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「紅のシニストラ」深海いわし(雨の庭)

 先回ご紹介した「蒼のデクストラ」の対となる、赤いものをモチーフにした短編集。「蒼」のあと、できれば週末までに、と思って寝る前にちょっと読もうと思ったら全部読んでしまったので今これを書いている。装丁も色彩も対でありながら、根底の文体には通観するものもいくつかある。
 「蒼のデクストラ」でも感じたことであるが、氏の短編は非常に特徴的な部分がひとつある。それは、最初の1ページにおける「ストーリーの加速」がすさまじいということである。初速が著しく速い。本作でもほぼすべてがトップスピードからストーリーが展開されていて、さながら富士急ハイランドの「ドドンパ」を思い出した。とはいえぼくは絶叫マシーンが苦手で、出て行くところを見ただけだったのだが。


 「蒼」が比較的落ち着いていて退廃的な雰囲気を帯びたものが多かったのに対し、本作は対照的に、ひとびと(もしくは、それに類するいきもの)に宿る刹那の生命力を感じるようなものが多かった。それはまさに燃え上がる炎のようで、なるほど、意識的か無意識的か、いずれにしてもこの「蒼」と「紅」の対比は見事と言わざるを得ない。どちらも同時にお求めして、同時に読んでみることを勧めたいと思う。


 氏の初速は、おそらく氏が想像している(作品の)世界へ読み手を早く連れて行ってあげたい、という思いからくるのかもしれない。だとするならば、これほどまでに熱心に自らの世界へ誘ってくる書き手をぼくはまだ知らなかったことになる。それでいて、面食らわないのはなぜだろう。そこに、深海いわし氏の「ちから」が隠されているような気がするが、ぼくはまだそれを言葉にすることができないでいる。
 氏の代表作はかなりの長編とお見受けする。もし、お目通りがかなう日が来るのであれば、是非読んでみたいと思った。

おすしを~~~~~よこせ!!!!!!!!おすしをよこせ!!!!!!!よこせ~~~~~~!!!!!!!おすしを~~~~~~~~~!!!!!!!!!!よこせ~~~~!