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ジョン王を終えて

中世のフランス皇太子、ルイ八世に思いを馳せる。血筋、結婚、権力、武力、宗教、命。科学など存在しない時代に、家族同士が殺し合う時代に、彼はどうやって生きていたのか。僕は歴史を学び、想像することしかできない。できうる限りの情報を入れ、シェイクスピアが書き残した物語と台詞から、自分なりの解釈を明確にしていった。
11月中頃。舞台『ジョン王』の稽古が始まった。英国史上もっとも悪評高いジョン王率いるイギリスとフランスが、イギリスの王位継承権をめぐる争いが描かれる作品で、シェイクスピア作品の中でもなかな上演されない不人気作だ。今舞台は2020年の夏に上演される予定だったが、コロナウィルスの影響で延期。この延期により、1998年から蜷川幸雄さん演出でスタートした彩の国シェイクスピアシリーズの最終作品がこの『ジョン王』となった。二年越しの集結である。稽古まずは本読みから。僕自身は蜷川さんとはご縁がなく、彩の国シェイクスピアシリーズ初参加だったが、演出の鋼太郎さん、主演の小栗さんはじめキャストスタッフ含め蜷川さんに縁のある方ばかりで、なかなかの緊張感に包まれていた。僕は準備してきたものを、ぶつけた。鋼太郎さんは概ね満足してくれていたようだったが、まだまだもっと出来るだろうと、初日から自らの演技で示してくれた。即興で鋼太郎さんを真似てみるが、全然できない。ああ、これは楽しい仕事になるぞと、身が引き締まる。その日の稽古終わり、何人かのキャストで食事に行くことになった。アイドリングトークが終わると、作品についての議論が始まる。小栗さんや光夫さんが口火を切り、それぞれ持ち寄った作品への解釈や考察を鋼太郎さんに、ぶつける。鋼太郎さんも負けじと返している。俺にも言わせてくれと、僕もぶつけた。鋼太郎さんは「王様ってのは俺ら凡人が共感できなくて当たり前だろう。もっとダイナミックなんだよ。歴史を動かすやつはダイナミックに決まっている」と言った。ダイナミック。

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1,397字

2018~2022年までtumblrに掲載されていたアーカイブ記事と未公開記事をまとめたエッセイ集。

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