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My Eyes Adored You 〜幼き日の約束〜/ #リュクスなクリスマス


遠い昔の子供の頃の約束なんて、覚えてるわけがない?

今でもあの時のことを鮮明に思い出すことができるなんて、恥ずかしくて言葉にはできないけれど、私はずっと覚えているよ。


「 もしも覚えていてくれたら、10年後、あの橋の上で待っててくれないかな? 今度こそ、マリが来てほしい。10年後のクリスマス、あの橋の上で待ち合わせよう。その時僕は君にプロポーズするよ 」


毎日一緒に通った道。幼稚園の頃からそれは余りにも自然なことすぎて、周りの友達から揶揄われてもちっとも恥ずかしくなかったし、かえって離れている方がおかしな感じだった。幼い頃から二人の間だけの「結婚ごっこ」は秘密の遊びだった。

だからあの時、友達からあなたのことを好きだって相談されて、私は心の中で狼狽えてもそれを顔には出せなかった。イヤだって言えなかったの。

それは私が小学5年生、あなたは一つ上の6年生の冬だった。もうすぐクリスマス。友達のみっちゃんが言ったの。

「 カズくんにクリスマスプレゼント渡したいんだけど、手伝ってくれない?マリはカズくんと家が近くていつも一緒に通ってるよね。」

「 え?・・・手伝うって、どうすればいいの?」

「 25日、帰り道の橋の上で待っててほしいって、伝えてよ。驚かせたいから私のことは内緒よ。マリちゃん、この通り、一生のお願い!」

手を合わせて拝まれた。みっちゃんの一生のお願い・・・。

断ればよかったんだよね。でもあの時ようやくはっきりと自分の心に気づいた私は、戸惑う隙をつかれたようにみっちゃんの勢いと気概に押されてしまったの。


そしてとうとうその日がやってきた。いつものようにカズくんと並んで登校する朝、ドキドキしながら私は隣にいるカズくんの顔を見ずに言った。正確に言えば見ることができなかったのだけれど。


「 カズくん、今日はクリスマスだね。あのさ、帰りに橋の上で待っててくんないかな?」

「 何?どうしたの 」

カズくんが私の顔を覗き込むようにして見つめる。

近い!ドキドキする。何この感じ?焦った私はランドセルの肩ベルトをぎゅっと両手で握って慌てて話を続けた。


「 えっとね、渡したいものがあるんだ 」

「 えぇ〜、何かな?ちょっと期待しちゃうな 」

「 いやぁ、別にそんな。えっとぉ、まぁよろしく。とにかく待ってて!」


私たちはまるで仲のいいきょうだいみたいだった。いつも一緒にいたし、カズくんにはなんでも相談できた。学校の勉強でわからないところは全部カズくんに教わった。鉄棒の逆上がりも縄跳びの二重跳びも、バスケのルールもクロールの息継ぎの仕方も、全部カズくんが教えてくれた。カズくんは周りの誰より心が優しくて、友達と喧嘩したり言い争っているところを見たことがなかった。私の方が気が強くて、カズくんの代わりに年上の男の子と喧嘩したこともあったけど、後でカズくんに優しく叱られた。マリ、だめだよ。人には優しくね。そう言って困った顔をした。強気で向こうみずでわがままな私に、カズくんはいつも優しかった。


「 マリ、重いだろ?持ってあげるよ 」

帰り道、一年生の私が半べそで荷物を抱えていると、カズくんは私の重たいカバンを持ってくれた。「 "結婚ごっこ" だよ。マリは僕のお嫁さんだから荷物は僕が持つよ 」そう言って私の荷物を持って家の前まで送り届けてくれた。そして「 じゃあね、また明日!」って帰っていく。次の角を曲がった先にあるカズくんの家に。

当たり前すぎてわからなかったの。ずっと一緒にいられると思ってた。みっちゃんがいくらカズくんのことを好きでも、私とカズくんの仲は変わらない。だから大丈夫だと思ってた。


