シャドーピッチング

人よりも左右の概念を理解するのが遅かった、と思う。

箸を持つほうが右、茶碗を持つほうが左、という一般的な覚え方がいつまでも理解できなかった。

仕方がないので、子供なりに考えて「野球のボールを投げる動作をして、スムーズなほうが右」と覚えていた。

左右が分からなくなると、周りにばれないようにシャドーピッチングをして「おお、こっちが右か」と確かめていた。

そんな左右に無頓着な子供だったので、物心がついてからもずっと、靴を左右逆に履いても気にしなかった……というか、気づいていなかった。

そんなことを思い出して、なんとなくスニーカーを左右逆に履いてみる。

当たり前だけれど、ものすごい違和感で、子供の頃はこれをものともしていなかったのか、と感心する。

足の形が出来上がりきってなかったから、今ほど違和感がなかったのだろうか。

あるいは、今よりもおおらかだったのかもしれない。

靴を左右逆に履いても気にしない僕は、どこに行ってしまったのだろう。

本当は今だってばれないようにシャドーピッチングで確認する毎日だ。

右も左もまるでわからない。

そんなそんな。