スクラムとかいうバズワードを押し付けているお前らへ

初めに

タイトルは煽りです。ごめんね。
実際にはスクラム開発導入の際にフォロワーの熱量が上がらないのはなぜか?と言う話をします。
対象読者はWeb開発においてスクラム開発を導入させる側の人です。

前振り

こう言う経験はありませんか?

会社の偉い人からの指示で開発チームにスクラム開発を導入することになりました。
自分はリーダーとしてチームにスクラム開発導入を成功させる必要があります。人事目標にもそう書きました。

ところがスクラム開発を始めたところ、チームメンバーに明らかに熱量の低い人がいます。
スクラムについては事前に説明したはずなのに(あるいは経費で買った入門書を課題図書として渡したはずなのに)理解度が浅すぎるし、理解する気もなさそうな人たちです。

staticおじさんのいう「実はオブジェクト指向ってしっくりこないんです!」 という感覚で
「ポイント見積ってしっくりこないんですよね」「人日換算できない見積って意味あるんですか?」
「なんでペアプロとかするんですか?1人で1つのタスクやらせた方が効率いいですよ」
「プロダクトバックログとスプリントバックログを分ける意味なくないです?」
とのたまうわけです。
仮に「抵抗勢力くん」とでも呼びましょう。

「抵抗勢力くん」をどうすべきか

ここで悩み始めるわけです。
・あきらかにこいつらはチームのスクラム導入の足を引っ張っている。
・「抵抗勢力くん」をどうすべきか。
・公然と無視するか、あるいは上司や人事とかけあってチームから異動させるか。

しかしこの「抵抗勢力くん」が複数人いた場合、複数人をチームから異動させるのは現実問題として難しいわけです。
現実問題としてたかがスクラム開発の導入のためだけに複数人の異動を行う価値を認める組織は極めて少数です。
またリーダーとしての自分の評価に関わります。

非常に難しい問題ですね。
そもそもなぜこういう「抵抗勢力くん」は生まれるんでしょう?

私の直面した経験でも、Webサービスの内製開発企業でありエンジニアの質についてはある程度の水準があると思っていました。
しかしそれでもこのような変化と学習を拒み、過去の経験に固執する「抵抗勢力くん」が産まれるのは過去の私も非常に不思議でした。

ではこう言う経験をしたことはありませんか?

JTCでよくみる光景なのですが、日経おじさんと呼ばれる人たちが職場にはよく生息しています。
この日経おじさんたちは日経ビジネスやプレジデントという経済週刊誌に面白ワードが載ると、嬉々としてそれを毎週の全事業所朝会の場でドヤ顔で
「君たちは知らないだろうが、こういう素晴らしいものがあってだね!」
「うちの現場でも今すぐ導入しよう!導入するために考えてみよう!」
とはしゃぎます。
バズワードの部分にはオフショアとかクラウドとかトヨタ生産方式(TPS)とかDXとか、そういうワードが当たります。

だから「日経おじさん」は嫌われる

この「日経おじさん」は本人もよく分かっていないのに一知半解状態のバズワードを現場に持ち込んで無用の混乱をもたらしたりするため、現場では嫌われます。

本題

「抵抗勢力くん」はこちらを「日経おじさん」だと思っている

タイトルの通りです。
「抵抗勢力くん」は過去に混乱させられた苦い経験、あるいは変化への適応性の弱さからこちらをバズワードを振り回して現場を混乱させる人間だと思っています。

そもそも冷静に考えてほしい

大半のソフトウェアエンジニアにとって、スクラム開発は「名前は聞いたことがあるけどよく知らないもの」です。
ざっくりした感覚だとWeb開発業界のソフトウェアエンジニアは以下の感じです

  • アジャイルっぽい開発すら未経験が全体の5割

  • 残りの5割のうちスクラム開発を1度でも経験しことがあるのがさらに5割(25%)

    • 残りは短い期間で開発を区切る「アジャイルっぽい開発」の経験あり

    • この「スクラム開発」でポジティブな開発経験をしたかは問わない

  • スクラム開発経験者(25%)のうちアジャイルサムライのような入門書を一度でも読んだことがあるのはスクラム経験者の4割(10%)

    • 残りはチームメンバーから説明を受けた or インターネットで調べたというレベル

    • 認定スクラムマスター資格持ちも7割はこのあたりの知識レベル

  • 入門書読破経験者のうち以下のいずれかを経験した人間はさらに半分(5%)

    • RSGTやスクフェスなどスクラム系のテックイベントに参加した

    • More Effective Agileなどの「入門書の次」を読破した

大半のエンジニアにとってスクラムは「よくわからないバズワード」

私は上記の一番下の5%に属する人間なのですが、世の中の大半の人間にとってはスクラムは「名前しか聞いたことのない、よくわからないバズワード」にすぎません。
「今からスクラムやるぞ!」と言われて素直に熱狂できるわけがないのです。

じゃあどうすればいい?

