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ユーザーコミュニティの勉強会配信支援をしてみた (2020年)

アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSJ)でユーザーコニュニティプログラムを担当している沼口です。JAWS-UG(Japan AWS User Group)の活動を支援しています。この記事は ライブ配信 Advent Calendar 2020 の21日目の記事です。

JAWS-UGとは
JAWS-UG(ジョーズユージー)またはJAWS(ジョーズ)とはJapan Amazon Web Services User Groupの略称で、AWSのユーザーグループです。ベンダーであるAWSとの関係を保ちながら、全国に50以上ある各支部の運営メンバーがAWSクラウドに関する勉強会を独自に企画・運営し、年間に250回以上、18,000人以上が勉強会やイベントに集まる巨大なユーザーグループです。(2019年実績)JAWS-UGの勉強会情報はJAWS-UGホームページのカレンダーAWSのユーザーグループ情報ページで確認できます。

2020年のJAWS勉強会配信状況

今年の勉強会はCOVID-19の影響で3月以降のほとんどはフルリモートの勉強会形式となりました。JAWS-UGは年間300回以上の勉強会が開催されますが、外出自粛要請の条件下で今年もユーザーの皆さんにより200回を超える勉強会が開催され、18,452名様の勉強会申込みをいただくことができました。ハイブリッド、オフライン、オンラインの内訳の数字を見ると以下になります。なお、中間値と(参考)平均値は申込者数のものです。

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今年の数字だけみても傾向がわからないので、2019年の数字と比較してみましょう。

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昨年と今年の比較から導き出されることは、JAWS-UGの各支部運営の方々の「勉強会をやるんだ」という熱いパッションで5月以降にオンライン開催にシフトして、結果、昨年の申込者数に対して 10.8 %増の 18,452人となったのはもちろんですが、注目すべきはその規模です。平均値は極端な数字に引っ張られるので、中間値をみてほしいのですが、総合としては申込者数の中間値が15人から40人になり、勉強会そのものの規模が2.7倍になりました。3月以降の勉強会のほとんどがオンライン開催となったことが原因ですが、中間値があがるということは100人以上といった「大規模勉強会」が増えたというより、通常の勉強会への参加者数が15人前後から40人前後の開催に底上げされたと判断すべきでしょう。

制約下でのオンライン開催ですが、上記から逆に申し込みのハードルが下がったことがわかります。ただし、歩留まりはオフラインのそれと比べて悪くなった(実際に参加する人の比率が下がった)ことは事実です。実際の参加者のカウントが自動化できないのでデータの集計ができませんが、オフラインではDoorkeeperやconnpassでの仕組み(無断キャンセルへのペナルティなど)もあり、70%~80%の歩留まりでしたが、オンラインにおける歩留まりは50%~60%のあたりだと目視で確認できています。

勉強会のオンライン配信へのシフト

あらゆる場面で「オンライン配信」を余儀なくされた2020年だったと思いますが、JAWS-UGの勉強会は2018年の暮れあたりからオフライン勉強会の模様をオンラインでも配信する「ハイブリッド形式」を取り入れ始め、2019年はハイブリッド形式に加えて地域支部へオンラインでAWS登壇者参加を支援する「リモート登壇」にもチャレンジしていました。

もともとは目黒にあるAWS/Amazonオフィスのセミナールームの収容上限を超える勉強会へのお申込みをいただくようになったのが始まりです。AWS/Amazonのセミナールーム(およびAV会議室)は SIP (Session Initiation Protocol) と H.323 ビデオ会議システムに対応していて、会場のプロジェクタ-画面を Chime の「共有画面」として指定することができ、会場にある複数のマイクや会場の集音マイクを音声として Chime に流し、セミナールーム内の天井から吊り下げられているカメラの映像をWebカメラ映像と同様に扱うことができます。

このJAWS-UGの配信形式の移り変わりを以下のようにまとめています。
第一形態は通常のオフラインセミナー。

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第二形態はオフラインセミナーの模様をビデオ会議システムを使って配信する方法。セミナールームや、会議室が H.323 に対応していると、なんの準備もなくすぐに開始できます。

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第三形態は、ビデオ会議システムから映像や音声を配信サービスに送出することで、より多くの人であったり、異なるチャネルでの配信を可能にする方法です。図では Twitch.tv だけですが、YouTube や Facebook なども含みます。

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第四形態は、セミナールームやAV会議室だったものが、それぞれ Chime や Zoom を使ったリモートから参加する方法です。フルリモートによる配信ですね。

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今は、登壇者やスタッフを含めたすべての人たちがリモートから参加するフルリモートタイプの第四形態が現在の主流です。また、Amazon Chime の部分は Zoom を使うことも多く、利用する配信サービスも Twitch.tv や YouTube Live さらには Facebook や AWS Media Services を使った独自の RTMP サーバーなどのバリエーションも増えてきました。

AWSによる配信支援(コミュニティ支援)

AWSによる配信支援、つまり私がAWSのコミュニティプログラム担当として行う支援内容ですが、上記の第1形態から第4形態までの移り変わりの中で変化してきました。第1形態においては、多くは東京で開催される勉強会が中心ですが、AWSのオフィスで100人を超えるセミナールームの確保が最重要課題でした。

そのセミナールームがビデオ会議システム対応になっていたため、セミナールームの収容人数を超えるお申込みが続くようになると、必然的に第2形態のビデオ会議システムをつかって配信する形態に進みました。当時の Chime はあくまで「社内ビデオ会議システム」であったため同時接続数が100人という規模(現在は250人)で、そのChimeの上限もすぐに到達するようになります。