クリスマス。約束の日の帰り道。橋の上で待っていたのは私じゃなくてみっちゃんだった。

驚いたカズくんはどんな気持ちだったんだろう。次の日の朝、言われた言葉が私の心に引っ掻き傷を作って今でも治らない。

「 なんでみっちゃんなの? なんでマリじゃないの? 僕はマリが来てくれると思ってたよ 」

それまで見たことがないような悲しそうな顔でカズくんは言った。

素直じゃない私はごめんなさいの一言が言えなくて、なぜだかみっちゃんの援護をしていた。心にもないことなのに。

それからカズくんが卒業するまでの3ヶ月間で私たちは自然と離れてしまった。


卒業式の日、私は勇気を振り絞ってカズくんにおめでとうを言った。

すると思いがけない言葉が返ってきたの。

「 僕、引っ越しするんだ。中学からはさよならだね。ずっと一緒にいられると思ってたけど。だから思い切って言うよ 」

「 なに?」

「 ずっと、憧れてたんだ。僕はマリのことを。気が強くて素直じゃないけど、僕の大切な人だよ。これからもずっと。そして、もしも覚えていてくれたら、10年後、あの橋の上で待っててくれないかな?今度こそ、マリが来てほしい。10年後のクリスマス、あの橋の上で待ち合わせよう。その時僕は君にプロポーズするよ 」

嬉しいくせに言葉が出なかった。こんなに好きなのに、私の方がずっとずっと大好きなのに、なにが「 憧れてた 」なのよ。そんなの嘘だよ、信じられるわけないよ。憧れてたのは私の方よ。" 結婚ごっこ " はとても楽しかったし、今でも二人だけの秘密なの。

私はただ頬を伝い流れる涙に気づかないフリをしてうんうんと頷くことしかできなかった。カズくんはそんな不器用な私の頭をくしゅくしゅと優しく撫でてくれた。


明日はその10年後。あれから10年が経ったよ。

私は21歳。カズくんは22歳だね。どんなステキな青年になったんだろう。そしてあの約束を覚えているだろうか。私は一日だって忘れたことはないよ。あの時、本当はみっちゃんじゃなくて私が行きたかったんだもの。プレゼントだって本当はひと月も前から用意してたのに。カズくんに似合うペールブルーのマフラー。私が初めて挑戦した手編みのマフラーだったんだよ。引っ越しの日にやっと渡せた3ヶ月遅れのクリスマスプレゼント。お別れの涙を隠すようにカズくんは顔が半分隠れるほどぐるぐる巻きにして「 大切にするよ 」って言ってくれたね。

手も触れたことがなかったけれど、ずっとずっと私の憧れだった。あなたは私の気持ちに気づいていたのかな。今では確かめようもないけれど。

来てくれるかな?  覚えてるかな?  私はずっと覚えてるよ。一日だって忘れたことはなかったよ。あの時本当は私が行きたかったあの場所。

今度こそ、会えるといいな。


〜fin〜


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フランキー・ヴァリの歌う『My Eyes Adored You』は、藤井風くんが「一目惚れ」ならぬ「一聴き惚れ」をしてカバーしたと言われる名曲です。切なさが胸に迫るピアノの旋律、優しく語りかけるような歌声……

その歌詞の内容は、ある男性が幼い頃から一緒にいて憧れていた女性に対する想いをしたためた切ないラブソング。もしこれが、実は女性の方も自分ひとりの片想いだと思っていたとしたら?

そう考えた途端、目の前に現れた妄想列車・・・

ぜひこの楽曲を聴きながら読んでいただくと嬉しいです。

今夜はみなさんにステキなクリスマスが訪れていますように。

Merry Christmas✨

今年もリュクスな仲間たちとのクリスマス企画に参加できて嬉しいです。来年もどうぞよろしく!

(これは余談ですが、彼の名前を本当は ”カズくん” じゃなくて ”カゼくん” にしたかったというのはここだけの話😘ワハハw 妄想が過ぎる)


#リュクスなクリスマス #藤井風 #妄想小説  

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