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リモートIT勉強会の普及がもたらすもの

JAWS-UG(Japan AWS User Group)は、COVID-19以前から東京開催のいくつかの勉強会の申込数が、勉強会会場のキャパを超えるようになり、Web会議やTwitch.tv、YouTube Liveを使った配信をオフライン勉強会に併設して、勉強会の内容を会場に入れなかった方々にお届けすることを試行錯誤していました。

オンラインの仕組みで勉強会に参加できるリモート枠は、カンファレンスやセミナーで人気のセッションで会場に入りきれない人たちのために設置される「オーバーフロールーム」のような役割でした。あくまでオフラインの勉強会が主役で前提でした。

しかし、現在開催されている勉強会の多くは登壇者やスタッフもリモートで参加する「フルリモート」のオンライン勉強会がほとんどです。JAWS-UGは対面方式の勉強会を大事にする「オフライン ファースト」のユーザーコミュニティで、このオフライン勉強会の熱量をSNSなどのオンラインツールを使って「アウトプット」し広く多くの方に知ってもらい、リアルなオフライン勉強会へ参加を促すサイクルを回していました。

バーチャル勉強会のメリット

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フルリモート勉強会を開催する以前の、オフラインとオンラインをミックスさせた勉強会を実施していた頃から、以下のようなオンラインを使った勉強会のメリットを実感していました。

1) 急激な参加申込者の増加に即対応できる
まるでクラウドコンピューティングのメリットと同じですが、セミナールームの物理的制限がなくなったおかげで、申込み人数の上限がなくなりました。極端な例として先日開催されたコンテナ支部の勉強会の募集枠は65536人というキリの良い数字でした。

2) 全国どこからでも参加が可能
これは参加者のみならず、登壇者について同じことが言えます。ユーザーが中心となって開催しているJAWS-UGの勉強会は、これまでオフラインの勉強会中心のため支部の単独開催が多かったのですが、オンライン勉強会は容易な支部同士の交流を可能にしました。

3) セッションを録画してアーカイブの公開が可能
オンラインによる開催はその模様の録画と後日の公開を容易にしました。都合によりどうしても参加できなかった勉強会に、オンデマンドで後から参加(視聴)することを可能にしました。

オンライン勉強会は、セミナー会場の物理的な制約、開催場所の制約、開催・参加時間の制約の「3つの制約」からユーザーと運営メンバーを解放してくれました。そこから発生するメリットはすぐに実感できると思います。

以下の課題とも関連するのですが、千葉支部のケースは興味深いです。オフライン中心の開催の時は、多くのメンバーや参加者が東京勤務の中、東京近郊の千葉で勉強会を開催する意義を設定しづらいようでしたが、オンライン開催は勉強会のテーマやコンテンツの内容が魅力的であれば支部が存在する土地は関係なく、運営の意欲とアイディアと熱意で盛り上がることを証明しています。ただ、運営の実態や参加者の割合については横浜支部などの関東圏の支部同様東京の繋がりが強い人たちが多いことは事実です。

オンラインの課題

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オンライン勉強会の課題はあくまで「オフライン勉強会と比較して」という前提になります。慣れれば大丈夫というものなのか、オンライン勉強会の本質的な課題なのかを注意深く考える必要があると感じています。

1) 歩留まりが低くなる
歩留まりとは申込者数に対して実際に参加された人数の割合です。オフラインでは出欠チェックを受け付け時に行って履歴を残したり、キャンセル待ちの方のために出席できなくなった方は出席のキャンセルをしてくれていました。これまでJAWS-UGの歩留まりは高く、80%以上、場合によっては90%近くでした。しかしこれが60%から50%に落ち込んでいます。
リモートハンズオンの場合はチューターと呼ばれる人たちの人数からカバーできる申込者数を設定しています。オフラインと同様に出席できない場合はキャンセル処理をしていただき、キャンセル待ちの人に枠をお譲りいただきたいです。
しかし一方で歩留まり目標はセミナー会場の席数上限から発生していたものです。ハンズオンなどの特殊条件を除けば、歩留まりの低さを嘆いたり、高くするために申込みのバーを上げるのではなく、より多くの申し込みを受けて申込みしやすくするほうに考え方をシフトしたほうが良さそうです。

2) 反応が見えず、熱量が伝わりづらい
フルリモートによる勉強会の登壇者は目の前に聞いている人がいないため、聞いている人の反応を感じることができず、ウケているのか、すべっているのかがわからない、という話を聞くようになりました。また、視聴者にとっても他の参加者の反応がわかりづらいという話を聞きます。これはリアクションやフィードバックの仕組みをとりこんだサービスを使ったり、組み合わせることである程度対応可能だと思います。

3) 登壇者やスタッフの負担が大きい
目黒のセミナールームからオンライン配信を行っていた頃は、プレゼンテーションの資料を作成して、ステージにあがり、プロジェクターに資料を投影して、会場のマイクで話すことでその模様をオンライン配信することができました。しかし、フルリモートの勉強会の登壇者は、プレゼンテーションの資料作成に加えて、マイクの調節、配信ソフトによる画面共有の操作手順の理解、画面切り替えのタイミングを把握する、などの操作の責任を持つことになります。実環境を使った事前のリハーサルでカバーしたり、あらかじめプレゼンテーションの内容を動画で録画し、それを流したりするなどの工夫も始まっています。

4) 新しいネットワーキングが作りづらい
勉強会が終わった後の懇親会を楽しみにしている参加者も多いと思います。懇親会は、登壇者への質問や意見交換などを通してコミュニティでのネットワーキングを広げる役割を担っているのは明らかでした。だんだんの一般的になりつつあるようですが、リモート懇親会などのチャレンジが行われています。

5) ニューノーマルの生活様式とのギャップが露呈
自宅勤務形態になり、勉強会開催時間である19時~21時の参加が逆に難しいという人たちが現れました。この時間帯は自宅で夕食時でもあり、子供をお風呂に入れる時間でもあり、、、などです。新しい生活様式に、これまでのやり方が合わない人もいることに気づかされました。朝の7時30分から勉強会をする「朝会」はこの課題への一つの答えです。

6) 地域の強み・魅力が出しづらい
オンライン勉強会をはじめた当初は地域支部の勉強会においても、全国各地から参加者が集まり、参加者数も増え、ネットワーキングが広がることへのワクワク感がありました。
一方で、リアルな懇親会がないので、地域の美味しいものを食べることができなくなりました。地域支部の勉強会参加はこの楽しみがあったのは事実で、とくにIT勉強会系は勉強会のテーマ、コンテンツは全国共通になりがちなので、地域支部の強みとは?を問われる形になりつつあります。

上記最後の課題の「地域の強み・魅力が出しづらい」への対策はオンラインのIT勉強会においては本質的なものになりそうだと感じています。フルリモートでの課題解決は難しいですが、ハイブリッドな開催、もしくはオフラインとリアルタイムの「価値」との組み合わせから何かが見えてくるのかもしれません。この課題に対する答えを皆さんと探していきたいと思っています。(はやく出張いきたいです!)

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以上、IT勉強会考察の参考になれば幸いです。

S. Hermann & F. Richter による Pixabay からの画像を利用しています
Gerd Altmann による Pixabay からの画像を利用しています
2254文字 75分(+45分)

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