実は第2形態から第3形態へは結構時間がかかっていました。たぶん、今後は、オフラインが復活して、オンラインをやりながらも、会場の音声や映像といったオフライン・リアル会場で利用するための「物理的な準備」に頭を悩ませている人がだんだん多くなるかと思います。

会場のマイクとオンライン用のマイク音声を同時に取り込む方法、会場のプロジェクターに写す登壇者のパソコン画面を同時に共有画面として Zoom や Chime に取り込む方法、HDMI ケーブルが規格的に 5m が上限で愕然としたり、勉強会会場のマイク音声を取り込もうとしたら、なんか太いケーブルでどうやって変換するのか、そもそもパソコンに取り込みには何が必要で、会場でパソコンのスピーカーから音声を流すわけに行かないので、どんなスピーカーやアンプを用意しなければいけないのか、、、などなどです。

このライブ配信 Advent Calendar を見てる人はすでにこれらの課題を解決されているか、または、そもそもオフラインのリアルな会場から手をつけて、HDMI/SDI を分配器で分岐させたり、PAをつかったり、サウンドミキサーを使うという知識がある方が多いとは思いますが、知識があっても実際に会場責任者と交渉して機器を入れるには時間もコストもかかります。

いまでも覚えているのですが、突然神様が舞い降りたんです。

「デスクトップに表示されている Chime(Zoom) の映像と音声を、そのままゲーム配信のように配信すればいいんだよ」

第3形態の Chime や Zoon の映像や音声を OBS Studio や XSplit などの配信ソフトを使って配信サービスに送出することができるようになれば、第3形態から第4形態への進化は難しいものではありませんでした。

このようにAWS(私)がJAWS-UGに対して提供している支援は、当初はセミナールームの予約でしたが、セミナールームの模様をChimeで配信することにシフトし、そこから OBS Studio を使ってその模様を配信サービスで配信する、ところまで変化しました。

そして、JAWS DAYS 2020 Online を経験して、さらにもう一歩すすむことができました。それが、AWS の DaaS (仮想デスクトップサービス)である Amazon WorkSpaces をつかった勉強会配信サポートです。

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これにより、配信サポートをするスタッフのローカルのパソコンスペックやネットワーク環境に左右されずに、AWSのデータセンターから安定した配信が可能になりました。繰り返しになりますが、上図の Chime の部分は Zoom でもまったく問題ありません。

現状は、この WorkSpaces の環境を構築して、そのまま配信の支援をするか、JAWS SONIC のように、JAWS-UG のメンバーとこの配信環境を共同で利用して、勉強会・イベントの配信を行います。

コミュニティらしさを維持するために

そもそもは JAWS-UG はオフライン勉強会を中心に全国に広がっていった IT勉強会を主催するユーザーコミュニティです。教えると人と教わる人、といった関係ではなく、お互いに切磋琢磨して知見を共有していきたい、という人達の集まりです。そこからくるオンライン勉強会やライブ配信への一種の「違和感」は理解できます。以下の記事はJAWS-UGの勉強会への造詣が深いライターの重森さんの ASCII.JP の記事です。

一方で、オンラインの良さも第4形態まで変化しながらライブ配信をすることでわかってきました。なんといっても、物理的制約がなくなり、移動時間なしで地域からの参加が可能であること、参加にかかる費用も優しく時間さえ取れれば数多く参加できるようになったこと、などです。

形態の進化からみると、第1から第4形態まですべて左から右に情報が流れる一方通行でした。オフラインの第1形態でも、ステージ上にあがって行うセミナー形式になり、大規模になれば、QA時間をとっても一方通行感は否めません。

現在、オンライン勉強会ではQAの機能を組みわせているケースが多く、JAWSでは sli.do を利用することが多いです。

アンケート機能も双方向コミュニケーションツールとして「参加している感」を醸成できます。mentimeter を使ってるケースもよく見かけます。

JAWS-UGは Twitter と #jawsug のハッシュタグのカルチャーで、勉強会の配信画面にも Tweetdeck で TL を組み込んでいます。Twitter をライブ配信の双方向コミュニケーションツールとして使うには、ツィートを拾うスタッフ、拾いやすくするためのハッシュタグやその他のキーワードの仕掛けづくり、などの工夫が必要で、個人的には活動拡散のためのツールと割り切ったほうがいいような気がしています。

YouTube Live や Facebook を配信サービスとして使った場合は、ライブチャットを取り込むことも検討しています。スタッフや登壇者がとりあげるメッセージやチャットを指定するフィルターのような機能をもっている StreamYard には可能性を感じています。OBS Studio + Zoom(Chime) を足して2で割ったような送出の仕組みは、OBS Studioのようなツールへのラーニングコストを下げることができます。

勉強会の大規模化にともない、双方向のコミュニケーションの不足部分をカバーしてきたのは「懇親会」でした。残念ながら「オンライン懇親会」の決定打がまだ見つかっていない、という認識です。いろいろなサービスが出てきていますが、これだ!というものがまだありません。このオンライン懇親会が進化すると、勉強会側での形態にも変化が起こるでしょうね。

来年、このエリアでどんな変化が起こるかとても楽しみです。大変な1年でしたが、変化を受け入れ、楽しみ、対応していくことで新たな発見や価値の創造ができると思いますし、JAWS-UGの皆さんとともに模索していきたいと考えています。

5133文字 3時間30分

Pezibear による Pixabay からの画像をお借りしました

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