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What a street boy

一昨年、中国で撮影してた映画『1921』でちょっとしたアクションシーンがあった。これまでアクション映画にはいくつか出ていたし、運動能力には多少の自信があったから特に不安に思うことはなかったのだが、その日はいやに恐怖心を覚えた。コロナの自粛期間で長らく運動をしていなかったし、その上に上海のホテルで二週間も隔離をしていたから知らぬ間に体が衰えていたのだろう。撮影前、アクションチームから動きをつけてもらうのだが、まぁ身体が思うように動かなかった。完全なる慢心である。相手から投げられるカットで、受け身がうまく取れず右足の付け根を強打した。特に難しい動きではなかったのに、本番でテンションがあがり自分から派手にすっ飛んでしまったのだ。こんな時は大体、みんなを安心させようと平静を保った涼しい顔をするものだけど、この時ばかりはそんな演技など出来ず、顔面が硬直した。ピキンと鋭い痛みが右足から全身を包む。ああ、ヤバイ、やってしまった。これはもう動けないかもしれないと絶望しかけたが、しばらく患部を冷やしていると何とか歩けそうだった。痛がっていても仕方がないし、折れているなら折れているでいい。とにかくアドレナリンという最強の痛み止めが効いているうちにやってしまわねば、明日とて出来ない。意識を集中して痛みを逸らし、辛うじて撮影を終えた。
深夜まで続いた撮影を終えベッドに横たわると、果てしない痛みと冷や汗、ついには全身への震えが止まらなくなった。翌朝、病院に行ってレントゲンをとってもらったが、骨折ではなくただの打撲という診断。こんなに痛いなら折れててくれなきゃ割に合わないよ、とおかしな思考にまで至ったが、不幸中の幸いである。帰国してからもしばらく痛みは続いたけれど、それ以上に自分への情けなさが痛かった。
そして昨年、仕事が落ち着いたタイミングで近所のスポーツジムに通う。週に二日ほどランニングマシンで走り、ウェイトマシンで筋トレをする。せっかくだからプロテインも飲んで、食事も見直してみようと数ヶ月続けてみたら、体重は四キロ増え、体力もいくらか付いたようだった。こうして変わりゆく身体がモチベーションにはなるものの、僕にはどうしてもジムでの単調な反復運動が退屈でならない。幼馴染のFから「スケボーはじめない?」と誘われたのはそんな頃であった。

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2018~2022年までtumblrに掲載されていたアーカイブ記事と未公開記事をまとめたエッセイ集。

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