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【毎週ショートショートnote】「大増殖天使のキス」(410字)

 天使が発見されたのが一年前。
 天使が増殖し始めたのが一月前。
 天使が大増殖したのが昨日のことだった。いずれも原因不明である。
 頭の輪と羽を持つ天使は、ひとつ人間にない能力を持っていた。
 キスされた人間は死んでしまうのだ。
 当初は天使と恋に落ちて命を落とすものもいたが、次第に死者は減っていった。
 ただ天使が大増殖してからは話が違った。
 天使が増えすぎたせいで、全人類が一切身動き取れなくなってしまったのである。

 そう、俺の前後左右には無数の天使がぎゅうぎゅう状態で詰まっているのだった。
 そして目の前には、触れた瞬間に命を落とす唇!唇!唇!
 安楽な姿勢を取ろうと天使が体勢を変えるたび、俺は体を仰け反らせ、その唇から離れようと必死でもがいた。

 だがなんの前触れもなく天使はその数を減らし、やがて消えていった。
 残された純白の羽と恍惚の表情を浮かべる無数の人間の死体を眺めると、俺は少しだけ、惜しい気持ちにもなるのだった。












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