「よく分からない」からスクラムをいやがるんですよね?
それなら分かってもらえばいいわけです。

ここから書くのは「スクラム開発の導入」に対してのメンバーの内的動機付けの話です。

「内的動機付け」を行う理由

前述した「抵抗勢力くん」をできるだけ出さないためにあります。
協力せずブレーキ要員になるメンバーをできるだけ減らす。
「抵抗勢力くん」が複数人出てスクラム導入が詰む事態を避けたいのです。

また内的動機付けを行うことで非協力的なメンバーを減らすと同時に、協力的なメンバーを増やしてチームの学習を加速させる狙いもあります。

内的動機付けの意義については私はダニエル・ピンクの名著モチベーション3.0で学びました(Kindle版でてくれないかな)

まずは問題の炙り出し

スクラム開発導入前に開発を短く区切って「ふりかえり」というイベントを導入します。
まずそこで「お前ら今の開発の何が問題だと思っているの?」をあぶりだします。
当然時間はかかるし根気がいります。
「現行の開発スタイルの解決したい問題」は炙り出せましたね?
それでは次行きましょう

え? 問題が出てこない?
その場合は諦めてください。
喉が渇いていない馬に水は飲ませられません。

読書会「問題を解決する手段としてのスクラム開発」

次にスクラム開発系の入門書の読書会をやってみましょう。
アジャイルサムライがいいと思います。
ちょうどウォーターフォールからアジャイルにトレンドが移る端境期に書かれた入門書ですしね。

読書会の良い点は、書かれている内容についてディスカッションするため本の内容が腹落ち感とともに頭の中に入ってくる点です。
経験をもとに「これはこう言う問題に効果がある」と語られたり、「これは背景知識としてこう言う考えがある。詳しくはXXという本を読むと分かる」という話が出てきます。
実際の現場でどう役立つの?という話とWhyやコンテキストが同時に入ってくる点が読書会の最大の強みです。
当然1日では終わりません。でもそれだけの価値はあります。

補足:「課題図書」では効果がない

単なる「課題図書」だと斜め読みして「ふーん」で終わってしまい何も入って来ません。
また2割くらいの人はそもそも読みません。

スクラム開発への期待値調整

ここまででスクラム開発への調整はできましたね?

・現在抱えている開発の問題を解消できそう
・調べてみたら面白そうだしやってみようか
・まずは何をすれば良いのかも分かって来たし
という意識をチームメンバーに刷り込む点が大事です。

未知のやり方に対する不安は強烈なデバフになります。
なのでまずは
・メンバーから未知への不安を取り除き
・興味とやってみたいと言う気持ちを抱かせ
・現状の問題を解決するアプローチとして適当である
という考えをチームに浸透させることを輪読会を通して狙うのです。
また輪読会に参加してもらえれば「抵抗勢力くん」の発症確率は劇的に低下します。

同時に「生産性爆上げ」みたいな効果はないことを理解させ、早期のスクラムへの失望を防ぐ狙いもあります。

「抵抗勢力くん」対策

また輪読会は全員参加が望ましいですが参加しない人もいるでしょう。
家庭の事情もありますし、そもそも活字が嫌いな人もいます。
あるいは輪読会の最中にアレルギー反応を示す人もいるでしょう。
その場合スクラム開発導入までにメンバー入れ替えも視野に入れた上で、上司への根回しを行うことになります。

導入開始してから「抵抗勢力くん」がいきなり出てくるケースと、導入前に「抵抗勢力くん」予備軍が分かるケースとでは大違いです。
また事前に多数派を押さえることでチームメンバーの紐帯を盾に反発意識を抑え込む狙いもあります。

「時間かかりすぎじゃない?」

事前のふりかえりでの課題意識の共有
あるいは輪読会の実施など多くの期間と労力を割いています。
これは事実です。

しかしメンバーの大半が一知半解状態でスクラム開発を始めても
・成果が出ずに早期崩壊する
・導入には成功するが低いレベルで停滞し、迷走し始める
・「抵抗勢力くん」が複数出てパフォーマンスが低下する
などの失敗リスクがありすぎるのです。

まとめ

短期間でパフォーマンスを出せるスクラム開発チームを作り上げ、高いレベルまで半年程度の短期間で駆け抜けていくにはこれだけの事前準備が必要なのです。
大きい成果を出すために必要なのは入念な準備なのです。

みなさまのスクラム開発の導入になれば幸いです

後記

長文乱文をお読みいただきありがとうございます。

スクラム導入で散々苦労したり、失敗したり、低いレベルで迷走を始めた開発チームを見てイライラした経験を社会性フィルタを通して綺麗にまとめてみました。

実際には一知半解状態のスクラム導入の推進側も相当問題だと思っていて、スクラムマスターになるなら最低限スクラム/アジャイル系の本は10冊読んでスクラムコミュニティで知見を深めて欲しいですねぇとか思ってますが
それを言い出すとキリがないですね。

なので「お前、日経おじさんだと思われてるで」と言ってから
とりあえず課題意識共有させてから、初めてそこで「ところでいいものがあるんですよぉ(アジャイルサムライを取り出す)」と言う流れを軸に記事をまとめてみました。

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