見出し画像

チェッカーズの勝手に10選〜武内享氏作曲編

(前記)
チェッカーズで作曲を主に担当していたのは、武内享さん、大土井裕二さん、鶴久政治さん、藤井尚之さんである。トリビアっぽい話であるが、藤井郁弥さん、徳永義也さんも一曲ずつ作品が存在し、作曲が無いのは高杢禎彦さんだけである。
そんな4人の作曲メンバーであるが、やはりそれぞれの個性や、コード進行の手グセみたいな事やら、各々の得意分野、ルーツもあり、各々に雰囲気の違いはある。
そこで、この4人の楽曲の作曲者別に勝手に10選をする。
先ずはリーダーで、チェッカーズというバンドを作った武内享さんから、勝手に10選を始める。

・恋のレッツダンス
デビューシングル"ギザギザパートの子守唄"のカップリング。アマチュア時代からの定番曲であり武内享さんの作詞作曲により"Let's dance"の題名で歌われていた。メジャーの発売にあたり、売野雅勇さんの作詞となったが、その内容はアマチュア時代の歌詞を踏襲したものであり、アマチュア版もなかなか洒落た、50'Sの雰囲気感満載の歌詞だ。作詞のクレジットを売野雅勇・武内享としても良い位である。
編曲も芹澤廣明氏となってはいるが、曲もアマチュア時代からほぼ変わらず、テンポはアマチュア時代の方が幾分早いが、実にゴキゲンなロックンロールで、間奏で突然チャールストンになり、その後の盛り上がり、転調なども、ほぼそのままで、これもまた、編曲のクレジットはチェッカーズ・芹澤廣明でよいのでは?と思ってしまう。
しかし、こんな曲を10代のアマチュアバンドがオリジナルで演っていたとはチェッカーズの凄さに感服しかない。

・チェッカーズのX'mas song
シングル"ジュリアに傷心"のカップリング。作詞は藤井郁弥さんだ。ジョンレノンを崇拝する享さんだけに"HAPPY X'MAS(WAR IS OVER)"の雰囲気も宿る。
実にシンプルだ。リバーブの効いたアコースティックギター、郁弥さんの澄んだボーカルと、実にストレートなクリスマスの幸せなカップルを描いた歌詞、間奏における尚之さんのサックスも実にシンプルに奏でられる。
この曲を、春やら夏やら秋やらには聴かない。
当たり前の事だが、クリスマスソングだ。クリスマスシーズンにリピートして聴く。そんな時に実に、そのシンプルさが胸に刺さるのだ。

・おまえが嫌いだ
シングル"OH!!POPSTAR"のカップリング。
元々は、もっとおとなしいデモであったが、この時期のチェッカーズは、アイドルという虚像と本来の姿のズレ、もうオリジナルで独立し、勝負したい、などのかなりな葛藤があった時期で、郁弥さんの名題名"おまえが嫌いだ"の勢いにのって、反抗心を絶好のスパイスに、この名パンクが生まれた。
ライブでも非常に盛り上がる名曲。特筆すべきは郁弥さんの名フレーズ"お前が嫌いだ"だろう。筆者もフラストレーションが溜まった際には、未だにお世話になっている、実に痛快なパンクロックだ。実に気持ちが良い。

・時のK-city
アルバム"FLOWER"に収録。作詞は藤井郁弥さんだが、リードボーカルは鶴久政治さんである。シンプルなコードで奏でられ、構成もシンプルであるがメロディラインが絶品である。
歌詞のK-cityは出身である(ちなみに裕二さんだけは異なるが)久留米市を指し、精神的、日常的に、故郷と決別をし、思い出を振り返りながら、バイバイ、先に進むよ、といったニュアンスを最小限のフレーズで組み合わせ、見事に表現している。
淡々と政治さんがハイトーンで歌い上げるのも胸に刺さるものがある。
偶然、筆者も久留米市ではないが、出身の頭文字がK-cityであり、現在は遠く離れた東京に住んでいるため、聴くたびに、すごくシンパシーを感じる。

・ONE NIGHT GIGOLO
チェッカーズ16枚目のシングル。メンバープロデュースとしては4枚目だ。尚之さんのサックスと、ピアノが絡め合う名イントロで、イントロの時点から既にこの曲の色気を予言させる。前奏のサックスのリフ、享さんのカッティング、裕二さんのベースが絡みが実にセクシーな雰囲気だ。
孤独な男が一夜のメイクラブで寂しさを紛らわす様な、まあ身勝手なGIGOLOを表現した歌詞だが、郁弥さんのボーカルを通すと、ひとつのダンディズムみたいなものまで感じてしまう。間奏は一旦色っぽいジャジーな雰囲気から、リフに戻り、という流れ。
全体的に、セクシーな大人のロック。実にカッコいい名曲。サックスリフの傑作のひとつでもあり、曲全体に、享さんのカッティングが光る。

・IT'S ALRIGHT
アルバム"SEVEN HEAVEN"に収録。作詞は郁弥さんで、リードボーカルは高杢さんだ。
ジョンレノンの"whatever gets you thru the night"を彷彿させる、疾走感溢れる勢いのあるロックナンバー。踊る様な尚之さんのサックス。勢いと明るさの中に、一滴の切なさを垂らした様なグルーヴ感溢れる曲である。
そんなオケに郁弥さんの作詞が4題にわけられ、Life is like a〜すなわち、人生は〜みたいなもんだ、と4つの視点から構成され、メッセージ性も強く、これが見事に胸に突き刺さる。間奏のメンバーによる、掛け合いもかっこいい。
ライブの定番曲で、間奏のボーカル人と楽器陣がフォーメーションで踊るのが最高にクールだった。これは筆者にとってフェイバリットな曲の一つで、気分が浮かない時にはピッタリの曲である。いや、これは歌い継がれて頂きたい名曲です。

