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沖縄道中記

緊急事態宣言が明けたらどこかに行こうと約束していたので、コロナ禍でくたくたになっていた祖母を連れ二人旅を決行した。自分なんかは仕事やなんやで外出する機会はまだ多いけれど、外出の機会を失った祖母のような高齢者はどうしたって自宅で過ごす時間が増えてしまう。おまけに感染時の重症化リスクは若者とは桁違いという不条理。旅行が趣味であった祖母にとっても、どこにも出掛けられないこの期間は一層苦しいものだったに違いない。その影響もあるのだろう。体力の低下からか、祖母は最近、身体の不調を訴えることが多くなった。果たして、そんな祖母が長旅に耐え得るのか、不安がなかった訳ではないが、リスクを冒してでも僕は外に連れ出してやりたかったのだ。
行き先は沖縄。理由は二つ。暖かい所がいいだろうと思ったのと、今年から僕の妹が沖縄で働いていたからだ。まぁビーチでオリオンビールとさんぴん茶でも飲みながらのんびりしようじゃないか。宿とレンタカーだけを手配して、何の予定も立てずに沖縄へと旅立った。
思えば、初めての家族旅行も沖縄だった。たしか僕が初めて飛行機に乗ったのはその時だったと思う。今みたいに格安航空券はなかったから、飛行機で旅行を出かけるなんて夢のようなことだった。家に帰らず寝る間もなく働き続けた父が、なんとか工面して家族旅行に連れて行ってくれたんだと思う。もう遠い過去の記憶はほとんど抜け落ちてしまっているけど、あの時の記憶だけは驚くほど鮮明に覚えていて、今でも写真を見返すように思い出すことができる。真っ白い砂浜に、異国情緒漂う街並み、初めて見る珍しい食べ物。僕は沖縄料理、強いては沖縄そばが大好物で、麺をわざわざ沖縄から取り寄せるほどの沖縄そばフリークである。胃腸が弱い自分にはとても優しい食べものであると、好きな理由を聞かれればそう答えてきたが、今思うとあの時に初めて食べた幸福な味として脳に刻み込まれているのかもしれない。そういえば、うちの家族も皆、沖縄そばが好きだ。

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5,261字

2018~2022年までtumblrに掲載されていたアーカイブ記事と未公開記事をまとめたエッセイ集。

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