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To H

友人Hと出会ったのは小学校だった。類は友を呼ぶらしく。昆虫や動物が好きで、サッカーが好きで、モノ作りが好きで、何より冒険が好きな僕達はいつの間にか一緒にいるようになっていた。冒険と言えば聞こえがいいが、要するにただのヤンチャだ。アホな思い出は数知れず。小学校6年で同じクラスになった時は本当に酷いものだったと思う。退屈な授業が始まると先生から「教室から出て行きなさい!」と言われるまで騒ぎ続け、その言葉を聞いた瞬間に「ヤッター!」とボールを持ち出し校庭でサッカーを始めるのだ。(「廊下で立ってろ!」と言えばいいのに、担任の先生はヒートアップするとつい口癖の「教室から出て行きなさい!」が出てしまう。おかげで、サッカーが上手くなった)初めのうちこそ教室の窓から校庭に「白石!H!戻ってきなさい!」と怒鳴っていたが、先生も諦めたのだろう。いつしかそれも言われなくなり僕らは完全に治外法権を獲得していた。あの事件が起こったのはそんなある日のこと。隣のクラスが ‘総合’の授業を使って体育館で演劇をやると聞きつけた僕らは、例によってその日も教室を抜け出し、いざ体育館へ。そこに着くと仲のいい男子グループがおとぎ話『桃太郎』の演劇をしている最中だった。へぇ、皆んな恥かしがらずによくやってるなぁ、なんて感心して見ていたらすぐにその劇は終わって、次のグループの演目が始まった。「お前らマジで来たのかよ」「うん、意外とちゃんとやってたじゃん」と舞台から降りてきた男子グループと会話をしていたら、桃太郎役をやった子が「これやるよ」とカラフルな風船ガムを僕らに一粒ずつ差し出してきた。ああ、きびだんごが手に入らなかったから風船ガムにしたのか。「ありがとう」と、僕はそのガムを食べようとした瞬間。バンッッッ!!!という発砲音のような爆音が体育館に響き渡った。なんだ。不審者が発砲したのか。体育館が静まり返った。驚いた僕は、隣にいたHを見やる。すると奴は目に涙を浮かべ口から煙を出していた。よかった不審者ではない、Hの口が爆発したのだ。いや、それもよくはない。Hは「ああ・・ああ・・」言うばかりで何が起きたのか分からなかったが、さっきの桃太郎が「これ食べたのかよ!爆竹だぞ!」と腰を抜かした。どうやらあの風船ガムはきびだんごではなく鬼退治の時に使った、かんしゃく玉という衝撃を与えると爆発する花火だった。(かんしゃく玉はかつてコンビニの花火コーナーにも普通に置いてあったが、数年前からすっかり見なくなった。きっとHの悲劇と同じようなことが多々起きたのだろう)Hは保健室に速やかに運ばれ処置を受けたあと、泣きべそをかきながら僕にこう言った。「頭おかしくなっても友達でいてね」

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2,860字

2018~2022年までtumblrに掲載されていたアーカイブ記事と未公開記事をまとめたエッセイ集。

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