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ある朝のできごと

旅する介護福祉士 U^.^U ぎんちゃん、二度めの投稿。

クロスハートに出勤する日、ぼくは朝7時ちょうどに家を出る。朝のラッシュタイムだ。

最寄駅の上りエスカレーターを降りたぼくは、通勤客に紛れて改札に吸い込まれていく。

その流れの中で、ふと、大柄の高齢男性が杖を使って牛歩の如く小刻みに改札に向かっているのが目に入った。

ぼくはその男性が気になりながらも、流されるまま改札を抜けた。流れから外れて振り返ると、洪水のような通勤客の向こうに、男性だけが静止しているように見えた。

スマホを見ると時間の余裕は微妙だった。このままホームに向かうか、それとも戻って男性に声をかけるか。

迷った。

ただ、この場面を見過ごしたら、これから先ぼくは介護士を名乗ってはいけない気がした。

入札をキャンセルして戻った。
「何かお手伝いしましょうか?」

男性はぼくの顔を見て「大丈夫」と言ったが、数秒後に杖を差し出し渡すと片腕を大きくぼくの肩にまわした。

ぼくたちは黙ったまま二人三脚のように歩き出した。イチニ、イチニと声を出したが、なかなか息が合わなかった。

しばらく行って休み、しばらく行って休みしながら改札に近づくと、男性が駅員のいる窓口を指差した。

窓口までたどり着き駅員に声をかけたら、駅員が車椅子を持って出てきた。男性はいつもここで車椅子に乗せてもらうのだと理解した。

「お気をつけて」ぼくはそう言い残すと、駅員にあとを任せてホームへと急いだ。

時計を確認したら5分しか経っていなかった。この5分を迷った自分が恥ずかしいと思った。

昼休憩のとき同僚たちにこの話をしたら、自分だったらどうしただろうかと考えていた。

Written by 旅する介護福祉士 ぎんちゃん

PS. その後、この男性とは同じ曜日の同じ時間に遭遇するようになった。今日が5回めの遭遇、名乗りあわないまま挨拶を交わしては窓口までの二人三脚が続いている。


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