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「GIRLOVER」著:にゃんしー(デスポリンキー食堂)

 少女純文学小説集と銘打たれた、「XXXXには何が書いてあるのかわからない」「チガヱ」の二編を収録した作品である。
 先に書いておくが、ぼくは今までにゃんしー氏の作品をいくつか読んでいる。その中でも本作はいずれも、それぞれ別の側面においてにゃんしー純文学の現時点における最高傑作ではないかと考えている。それほどまでにこの2作は強靱である。いずれも少女を主人公としているがかれらの取り巻く環境が本人の自覚以上に苛烈であるという点が共通している。これはそういった意味でにゃんしー文学の共通点を示しながら、その実前者はもっともわかりやすい形で、後者は非常にマニアックな形でそれを表現しているというきらいがあるように感じる。
 「XXXXには何が書いてあるのかわからない」は、氏が群像新人賞に提出した作品で、四次選考まで通過している。言い換えれば最終選考の手前で落選となったものだ。ぼくはこの作品がまだ推敲段階だったものを実は読ませていただいている(おそらく冒頭のスペシャルサンクスにぼくの名前が載っているのはそのためであろう)のだが、よくぞここまで、というくらいにブラッシュアップされていて、そこにも非常に驚いた。当時それを読んだときには恥ずかしながら文字通り「何が書かれているのかわからない」状態であった。そしてわからないということそれ自体すらあまりよくわかっていない状態で、正直にそう書いた記憶がある。少なくとも、完全体ではないということを感じた。しかし、ぼくが予想した完全体のはるか上をいったものを完全体として仕上げてきていて、氏の仕上げの強さを感じた。これを間近で感じることが出来たのはぼくにとって大きかったと思う。
 作品の紹介。主人公は韓国人のハナという少女だ。ハナは韓国語で「一」という意味らしい。この作品は数字の持つ意味のウェイトが非常に多くを占めている。ハナが日本の尼崎にやってきて、そこでホームレス同然に暮らしているふたりの中年男性、モモとセンに出会う。解説するまでもないとは思うがあえて書くと、モモは「百」、センは「千」を意味する。この3人と、途中から登場するレイという少女が主要の登場人物であり、それらがある年のWBCの決勝戦の様子と重ね合わせながら物語として進行していく。この作品は氏はストーリーテラーとしての能力が高いと思わせるものでもあって、この2つの線が融合しないまま並行して進んでいき、かつ、お互いがお互いに関連しており最後につながっていくという流れを、こちらに整理させることなくすっきりと読ませている。この力が非常に強い。また、ハナの語りの文体が癖がありつつも読みやすく(下読み時から大幅に読みやすくなったと思われる)、現実と非現実がその境界線をあいまいにしたまま混じり合ってはなしが進んでいくところが妙に心地がいい。これこそ、にゃんしー氏の純文学としての持ち球を余すところなく使った作品であるとぼくは考える。先発で5イニングまで無得点で無事好投しきったようなイメージだ。
 あくまでぼく個人の感覚であるが、純文学を読んできた中で、少なくとも構成力や表現力、メッセージ性の強さに関しては芥川賞作品にも引けを取らないと考えている。さらにはっきりいってしまえば、なぜ最終選考に残らなかったのかが不思議でならないし、おそらくはぼくが思っているようなこととは全く別の理由でそうなってしまったのであろうと思わざるをえないくらいだ。


 そしてカップリングの「チガヱ」はそれとは全く異なるタイプの小説である。閉鎖された寒村で過ごす四人の男女が物語が進行していくにつれそれぞれ「大人になる」はなしであるとぼくは読んだ。ぼくと氏は書き手としてほぼすべてが明確に異なると常々感じているが、仮に小説を書く上で舞台を設定する場合、もしかするとこの閉鎖された寒村というものは選ぶかもしれないと少し思った。実際、ぼくが今書いているものの中には似たような舞台設定のものもある。しかし、ぼくが仮に書くならば、主人公であるチガヱの保護者であるところの世界を視点とするか、もしくはその寒村の異物である農業高校の一生徒を主人公として書くかだろう、と考えてしまった。ここでは氏のある種特化した描写力が存分に生かされている。投球でいえば先ほどの「XXXX」とはほぼ逆の、9イニングに現れて凄まじい投球リズムで三者凡退にしとめる抑えといったイメージだ。破壊力とスピードがこちらもにゃんしー氏自体の持ち味をフルに生かした作りとなっている。この作品のあらすじは、なんというか語るだけ無駄だなという気しかしないので割愛する。読んでいただければこのことばの意味がわかるのではないかと思う。


 繰り返すが、この小説群はいずれもにゃんしー純文学の頂点に君臨しているものだろうとぼくは思う。もし、あなたが純文学を読みたい、それも極端に尖ったものを読みたいと欲するならば、この作品はジャストフィットであろう。そういった確かなパワーが、この作品には内包されている。

おすしを~~~~~よこせ!!!!!!!!おすしをよこせ!!!!!!!よこせ~~~~~~!!!!!!!おすしを~~~~~~~~~!!!!!!!!!!よこせ~~~~!