは必要ないが、状況に照らして交通事故の危険が十分に生じ得る状態であれば、抽象的危険犯「交通の危険のおそれ」は成立する。

 妨害の対象となる車両等に交通時の発生に至る一般的・抽象的可能性を生じさせるような方法をいい、具体的な交通状況等に照らし、当該他の車両等と第三者である車両等や歩行者との間で生じる交通事故の発生の危険性を生じさせる可能性がある方法をいう。
 他の車両等の通行を妨害する目的が存在し、かつ、当該目的で一定の違反行為が行われた場合であっても、具体的な交通状況等に照らし、社会通念上、妨害の対象となる車両等を交通事故に至らしめるような可能性が存在しないような場合には、当該他の車両等に道路における交通の危険を生じさせるおおそれのある方法には当たらず本罪は成立しない。本罪は抽象的危険犯であり、交通事故の発生の危険性が現に生じるまでの必要はない

19訂版執務資料道路交通法解説』p.1321

今回の件の加害車両の行動がはっきり報道されていないところ、たとえばバスの前で急ブレーキを掛けてバスを止めさせるような行為があったとして、それが事故の可能性が少なからずある状況なら、「交通の危険のおそれ」は成立する。

他方、車窓から手振りで停止を促し、急ブレーキを伴わない形で停めさせる態様であれば、妨害はしていても「交通の危険のおそれ」は成立しないこともあり得る。もちろん、他の道路交通法違反、たとえば駐停車禁止などに問われることはあり得る。

また、停止の態様が交通の危険を生じるものでなくとも、停止位置や周囲の交通状況によっては交通の危険を生じ得る。例えば、高速道路であるとか、カーブで見通しが悪いとか、妨害相手の後続に大型車がいるなど、状況次第では相手車両が追突事故を受けることも考えられ、「交通の危険のおそれ」の成立の可能性はある。

そういった総合的なことを受けて「交通の危険のおそれ」は判断される。

他方、具体的危険犯「著しい交通の危険」は具体的な危険の逼迫を要する。あわや事故が起こりそうだったと言える状況が最低限必要となる。

 「道路における著しい交通の危険を生じさせた」とは、重大な交通事故が発生する具体的な危険を現に生じさせたことをいい、交通事故の発生の危険性が現に生じたことに加え、発生し得た交通事故の程度が重大であることを要する。……

19訂版執務資料道路交通法解説』p.1314

少し上に、抽象的危険犯「交通の危険のおそれ」の例に、カーブで見通しが悪いところに停めさせられた例を示した。具体的危険犯「著しい交通の危険」の成立はこの程度では足らず、そんな場所に停めさせられたために追突されそうになったという程度の逼迫が必要となる。もちろん、現に追突されたケースでも、具体的危険犯「著しい交通の危険」は成立する。

「著しい」交通の危険

著しい交通の危険とは何か。

前項の随所にすでに答えが出ているが、あらためて記しておく。

 「道路における著しい交通の危険を生じさせた」とは、重大な交通事故が発生する具体的な危険を現に生じさせたことをいい、交通事故の発生の危険性が現に生じたことに加え、発生し得た交通事故の程度が重大であることを要する。人身事故が発生した場合は当然に含まれる。

19訂版執務資料道路交通法解説』p.1314

つまり、前項では示さなかったが、具体的な危険の逼迫だけでは「著しい交通の危険」の成立には不十分であり、その起き得た危険が重大事故であることを要する。

起きた事故が重大事故である必要はない点に注意が必要である。前項で記した以下の書籍抜粋も、その観点で読む必要がある。

 しかし、本罪(当方注、著しい交通の危険)の成立要件は飽くまでも具体的な危険を発生させることであり、現に重大な交通事故が発生したことを要するものではないことから、事故の態様が物損事故に留まりその被害の程度が軽微であった場合や物損事故すら発生しなかった場合であっても、加害車両による実行行為が行われた時点において加害車両や被害車両の距離・速度、交通量その他の事情に鑑みて、社会通念上、重大な交通事故につながる危険性が現に生じていたと認められる場合には、本件要件に該当する

19訂版執務資料道路交通法解説』p.1314

結果が軽微な物損事故であっても、重大事故が起こり得たのであれば「著しい交通の危険」であり、軽微な物損事故が想定される状況で起こった軽微な物損事故なら「著しい交通の危険」とまではいえないということである。

上の節で記した点を再掲して補足する。

 「高速自動車国道等において他の自動車を停止させ」は、「道路における著しい交通の危険を生じさせた」場合の例示である。……

19訂版執務資料道路交通法解説』p.1314

これの意味は、高速道路で他の自動車を停止させることは、交通量や速度や本線が停車禁止である事情などに鑑みて、物損事故にすらならない場合も、重大な交通事故につながる危険性が現に生じていたと認めることができる余地があるということを内包している。

あと一点。結果的加重犯の関係を補足する。

「どっちが先」的ないざこざで双方が停止状態や微速状態からの妨害運転行為なら、通常は重大事故が起こり得るとは言い難い。実際に事故が起こったとしても「交通の危険のおそれ」どまりであり、「著しい交通の危険」とはならないだろう。

しかし、「著しい交通の危険」は結果的加重犯であるから、加重結果に対する故意は必要ない。そのような態様であっても、後続の高速車による追突など、実際に人身事故に至れば「著しい交通の危険」は成立し得る。

まとめ

ネットには、正しくない情報が溢れている。一見するとためになりそうに見える解説動画も含めて、それが正しいとは限らない。

いうまでもなく既存メディアもそうである。ただ、その既存メディアを普段から批判しているネット上の解説者による解説も、必ずしも正しいとは限らない。

とにかく疑問に思ったら、原典確認や専門書確認、法の分野においては逐条解説本や裁判例など、多角的に見る視点が重要である。

見る立場、noteで解説する立場、両方の立場で自戒の念を込めて。


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