・LOVE SONG
アルバム"SEVEN HEAVEN"に収録。作詞は藤井郁弥さん。享さん史上最強の、題名そのもののラブソングである。アルペジオと共に優しく始まり、シンプルに静寂なAメロを経て、Bメロで一段盛り上がり、コーラスを経て更にサビは盛り上がり、尚之さんのサックスも重なり、世界観がぐっと広がりを見せる。
歌詞は、恋愛が始まり、ある程度時間を経て、過去を思い出しながら、これまでに感謝し、そして、これからにもリスペクトを込め感謝をする、という郁弥さんのさすがの詩だ。
ラストのサビ後の尚之さんのサックスが奏でるフレーズは最高に美しく、カッコいい名フレーズだ。郁弥さんの呟くメッセージもクール。
この曲に関しては、もっと評価が高くても良いのでは、と思う。

・HELLO
シングル"さよならをもう一度"のカップリング。作詞は藤井郁弥さん。
16ビートの、あまり抑揚が激しくないソリッドかつシンプルなのが非常に心地よい楽曲である。この曲の構成が実に見事というか、Aメロ、Bメロ、サビ、間奏からのラップを一通り突き進むのみ、なのである。この構成が、このシンプルな曲を退屈させない魅力になっている。
享さんのカッティングが冴え渡り、曲に安定感、重厚感をもたらす裕二さんのベース、この曲にはテナーではなく、アルトが一番ハマる事を熟知してリフとアドリブが気持ちよく交差する尚之さんのサックス。
歌詞はナンパからの切ないMAKE LOVEに至る歌詞。郁弥さんが、時に語りかける様に、澄み渡って歌うと実に物語のワンシーンの様な爽やかな色気が漂う。
特筆すべきは後半の郁弥さんによる後半のラップだ。クレジットにラップの歌詞はなく、聴き取りにくい部分が多々あるが、結果として藤井郁弥さんの声が楽器になって曲に溶け込んで、時に一瞬聞こえるワードだけで見事に世界観を作り出している。チェッカーズの”グルーヴ”を見せつけた名曲だ。

・HOW'RE YOU DOING GUYS?
アルバム”I have a dream”に収録。作詞は藤井郁弥さん。ボ・ディドリーリズムをチェッカーズらしく演るとこうなるという様な独特のリズムを持つ曲。
筆者の見解ではあるが、Aメロのバッキングはアコースティックギター、Bメロからエレキギターに変わる様に聴こえるが、それが曲に大きなメリハリをつけている。安定した裕二さんのベース、暴れまわりながらも土台をキープするクロベエさんのドラム、遊び心満点な尚之さんのサックス。
歌詞は、奥手な男の子たちの背中を押すような歌詞。郁弥さんらしい言い回しで、実に曲にマッチしている。郁弥さんの雄叫び、少しプレスリーっぽい歌い方が実にかっこよく調和している。
遊び心が満ち溢れる、チェッカーズの音楽を象徴する名曲だ。
当時、何かのタイアップになっていたが、…忘れてしまった。


・90'S S.D.R.
アルバム”I have a dream"に収録。作詞は藤井郁弥さん。出だしはハウスっぽく、尚之さんと東京スカパラダイスオーケストラのメンバーによる怒涛のホーンセッション、享さんのギターが加わると、R&Bのエッセンスも加わる。
そしてAメロ、郁弥さんの歌が始まると、打ち込みのドラムと裕二さんのベースに、おかず程度にスカスカの弾きすぎない、享さんのカッティングのみで進行するが、Bメロになるやホーンセッションも復活、サビに入るとピアノまで参入し、またハウス的な雰囲気もさらに加わる。享さんのワウの効いたカッティングも重要なファクターだ。
間奏はしばし打ち込みのみの静寂の後、ホーン隊のアドリブ合戦、その勢いのままに2回目のサビへ、そしてこの曲の大きな見せ場、郁弥さんのラップが入るが実にクールだ。そしてサビのままエンディングへ。
歌詞は、90's S.D.R.すなわち90年代のSEX、DRUG &ROCK`N ROLLであるが、バブル期終焉、クールな人々が集っていたクラブが輝いていた最盛期の独特な雰囲気、時代を凝縮した様なメタファーとも取れる。
幾つものジャンル、カテゴリーの良いところを融合させ、見事にチェッカーズの唯一無二のダンスミュージックを完成させた。
実に端的なトリビアであるが、息子がこの曲を大好きだ、と言ってくれた時に自信が確信に変わった。

(後記)
今回、武内享さん作曲の勝手に10選をやったわけだが、こんなに難しい作業だと思っていなかった。好きな曲だけ10曲集めれば、などと、単純に考えていたが、様々な理由で全部好きで、思い入れのある曲達だから、たった10曲を選ぶのが、こんなに難しいとは。
享さんの作る曲は実に幅が広く、遊び心満点の曲、名バラード、多くの楽曲を振り返って、改めてそのポテンシャルを確信した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?