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Highlight of the year

かれこれ四年前の冬。NHKの番組でタイのバンコクに一週間住むという企画があった。歳の離れた初対面の同性と同居をするガチなドキュメンタリー番組で、僕はロックバンド・怒髪天のボーカルを務める増子直純さんとコンビを組むことになった。どこに行って何をするのかも本当に全て自分達次第、ディレクターやカメラマンは近くにはいるものの彼らからは一切話しかけてこないという徹底ぶりだった。最高にロックでホットな増子さんとはすぐに意気投合して、お互いにやりたいことを尊重しながら、いや、実際には僕のやりたいことに増子さんがほとんど付き合ってくれていたような気がするが、楽しく刺激的な時間を過ごした。撮影最終日、増子さんの提案で大きな広場で開催されるウィークエンドマーケットにお土産を買いに行くこととなった。タイの伝統的な工芸品から近代アート作品までありとあらゆる品が揃う巨大なマーケットで、多くの観光客で溢れていた。お目当ての品をそれぞれ見つけ、値段交渉をああだこうだして、買い物と撮影はすぐに終わってしまった。まだ時間も早いしせっかくだからもうちょい見ましょうか、とカメラを止めて増子さんとは別行動をすることに。僕はディレクターさんと共に、フードコートエリアでビールを注文した。ワイワイこの旅の思い出を語り合っていると、一人のイギリス人男性が日本語で声を掛けてきた。

「日本人ですか?」
「はい。日本語上手ですね」
「僕は日本に住んでますから。観光ですか?」
「いや、仕事で。タイでドキュメンタリー番組を撮ってるんです」
「へぇー、タイは楽しいですよね。今夜、クラブに行くんですけど、一緒にどうですか?」
「クラブかぁ。カメラ回しても大丈夫なら、ちょっと行ってみます?」
「まぁ、ナイトスポットもタイの魅力の一つですしね」
「もし、行けそうだったら連絡します」
「これが僕の番号です。クリスです、よろしく」

とりあえず連絡先だけ交換をして、妙に巧みな日本語を繰り出す怪しげなイギリス人・クリスとはお別れをした。結局、その日はこちらの撮影というか晩御飯が遅くなってしまい、『ごめんなさい、今日は行けなさそうです』と彼の誘いをお断りした。
タイでの撮影を無事に終え、それから東京に戻って、一ヶ月くらいが経った頃。クリスから突然、電話が掛かってきたのだった。

「今日、うちでパーティーやるから来ませんか?」
「パーティー?」
「そうです、〇〇のお別れパーティー」
「〇〇を僕知らないですもん」
「そうですよね、でも大丈夫ですよ」
「大丈夫かなぁ?てか、そもそもあなたのこともよく知らないし」
「そうですよね、でも大丈夫ですよ」

何が大丈夫なのかは知らないけど、とにかく彼は執拗に僕を誘ってきた。タイでの生活が影響したのか、オープンマインドになっていた当時の僕は、面白半分でそのパーティーとやらに行ってみることにした。

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2018~2022年までtumblrに掲載されていたアーカイブ記事と未公開記事をまとめたエッセイ集。

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