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初期化

2023.01.23

きょうは原稿を1つ書き上げた。

人生で一番

先日、大阪に行ったときに、元同僚らと飲んだ。

そのときに、同僚のひとりが「人生で一番の失敗は、いまだにあれです」と言うので、思い出した話。

僕らは携帯電話の取扱説明書を作っていた。
まだスマホ前夜。当時の携帯電話は、とにかく新機種のサイクルが早く、かつ同時に数機種が企画されたりして、まあ、平たく言えばめちゃくちゃ忙しかった。

……で、携帯電話の取扱説明書って、完成品ができてから作るわけではなくて、まだ何もない状態から仕様書を頼りに作っていくのだ。
実際に自分が書いていることが、合っているのかどうか確かめようがないのだ。なにせこの世にまだ存在しないのだから。

……とは言え、それではあまりにも雲を掴むような作業なので、新機種の初校作成時などは、その新機種のベースとなる現行機種を何台か借りて、確認用に使ったりする。
新機種と言っても、すべての機能が変わるわけではなくて、ベース機種から1〜2割くらいの機能が刷新される、みたいな感じだから。

だから、当時は自分のプライベートの携帯電話も常に最新機種を使っていた。最新機種にしておけば、新機種のときの確認用として、仕事でも使えるから。

……と、ここまでが前置きと言うか、予備知識である。

ある日、同僚の女性ひとりと事務所で夜中まで実機を使って挙動を確認していた。

作業をしていると、彼女が「わあああああああああ」と、あまり聞いたことがないような声を出して慌てている。
「おお、どうしたどうした」と聞いてみると「すみません、すみません」とすごく謝られる。

事情を聞くと、どうやら実機チェックをしている際に、借りていた現行機種を初期化しようと思って、現行機種と同じ機種である僕のプライベートの携帯電話を初期化してしまったらしい。

設定などによって表示される画面や挙動が変わるので、チェックの際は初期化してプレーンな状態にするのが常なのだ。

当時の携帯電話には、外部記憶装置を使うという概念がなくて、写真や電話帳は携帯電話本体に記憶されていたから、まあ、僕の携帯電話の全部のデータが飛んでしまったわけだ。

彼女は、ものすごく動揺していたけれど、そもそも僕の携帯電話にはほとんど写真も電話帳も登録されていなかったので、実害はほぼ0だった。
「いや、全然だいじょうぶだから」って笑ったんだけど、彼女はそれを僕の「やさしさ」みたいに捉えているようで、ずっと謝っている。全然そんなんじゃないのに。

あれから15年以上経つのに、彼女はまだ「人の携帯を初期化するなんて、まったくわたしはなにをしているのか」って自分を嘆いていた。

当時は、ちょっともうそういうのがよくわからなくなるくらい忙しかったから、しかたないよ。
いまなお連絡が途切れることなく、会って、飲んで、笑い話になってるんだから、むしろ「失敗」ですらないよ、と思った。


そんなそんな。