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散りチリ
鎌倉にある祖母の家は、小高い丘の上端にあり麓からズラーッと桜並木が軒先まで続いている。昔から我が家の花見と言えば、そこに出来る桜のトンネルを車でゆっくりと通り抜け祖母の家まで行くことだった。祖母は僕らが来ることを心待ちにしているのか、それとも単に桜の開花を楽しみにしているのかは分からないが満開になるといつも一報をくれた。帰り道、車のヘッドライトをハイビームにすると左右上に広がる桜だけが光り輝き何とも幻想的な空間にいざなわれる。花の美しさなんかこれっぽっちも分からないはずの少年白石もこの時ばかりは、後部座席から身を乗り出してフロントガラスの先にある桜色の複雑な柄をした天井をしかと眺めた。桜って奴はいつになったら見飽きるのだろうか、初めて自分の運転でその桜のトンネルを通った時はまた格別だった。
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