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確かに昔から手先は器用な方だった。「しゅんやくんは絵が上手だから、習わせてみたらどうでしょう」という幼稚園の先生の言葉を鵜呑みにした母は、僕をすぐにアトリエ教室に通わせた。そこは家から車で20分ほどの所にある個人宅のリビングを利用した絵描き一家が営む小さな教室だった。一家のお母さんであり僕らの先生、プロの画家として活動しているお父さん、美大を卒業し二人と同じく油絵を描いている娘さん。太陽の光を多く取り込む設計になっていたのだろう、玄関や廊下やリビングにびっしりと埋まった3人の額縁に収まる絵画たちが気持ちよさそうに陽の光を浴びている光景が思い出される。週に一度、僕はそんな素敵な家に行き、同世代の数人の仲間と共に水彩絵具を使って季節の植物や友達の顔や動物の絵を描いていた。(このアトリエ教室で起きた数々の出来事については、今ここで全てを書ききれないのでいつかしかるべきタイミングで話せればと思う。)技術的なことは何も教えられてない、よく観察して自分が描いたいと思ったところを丁寧に描きましょうという教えの元、僕たちはのびのびとそれぞれの絵を楽しく描いた。ある時、2階から降りてきたお父さんがフラッと僕の絵を除き見て「君は観察力があるねぇ」と一言だけ残し去って行った。その言葉にいたく感激した僕は、それ以降どんどんどんどん歪な絵を描くようになり、バランスのとれた綺麗な絵が描けなくなっていった。

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2018~2022年までtumblrに掲載されていたアーカイブ記事と未公開記事をまとめたエッセイ集。

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