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五行歌集『ストライプ』(市井社)のあとがき

自費出版みたいな、共同出版みたいな曖昧な形で出した五行歌集『ストライプ』(市井社 2004 共著 絶版)のあとがきを、ここに残しておこうと思う。
これを書いた16年後に、初めての商業出版本となる『猫のいる家に帰りたい』(辰巳出版)を出すことになったのだけれど、気持ちとしては、このあとがきの気持ちに近いから、残したいと思ったのだ。

多分、缶けりの「缶」を作ったのだと思う

 缶けりが好きだった。

 公園に友達が数人集まれば、やることは缶けりと決まっていた。
 手頃な缶を見つけてきて、じゃんけんでオニを決める。缶けりは、オニではない人が缶をカッコーンと思い切り蹴り上げるところからはじまる。このはじまり方が、なんだかとても好きだ。

 僕は木の枝やクモの巣、土や泥にまみれながら、オニが「さすがにここには……」という場所にあえて隠れる。誰かが見つかって捕まると、僕は今では考えられないような使命感に駆られる。

「あいつを救うのは俺だ」

 オニが缶から離れるのを、息を潜めて待つ。自分と缶との距離、オニと缶との距離、自分の足の速さ、オニの足の速さ、自分の体勢、オニの体勢などを考えて考えて……(このときの緊張感と昂揚感は、ちょっと他の何かには例えようがない)「今だ!」と駆け出す。

 オニは飛び出してきた僕に気づき、「しまった!」という顔で踵を返す。僕は「もう遅い」と、多分少し笑いながら、思い切り缶を蹴る。捕まっていた仲間が弾けるように逃げる。

 「かくれんぼ」に「缶」という道具が加わっただけで、こんなにも動的で、戦略性に富み、興奮できる遊びに変わる。

 僕はつまり、多分、缶けりの缶を作ったのだ、と思う。
 一年をかけて丁寧に作り上げた『ストライプ』という缶を、惜しげもなくカッコーンと青い空に蹴り上げて、そこからがはじまりなのだ。
 かくれんぼに缶が加わって、劇的におもしろくなったように、僕に『ストライプ』が加わって、(劇的に、とまではいかなくても)僕自身がおもしろくなればいい、と思う。

 あわよくば僕以外の人にも『ストライプ』という缶によって、缶けりのおもしろさに気づいてもらえたら、なんてことを少々夢見がちに思いつつ。


そんなそんな。