(短編)バイフューエルポエムは本当に存在するのか?

 
 
「さあ」
 君はそうしてすました態度で、何度でも死線を潜り抜けてきた兵士が見え見えの地雷を処理するような顔をぼくに向ける。ぼくはきっと、鶏がとうもころしを食っているような顔をしているような気がする。
 とうもころし。あれ、とうろもこし? とうころもし?
 
 暗転。
 
 脳髄が何も感じなくなってから世界が横滑り断層みたいにゆっくりはっきりしっぽりとしけこんだあと、終わりの大地震が来てそこで確かに一度世界は終了したはずだった。いや、完了? 完結? いずれにしても、これから先の時系列に世界という概念は存在せず、あとは文字化けの空間が広がっている荒野がいたるところに、そこかしこに、縦横無尽に密集している。建設途中の情報塔が、錆びていく文化会館が、読み取ろうと思えばそこにある程度の概念が膠着していた。
「これなに」
「少なくとも珍百景ではない」
「茶化さないで」
「よく言うよ、存在がジョークのくせに」
「ジョークグッズじゃなくて?」
「淑女がそんなこと言っちゃいけないの」
「淑女とは限らないじゃない」
 爆散した人間の肉片かと見まごうほどの情熱だけで意思疎通をしているので、ぼくはあまりにも良心の呵責に耐えられずにことばが崩壊しかかかって全力少年。
「たいへんだ、だんだん意味が通らなくなってきている」
「VPNの設定があっていないんじゃないの?」
「そうかも」
 
 明転。
 
 月の光がぼんやりと輝いている。ここまで平穏で、星ひとつも見えないような曇りきった心地よい夜空に彼女は座っている。それはいつものフォーマットで、当たり前のように手入れされきっていない黒髪が揺れている。
「吸血鬼が活動するには少し物足りないんだけど」
「でもぼくはこれくらいの夜が好きだ」
「私のことは好きじゃないの」
「だからぼくはこれくらいの夜が好きだ」
「食べちゃうよ」
 彼女の長くとがった牙が、じろりとものほしそうにこちらを見つめていて、ぼくは相手が吸血鬼だとわかっているのにほんの少しだけ劣情を催した。そのもったりとした一重まぶたが、物憂げに見えるようにゆっくりとぼくを狙っている。この一瞬のために生きてきたのだ、などという錯覚を起こせるほど愚鈍で幸福な思考を持ち合わせてはいない。無意味にもほどがある。
「全部偽物だとしたら」
「それは、燃やしてしまいましょう」
 
 融けてひとつになれるのは、せいぜい金属くらいだということを、中学の理科も知らなそうな彼女はやっぱり理解していなかったのだった。ぼくがこうして言葉を持つことができるのも、感覚がなくなっても運命が正しくても世界が滅びていてもただひとり残って語り続けていられるのは、そのおかげだったといえる。はくちはちきゅうをすくう。
 
(明転部分から再度繰り返したのち、終了)


おすしを~~~~~よこせ!!!!!!!!おすしをよこせ!!!!!!!よこせ~~~~~~!!!!!!!おすしを~~~~~~~~~!!!!!!!!!!よこせ~~~~!